チャットコミュニケーションが
家庭と学校の学びをシームレスにつなぐ
Case:鹿児島大学教育学部附属小学校
GIGAスクール構想によって多くの教育現場で1人1台の端末環境が整備された一方で、その活用は学校内にとどまっているケースが少なくない。そうした中、鹿児島大学教育学部附属小学校では家庭にChromebookを持ち帰り、家庭学習で児童同士の協働学習を実現している。その学びの姿と、児童の主体性に任せた運用を実現できる情報教育について、話を聞いた。
家庭と学校をシームレスにつなぐ
鹿児島大学教育学部附属小学校では、GIGAスクール構想以前から、2020年に実施がスタートする新しい学習指導要領に対応するためICT教育に力を入れていた。iPadとWindows端末を合計60台ほど導入し、端末を学校内で共有しながら授業でタブレット端末を活用した学びに取り組んでいたのだ。また、グーグルの教育現場向けグループウェア「Google Workspace for Education」(当時の名称は「G suite for Education」)を活用し、クラウドを活用した学習環境の構築を進めていた。
そうした環境の中、GIGAスクール構想により共有型でなく、生徒1人につき1台の端末を整備することが求められるようになった。またコロナ禍の後押しもあり、同校ではこれまで以上に急速なICT環境整備が進められた。そこで導入されたのがASUS Japanが提供するコンバーチブルタイプChromebook「ASUS Chromebook Flip C214」だ。2021年3月に導入され、学習の中で積極的に活用されている。もともとデータの管理にはGoogle Workspace for Educationを使用していたため、従来使用してた端末とOSが異なることによる大きな混乱はなかった。
同校で算数の授業を担当する教諭の三宅倖平氏は「起動の速さに驚きました。もともと使っていたGoogle Workspace for Educationのアカウントと相性も良く、非常に使いやすい端末です」とChromebookを評価する。現在鹿児島大学教育学部附属小学校ではChromebookを授業だけでなく、家庭に持ち帰り家庭学習にも活用するなど、教室にとどまらないICT教育を実践している。
「例えば算数の授業では、時々授業の最後に次の授業に向けた課題を出します。課題と言っても、数式のような絶対解のある問題ではなく、『家の中にある三角形を探してみよう』といったものです。子供たちはChromebookを家に持ち帰り、カメラ機能を活用して三角形のものを撮影するなどして、見つけたものを報告します」と三宅氏。
こうした家庭学習の中で特徴的なのが、チャットツール「Google Chat」を利用した児童同士の学び合いが行われている点だ。三宅氏は多様な答えを導き出せる課題を設定するため、課題に対して「僕はこう考えた!」「私はこう思った」「どうやってそれ考えたの?」「もっと違う考え方あるかな」といった協働的な学びを、家庭に居ながらにして行えるのだ。チャット上のコミュニケーションを三宅氏も閲覧しているが発言はせず、基本的に児童の主体性に任せている。
吹奏楽の練習にWeb会議を活用
三宅氏は「Chromebookを導入する以前も、こうしたそれぞれに考えさせる家庭学習は行っていました。しかし、授業の前にその課題を提出してもらって、そこで全ての回答を把握することは困難です。チャットでの学び合いができるようになったことで、授業の前に児童の回答が確認できるだけでなく、その内容をもとに『AくんとBさんを学び合わせてみよう』『授業でこんな題材を取り扱ってみよう』といった授業作りにつなげられるようになりました」と語る。授業の導入を家庭学習で行えるようになったことで、授業ではさらに深い内容を学ぶシームレスな反転学習のスタイルが、チャットツールにより活発に行えるようになっているのだ。
授業以外での多様な活用も行われている。例えば同校の吹奏楽部では、コロナ禍により長い間、部活に取り組めない事態に陥っていた。そうしたときにChromebookでWeb会議ツール「Google Meet」を活用し、リモートでの吹奏楽の練習を実施したのだ。「合奏などは通信のラグにより音がずれてしまうため行っていませんが、6年生が下級生に対して、指使いをGoogle Meetで教えたり、楽譜を見ながらリズムの取り方を教えたりといった活用を行っていました。リモートながら子供たち同士で教え合うことで、人間関係も深まったようです」と同校で音楽を指導する教諭 渡邊健二氏は振り返った。
同校の自由なICT活用を支えているのが、朝の学習の時間に設けているICT活用タイムだ。年間のカリキュラムを作成して、タイピングや情報モラルを学んできた。そのおかげか、ベネッセコーポレーションが提供するデジタル・情報活用検定「Pプラス ジュニア」をモニター校として受験したところ、同校の児童たちは全国でトップレベルの情報活用能力を持つことが分かったという。一方で「情報モラルの項目は全国平均を上回っているものの、少々低い結果でした」と三宅氏。2年目となる2022年度の活用では、より良い端末活用の使い方を確立し、子供たちの学びにさらに生かしていく年にしたいと力強く語ってくれた。