自治体職員のテレワークを
「Azure Virtual Desktop」で実現

高齢化が進む現在では、さまざまな事情で役所へ行くことが難しい高齢者に対していかに行政サービスを提供していくかが課題になっている。その解決方法の一つとなるのが、自治体職員のテレワークだ。場所を問わない勤務の実現によって、自治体職員が高齢者の家を訪問して行政サービスを提供することが可能になる。今回は、マイクロソフトが提供する仮想デスクトップサービス「Azure Virtual Desktop」によってテレワークを実現した北海道石狩市を取材した。

北海道石狩市

札幌市の北側に隣接する人口5万7,146人(2024年10月末時点)の都市。北海道の中でも温暖で四季の変化に富み、台風の影響も極めて少ない。市を流れる一級河川「石狩川」が市名の由来で、石狩川の河口付近には100年以上の歴史を誇る「石狩灯台」がある。サケの身のぶつ切りとあら、野菜をみそで煮込んだ「石狩鍋」発祥の地としても知られる。

自治体にも浸透するテレワーク

 一般企業だけでなく、自治体にもテレワークが浸透している。北海道石狩市もテレワークを導入している自治体であり、その背景にはコロナ禍があるという。「コロナ禍の際に、市民に市役所へ来てもらって行政サービスを提供するだけでなく、職員が市民を尋ねて行政サービスを提供するニーズが生まれました。加えて職員が在宅勤務を行いたいというニーズも生まれたため、役所のインフラ環境を見直してテレワークの導入を進めていくこと決めました」(石狩市 総務部 DX推進課 菅原太樹氏)

 しかし環境を整えていく中で、コスト面の問題をはじめとした課題が出てきたという。そうした中で2024年5月31日のデジタル庁主催の会見にて、自治体ネットワークにおける三層分離をやめてゼロトラストアーキテクチャの考え方を導入する方針が示された。そういったネットワークの運用方針の見直しに合わせて、石狩市がより良いテレワーク環境を構築するために新たに候補として挙げた仮想デスクトップサービスが「Azure Virtual Desktop」だ。

運用管理の負荷軽減を実現

 Azure Virtual Desktopとは、マイクロソフトが提供するクラウドベースの仮想デスクトップサービスだ。菅原氏は、テレワーク環境の整備に当たってAzure Virtual Desktopを選定した理由を次のように話す。「市役所の業務は事務仕事が大半を占めており、決まったソフトウェアを使って同じルーティンの仕事をすることが多いです。そうした中で、現在は職員にPCを配布して仕事をしてもらっています。しかし、PCの運用管理に関わるコストが結構かかっていました。加えて自治体は人事異動が多いので、毎年全体の2割程度は職員の入れ替わりが発生しています。そうした異動に伴うデバイスの運用コストも結構かかっていました。これらのコスト面の負担をどうにかしたいと思った時に、Azure Virtual Desktopで集中管理をした方が効率良く管理が行えるのではないかと考え、採用を決めました」

 現在はDX推進に関する部署をはじめ、企業連携・企業誘致を行う企画系の部署、一般企業とのやりとりが多い観光系の部署といった外勤が多い部署からスモールスタートでAzure Virtual Desktopの活用を始めているという。リモートデスクトップで接続し、普段使用しているソフトウェアなどが問題なく使えているため、現時点で職員から疑問や不安の声が挙がることはないそうだ。

 続けて菅原氏は、Azure Virtual Desktopの導入によって得られたメリットをこう語る。「管理部門としては、デバイスの運用管理が非常に楽になったことが大きなメリットです。職員のデバイスに適用するパターンをいくつか用意しておけば、従来よりも手間なくキッティング作業が行えるようになりました。人事異動に伴う大幅な職員の入れ替わりがあっても、職員が使う端末に行う作業が大幅に減り、作業負荷が少なくなりました」

 さらに、メリットを享受しているのは管理部門だけではないという。「デバイスを使う職員も、配属された場所が変わってもネットワークがつながれば同じ端末でスムーズに業務を開始可能なので、その点は大きなメリットですね」(菅原氏)

場所を問わない業務遂行を目指す

 今後はAzure Virtual Desktopの活用範囲を広げ、高いセキュリティ対策が必要なマイナンバーを取り扱う部署でもテレワークの実現を目指していくという。「自治体の業務システムは今、パブリッククラウドへの移行が進んでいます。そのため自庁内にある物理端末から業務システムにアクセスするのではなく、Azure Virtual Desktopで利用者のデスクトップ環境もクラウドに移行し、クラウドtoクラウドで業務を進められるよう整備していきたいです。そうすることで、セキュアなネットワーク環境さえあれば場所を選ばずに業務システムを利用可能な状態を実現していきます」(菅原氏)

 北海道石狩市が場所を選ばない業務環境の実現を目指すことには、大きく二つの理由がある。まず一つ目は、北海道が高齢化率や過疎といった課題の先進地域であるためだ。その中でも石狩市は2005年10月1日に厚田村・浜益村と合併した関係で、市内に高齢者率の高い過疎集落を抱えている。そのため独居の高齢者に向けて、行政サービスを提供できる環境づくりが求められているのだ。

 二つ目は、市役所職員の人手不足だ。現在も職員が市民を尋ねて行政サービスを提供する機会があるものの、各部署の職員がバラバラに尋ねてそれぞれのサービスを提供している。しかし人材の確保が難しくなっていることから、今後は1人の職員がまとめて複数の行政サービスを提供することが求められている。その実現のためには、デバイスさえあれば場所を問わず、市役所のさまざまな業務システムにアクセス可能な環境の構築が必要になるのだ。

 菅原氏は最後に、今後の庁内業務の発展に向けた展望を次のように話した。「業務システムや行政が持っている情報をクラウドへ移行し、活用できる状況を作っていきたいです。今後もAzure Virtual Desktopによって場所を選ばない業務環境を構築し、市民に対して柔軟に行政サービスを提供していきます」