特定の音を強調する技術を採用
相手の声が集中的に聞こえる集音器

freecle「able aid」

今月のガジェットは「“耳のピント”を合わせる」がコンセプトのワイヤレス集音器「aible aid」だ。集音器は音が聞こえにくくなっている耳を助けてくれるデバイスだ。創業者の「祖母を助けたい」という思いから誕生した本デバイスは、これまでの集音器とは一線を画したfreecle独自開発の音声テクノロジーを搭載している。海外ではヒアラブルデバイスという言葉で、新たな市場を生み出しているable aidには、どのような可能性とビジネスチャンスがあるのだろうか。
text by 森村恵一

特定方向以外のノイズをカット

 able aidのプロダクトマネージャーであり、freecle CEOを務める久保聡介氏は、日本補聴器工業会の「JapanTrak 2018 調査報告(自己申告の難聴者率)」や日本老年医学会の「日本老年医学会雑誌51巻1号2014年(高齢者の難聴)」などをもとに「国内の難聴者は約1,430万人で、日本人の約10人に1人にあたります。その中でも、65歳以上が58%を占めています。加齢に伴う難聴は、ただ耳が聞こえにくくなるだけでなく、認知症の最大要因とも言われており、軽視できない社会問題となっています」とランセット委員会の調査結果をもとに課題を提起する。

 一般的に、高齢になって音が聞き取りにくくなると補聴器の利用を思いつく。しかし、その補聴器にはいくつかの課題があると久保氏は指摘する。「able aidの開発のきっかけが、祖母の難聴でした。父が高価な補聴器を祖母にプレゼントしたのですが、騒がしい場所で使うと、耳に入ってくる音声がうるさくて使いにくいと言われたようです。そこで、父と祖母からの要望を踏まえ、補聴器に代わる集音器の開発に取り組むことにしました」と説明する。

 補聴器と集音器の違いは、音の集め方にある。補聴器は1対1の会話であれば、相手の声を聞き取りやすくしてくれるが、耳に届く音を大きくすることで聞こえやすくしているため、騒がしい場所で使うと、雑音など周囲の環境音まで大音量で聞こえてしまう。また、補聴器は平均で30万円ほどの費用がかかり高額だ。freecleの試算によれば、60歳で難聴になり補聴器を使い始め、25年間使ったとして約150万円のコストがかかるという。さらに、補聴器の調整には専門の店舗での対応が必要になり、その手間も補聴器の利用を遠ざける一因となっている。こうした課題を解決するために、able aidが誕生した。

 able aidは左右に2個ずつ、合計で4個の無指向性マイクを搭載し、特定の方向以外からのノイズを最大で99%カットする技術を採用している。人が発話している方向を特定するために、4個のマイクに届く音波の時間差を解析することで、特定の音を強調するテクノロジーを独自に開発。その結果、騒がしい場所でも前方にいる相手の声だけを強調して集音する「コミュニケーションフォーカス」機能の開発に成功し、世界6カ国で特許を申請している。また、自分の声の拡散を抑制する「マイボイスキャンセリング」や、周囲の騒音を軽減する「ノイズキャンセリング」、不快な耳鳴り音を抑える「ハウリングキャンセリング」など、各種の音響制御機能も装備しており、本体のボタンでこれらの機能を容易に切り替えられる。

 able aidは、4万3,780円で販売されており、高額な補聴器に比べて10分の1ほどの価格で導入できる。低価格ながら、国内の工場で製造されており、音質にこだわったチップや部品を採用することで、ワイヤレスイヤホンとして音楽鑑賞にも使える。able aidの動作時間は、使う機能によって差があるが、音楽鑑賞や通話であれば6.5~10時間の連続利用が可能だ。

左側には音量調節ボタンや、再生・停止ボタンを配置。押すとクリック感があり操作性が高い。
右側には電源ボタンがあり、電源を入れるとランプが光る。視認性が良く電源の切り忘れも防げる。

スマホと組み合わせた提案も可能

 外耳や中耳の損傷や炎症といった病気、ストレス性による突発性難聴などを除けば、難聴の主要な要因は加齢にある。加齢による聴力低下への不安を抱えているユーザーに向けて、聴力を調べたり、聞こえ方を最適化したりできるスマートフォンアプリ「able EQ」も提供している。

 able EQで聴力テストを行えば、利用者に合わせた個別の音声チューニングができる。able EQは、Androidスマートフォンのほか、iPhoneでも市販のイヤホンを使った聴力テストができ、このテストを行えば聴力に不安を感じるユーザーが、able aidを利用した方がいいか判断できる。able aid購入前にはぜひ活用したいアプリだ。

 able aidのようなヒアラブルデバイスは、一般的にはコンシューマー向けの商材と捉えられがちだ。実際のところ、補聴器を法人需要で販売するケースは少ない。しかし、able aidであれば既成概念にとらわれない、新たなビジネスチャンスも期待できる。例えば、介護施設へのセールスだ。able aidは、医療機器のように販売の制約がないので、特別な資格や専門家の助けを借りなくても、提案・提供が可能になる。また、able aidを活用するためには、able EQの利用も必須なので、スマートフォンを組み合わせた商材提案も可能だ。製品の写真からも分かるように、able aidは社内で耳に着けていても、補聴器ではなくワイヤレスイヤホンを装着して仕事をしているようなスタイルを実現できる。長髪な人であれば髪で隠せるサイズなので、外から見ても装着感が気にならない。

 freecleでは、今後もable aidの関連製品や進化モデルを開発していく計画がある。ヒアラブルデバイスを通した高齢化社会の課題解決を新たなビジネスチャンスにする機会も増えていくだろう。

専用アプリ「able EQ」で左右それぞれの聞こえ方を調べられる。聴力を調べるだけならaible aid以外のイヤホンでも利用できる。