マシンのIoT化が24時間無人ジム運営を実現
-Sports Tech- HGプランニング
コロナ禍でさまざまな業種がビジネスの仕方を変化させている。その一つにフィットネスクラブなどの運動施設がある。密閉・密集・密接の“3密”を防ぐため、デジタルを活用した非接触の仕組みを導入するケースが増えてきているのだ。
コロナで生じた営業課題
HGプランニングが運営する「STUDIO TRIVE」は、グループフィットネス「LesMills」に特化したフィットネス施設だ。クラブのような本格的な音響と照明を備えたLesMills専用のスタジオで、脂肪燃焼や筋力アップの運動、ダンスやヨガなどさまざまなプログラムを体験できる。2017年に大阪府の本町駅近くにオープンした本施設だが、2020年初頭から見舞われた新型コロナウイルス感染拡大により、利用者が減少するなど営業に課題を抱えていた。そこでHGプランニングは新たに、STUDIO TRIVEと同じビルの別フロアにマシンジムエリア「GYM TRIVE」を設置した。
GYM TRIVEをオープンした理由についてHGプランニング Studio/Gym TRIVE マネージャー 山根敦史氏は「スタジオはいわゆる“密”になりやすい環境で、利用者が減少するなど営業に限界を感じていました。そこでフィットネスを楽しめる層を新たに獲得するために、GYM TRIVEをオープンしました。密を避けたい利用者のニーズに対応するため、ソニーグループが開発した運動施設のマシンをIoT化するソリューション『Advagym』を導入し、24時間の無人営業を行っています」と話す。
Advagymはもともとヨーロッパで販売がスタートした製品で、センサーをストレングスマシンに取り付けることで、回数(レップ数)をカウントする。実施したトレーニング内容は利用者のスマートフォンアプリに送信され、ログを蓄積できる。
売上が5~6倍に向上
GYM TRIVEは、Advagymを日本で初めて導入した施設だ。その導入理由について山根氏は「ジムをオープンする際、会費以外の売上を確保したいと考えました。もともとSTUDIO TRIVEではパーソナルトレーニングのサービスも提供しており、ジムマシンの会費利用料以外の売上をこのパーソナルトレーニングで確保することを狙いました」と話す。
一方で、コロナ禍の中では前述した通り多くの人が“密”を避けるため、人と人との接触を減らしている。フィットネスジムやスタジオでも、そうした非接触ニーズに応える必要があった。
そのニーズに応えるのに、Advagymは最適な製品だった。マシンの使い方などはアプリ上に動画が用意されており、利用者は自分のスマートフォンを利用して、使い方を確認できる。またアプリ上に目的別や強度別の運動プログラムが用意されているため、利用者はアプリを見ながら運動に取り組める。そのため、掃除やパーソナルトレーニングでスタッフが滞在する以外は、ほぼ無人で営業できているという。
「実際、非接触で利用できることに安心するという声もあったようです。スタジオのみで運営していた頃と比較して、売上も5~6倍に向上しており、Advagymを利用することのメリットは大きいですね」と山根氏。今後はAdvagymのアプリのプッシュ通知機能を活用し、利用者に対する個別の案内などが行えるようサービスを強化していきたい考えだ。
マシントレーニングのデータ化は
利用者と運営者双方にメリットを生む
-Sports Tech- ソニーグループ「Advagym」
運動の効果を上げるためには、その記録を取ることが重要だ。しかし、紙とペンによる記録では煩雑で長続きしないケースもある。そうした利用者視点の問題意識から生まれたIoTソリューションが「Advagym」だ。
紙とペンの記録をアプリに
ソニーグループが提供する運動施設のマシンをIoT化するソリューションであるAdvagymは、もともとヨーロッパで誕生した。その製品についてのインタビューに、Sony Europe ADVAGYM CMO/Head of Sales NAM/APAC Jonas Olsson氏がスウェーデンのルンドにあるソニー・ヨーロッパのオフィスからリモートで対応してくれた。
Olsson氏はAdvagymの開発の経緯について「理由は二つあります。一つ目はジムでワークアウトを行った際、ストレングスマシンで何キロのウエイトを持ち上げたかといった負荷やレップ数を記録するためには、紙とペンが必要で煩雑だと感じていました。二つ目に、私がもともとソニーモバイルコミュニケーションズのメンバーだったことがあります。前述したジムでのワークアウト管理を、紙とペンによるものからモバイルにうまくリプレースできないか、とアイデアを膨らませていました」と話す。
Olsson氏自身が語ったポイントは、ジムの利用者が感じる課題と言っていいだろう。一方で、ジムの運営者側も新しくジムの会員になったメンバーの30%以上が解約してしまうことや、せっかくメンバーになってもトレーニング結果が可視化されず、効果があるのか分からないといった課題を抱えていた。そこで、トレーニングによるプログレス(進展)をスマートフォンのアプリで可視化させることで、ジム利用者と運営者側、双方の課題を解決できるのではないかと開発されたのが、Advagymなのだ。
Advagymはスマートフォンアプリと、スマートフォンをタップするパック、ストレングスマシンのウエイトを持ち上げた回数をカウントするセンサー、トレーニングプログラムなどをアプリに送信するビーコンで構成されている。ジム利用者は、利用したいストレングスマシンに装着されているパックにスマートフォンをかざしてワークアウトをスタートすれば、ウエイトに取り付けられたセンサーが上下運動をもとに、回数をカウントしてくれる。このデータは利用者のスマートフォンアプリにBluetooth経由で送信されるほか、Wi-Fi経由でクラウドにアップロードされ、施設の運営者側が一元的にマシンの稼働状況を確認できる。
コーチングツールにも活用
Advagymのアプリ上では、利用者のトレーニング履歴や、成長の様子が可視化できる。また利用者は、パックにタップすることで、そのトレーニングマシンを使ってどういったワークアウトが可能になるかを映像で視聴して、実際に試すことが可能だ。
これらのアプリの記録を基に、コーチングツールとして使うことも有効だ。「欧米ではパーソナルトレーナーによるトレーニングがメジャーです。しかし、パーソナルトレーナーとの契約は高額で二の足を踏んでいる利用者は少なくありません。Advagymのアプリでは、フロアにいる利用者に『このトレーニングをやってください』とトレーニングメニューを送信したり、記録された回数などの情報を基に、コーチとコミュニケーションをとったりするような活用が可能です。パーソナルトレーナーの簡易版のような活用が可能となり、利用者は正しいトレーニングが行えるようになるのです」とOlsson氏。
このアプリによるコーチングを経験した利用者は、より自身に最適化されたトレーニングを行いたいとパーソナルトレーニングに契約するケースもある。施設運営者側は、これまで高額でパーソナルトレーニングの契約に二の足を踏んでいた利用者を、パーソナルトレーニングにアップセルでき、顧客単価の向上につなげられるのだ。
古いマシンもIoT化できる
Advagymはセンサーをウエイトに載せるだけでマシンをIoT化できるため、これまで施設で利用してきた古いマシンのデータが取得できる点も運営者にとってメリットが大きい。またストレングスマシンだけでなく、ランニングマシンやフィットネスバイクのようなカーディオマシンのデータもAdvagym上で一元的に管理できる。カーディオマシンはクラウドやローカル(本体)に利用者の消費カロリーや走行距離などを保持しているため、カーディオマシンにパックを取り付けることで、Advagym側にデータを収集できるようになるのだという。
Advagymはグローバルで展開をしており、比率を見るとヨーロッパが約50~60%、米国で約40%、APECで約10%の割合だ。この割合の違いは製品リリース時期も関係しており、ヨーロッパでは3年前、米国では約2年半前、APECでは日本が最も早く約1年半前にリリースされたという。
導入の傾向として、スコットランドやオーストラリアなどの海外のジムでは、Advagymの活用からパーソナルトレーナーへの契約に誘導する事例が多い。ジムの規模は多様だが、オーストラリアなどは大規模なジムでの導入傾向が強いという。一方で日本国内では小規模なジムでの導入傾向が強く、特に24時間運営のジムで非接触での運営を行いたいといったニーズにマッチしているようだ。
「Advagymでデータを取得できるようになることで、ジムの運営者側と利用者側が双方向のコミュニケーションを円滑に行えるようになります。現在はウエイトを持ち上げるストレングスマシンとカーディオマシンのデータ取得に対応していますが、将来的にはダンベルやバーベルを使ったフリーウエイトのデータ取得にも対応していきたいですね」とOlsson氏は展望を語った。