マスターレス運用で物流倉庫の省人化を実現
-Logi Tech- 日立物流
ECサイトの利用増加に伴う物流の増加などに対応するため、物流業界においてもIT化が急速に進んでいる。そうした中、スマートロジスティクスに力を入れているのが、日立物流だ。物流倉庫の省人化を目指す同社の取り組みを見ていこう。
積み下ろし作業を効率化
日立物流は国内330拠点、海外では29の国と地域に422拠点を持つ物流企業だ。物流業務にITを活用して効率化するスマートロジスティクスに力を入れており、物流DXに向けた無人搬送車の利用や、眼鏡型ウェアラブルデバイスなどの利用、作業分析ツールの活用など多様な技術を活用することで、物流のさらなるイノベーションに取り組んでいる。
その背景にあるのが、労働力不足だ。日本の労働人口の減少が叫ばれる中、物流倉庫の自動化に取り組むことで省人化を進め、運営効率の改善を図ることが物流業全体で求められている。それは日立物流も例外ではない。
そこで同社がある事業所で導入したのが、Kyoto Roboticsが提供するマスターレスデパレタイザーだ。Kyoto Roboticsのマスターレスデパレタイザーは、3Dビジョンセンサー、ロボット、ロボットハンド、コントローラーなどで構成されている。デパレタイザーとは、パレット(荷物を載せる面を持つ台)に積載されたケース(段ボールなど)を、ベルトコンベヤーに下ろす装置のことを指す。Kyoto Roboticsでは3Dビジョンセンサーによって、本来必要とされる荷物のマスター登録を不要にし、デパレタイズ業務の自動化を実現している。
日立物流ではこのマスターレスデパレタイザーを、自動倉庫からの出荷工程において、パレットからのケース積み下ろしに活用している。今回マスターレスデパレタイザーを導入した事業所では、医薬品関連の荷物を主に取り扱っている。そのため、動作スピードをやや落として運用するなど、品質に影響を与えないよう配慮している。
ケースとシートを自動識別
実際導入したことによる効果について、日立物流 ロジスティクステクノロジー部 副部長 兼 DX・イノベーション部 担当部長 櫻井崇治氏は「マスター登録が不要になったことが非常に便利ですね。過去にもはかの事業所でデパレタイザーを使っていましたが、ケースの寸法や重量の計測を手作業でやる必要があり、非常に手間が掛かっていました。それが自動化できたため、作業が効率化しました」と話す。
マスターレスデパレタイザーが導入された事業所では、ケースとパレットの間にシートが敷かれている。メッシュ状のパレットに段ボールのケースを載せると、メッシュ状の跡が残ることがあるためだ。しかし、これを通常のデパレタイザーで積み下ろしすると、パレットの上にシートだけが残ってしまう。しかし、マスターレスデパレタイザーでは3Dビジョンにより、シートを認識してデパレタイズロボットが自動的に排出してくれるという。
本事業所ではマスターレスデパレタイザー以外にも、自動倉庫による効率化を図っており、事業所内にはほとんど作業員がいない状態だ。マスターレスデパレタイザーと自動倉庫の組み合わせにより、計画物量最大時において4人分の省人化を実現できる見込みで、急激な需要の増加などにも対応できる仕組みを整えている。
「マスターレスデパレタイザーは安定して稼働しています。マスターレスで運用できることで、新規のお客さまや、新規の商品にも手間なく対応でき、効率的な倉庫運用が実現できています」と櫻井氏。
日立物流では今後も、スマートロジスティクスに取り組み、変化を続ける物流へのニーズに柔軟に応えていく。
人間の知能を再現するロボットが
倉庫の積み下ろしを効率化する
-Logi Tech- Kyoto Robotics「マスターレスデパレタイザー」
人がこれまで行ってきた荷物の積み下ろし作業を、ロボットが代替する――。その自動化の仕組みを実現できた背景には、人間の“目”と“脳”を再現した技術があった。その技術について、開発したKyoto Roboticsに話を聞いた。
3次元的に認識するその仕組み
Kyoto Roboticsは滋賀に本社を置くロボットシステム開発のスタートアップ企業だ。2000年に大学発のベンチャーとして創業した同社は、人間のように物体を認識する3次元ビジョンと、知能ロボットの技術開発において高い技術力を有している。
そんな同社が創業当時から注力しているのが、物体を3次元的に認識する技術だ。現在「3Dビジョン」という計測器に活用される本技術は、もともとは全国の車検場で、車の大きさや規格をチェックすることに用いられていた。昨今ではそれに加え物流倉庫向けの知能ロボットにも本技術を活用しており、出庫工程や荷下ろし工程、載せ替え工程などの自動化に活用されている。
そもそも3Dビジョンとはどのような計測器なのか。ハードウェアはプロジェクターとカメラで構成されており、プロジェクターが物体に対して照射したしま模様を、カメラで認識することで、3次元の座標情報を持った点(点群)を取得する。これをソフトウェア側で画像認識することで、ケースの大きさや形状を3次元的に認識し、デパレタイズロボットによる荷下ろしを可能にするシステムだ。
従来のシステムであれば、物流倉庫の作業員がケースの寸法情報を入力・登録してデパレタイズロボットを動作させる必要があったが、3Dビジョンによってケースの寸法が計測できるようになったことで、事前のケース情報を用いることなく、未知のケースを積み下ろしできるようになる。
また、同社では機械学習を用いて、多品種の段ボールケースから“箱らしさ”を学習する。これにより、パレット上にあるケース(箱)のおおよその位置が推定でき、画像処理と3次元データ処理を組み合わせることで、高い成功率で箱を認識できるという。加えて、箱を把持してからベルトコンベヤーなどに置くまでの最短ルートを計算し、経路のショートカットを作成するため、より効率的な積み下ろし作業が可能になる。
人の知能を再現した荷下ろし
こうしたロボットを、Kyoto Roboticsでは“知能ロボット”と呼ぶ。Kyoto Robotics CMO 遠藤 毅氏は「人間で例えると、3Dビジョンは“目”に当たります。箱の奥行きなども認識できます。ロボットには事前に情報を教えておらず、3Dビジョンで見て、機械学習をもとに“脳”で考えて運ぶのです」と語る。
メインで使用されるのは、荷下ろしなどの工程で活用されるデパレタイザーだ。パレット自動倉庫や入荷パレットからの荷下ろしを行う場合、その箱の寸法を事前に把握して登録することが求められるが、新規の商品や顧客の場合はその対応に手間が掛かる。しかし3Dビジョンによるマスターレスでのケース認識により、初めて荷下ろしする箱でも迅速に運べるようになるのだ。
この3Dビジョンとロボットアームを組み合わせたデパレタイザーを開発した経緯について遠藤氏は「4年ほど前、製造業の自動化は進んでいる一方で物流倉庫の自動化は進んでいないことを知りました。背景には、物流倉庫では多品種の荷物を取り扱うため、その度に箱のサイズなどを計測してマスター登録を行うのは現実的でないことがあります。そこで当社の3Dビジョンを活用し、マスターレス、ティーチングレスで、脳のように考えて自身で動くロボットがあれば、自動化が進むと考えました」と振り返る。
自動化されていない物流倉庫では、通常荷物の積み下ろしなどは人の手で行われる。非常に重労働であり、労働人口が減少傾向にある中、こうした現場の作業負担軽減は喫緊の課題だ。Kyoto Roboticsのデパレタイザーはそうした労働力不足の現場の重労働作業を自動化するツールとして最適なのだ。
多様な荷物にも即座に対応
Kyoto Roboticsのマスターレスデパレタイザーは、ケースの単載(1種類のみ)にも混載(複数混在)にも対応する。箱の上部がきちんと閉まっていないようなケースでも正しくその寸法を認識し、アームで横からデパレタイズできる。また、認識が困難なケースがあった場合は、ロボットが自動で判断してケースを少しずらす「AIずらし機能」を搭載している。一つのケースを正しく認識できることで、限りなく止まらないシステムを実現できるのだ。また、デパレタイザーロボットは、ケースの重量やサイズ、遠心力なども考慮して、ダメージを抑えた最適なスピードで運搬してくれる。
Kyoto Roboticsの3Dビジョンは、ケースのサイズ(縦・横・高さ)や重さを計測するマスター登録機としても利用できる。デパレタイズと同時に計測したマスター情報を二次活用すれば、トラックの配送予約のための体積や重量計算などを行う手間が省け、物流倉庫の作業をより効率化できる。
「実際に導入した企業さまで、3Dビジョンの情報を活用し配送トラックの手配を効率化した事例もあります。人が採寸する行為が不要になり、自動化して正しく採寸できるようになったため、輸送作業が非常に効率化されたようです。物流倉庫のDXを実現するにはある1工程だけを自動化するのではなく、データをどう活用していくかが非常に重要になりますね」と遠藤氏。
2021年4月には日立製作所の子会社となり、日立グループのロボットSI事業と共により多くの企業に物流センターへ、同社の知能ロボットシステムの普及を進めていく方針だ。もちろん他社ロボットSI企業とも連携し、今後も社会全体の効率化・最適化に向けて、物流倉庫でのロボット活用を推進していく。