音環境分析でコミュニケーションを豊かにする
話し合いを見える化する「Hylable」の事業展望【後編】

前回はハイラブルが開発したユニークなシステム「Hylable」を紹介した。Hylableは対面およびオンラインでの話し合いにおいて、参加者それぞれの発話量に着目して分析することで、誰がいつ、誰が誰の後に、どれくらいの時間話をしたのかなど、話し合いと出席者同士の関係性を見える化するシステムだ。今回はHylableを利用したビジネスについてアイデアを交わし、事業展開の可能性を探る。

文教分野での引き合いが多い
今後は企業向けに事業を展開

株式会社フィラメント
代表取締役CEO
角 勝 氏

角氏(以下、敬称略)●Hylableは話し合いにおける自身および参加者の行動改善に役立つシステムであり、すでに学校でのグループディスカッションに活用されているとのことでしたが、事業としての現状はいかがでしょうか。

水本氏(以下、敬称略)●学校や研究機関からの引き合いが非常に多く、文教分野での事業が大半を占めています。今後は企業向けの事業にも力を入れたいと考えています。

●例えば会議室にHylableを設置して、そこでのコミュニケーションを常に録音して分析します。Hylableでの分析結果から、その会議室がコミュニケーションの場として適切な環境なのかを評価するといった活用方法が考えられます。会議室を設計したり作ったりする企業と連携すれば、事業の可能性がぐっと広がると思います。

水本●ちょうど似たような事例があります。オフィスビルの開発、運営、管理を主力事業とするある企業では、オフィスでのコミュニケーションを向上させるためにさまざまな取り組みを実践しています。コミュニケーション環境を改善する前と後でHylableにより話し合いを可視化して、効果を測定するという使い方です。

コミュニケーションに必要な空気感を
オンラインで再現するのに役立つ

ハイラブル株式会社
代表取締役
博士(情報学)
水本武志 氏

●コロナ禍によって、人と直接会って話をする機会が激減しました。一方で、オンラインでのコミュニケーションは対面のそれと比較してさまざまな課題が指摘されており、その解決や対策に役立てられるのではないでしょうか。

水本●確かにオンラインでのコミュニケーションの課題に直面した企業からの問い合わせが増えています。

●対面とオンラインのコミュニケーションの大きな違いは、話し合いの場での空気感の醸成にあります。その主な要因は目線です。対面では発言している人に目線が集まり、その場の人たちが話を聞いたり、発言に対して同意あるいは否定のしぐさをしたりするなど、空気感が醸成されます。

 また発言していなくても存在感のある人、例えば上司などは無言の圧力があり、参加者はその人のしぐさ、特に目線を伺います。これも空気感を醸成する要因となります。

 こうした空気感によりほかの参加者が、あるいは上司がこういう目線でこういう表情をしているので、そろそろこれを言わなければいけない、という意思が生じます。このような空気感が何となく作られて、あるタイミングで誰かが口火を切って話を始めたりするなど、状況のコントロールを参加者が分担して行っています。

 しかしオンラインではお互いの目線や表情が把握しづらく状況のコントロールができず、空気感が醸成されません。ファシリテーターがいれば話し合いを進めることができますが、オンラインでは空気を読んでの進行管理ができず、話し合いが進みにくいという課題があります。

 Hylableは話し合いに参加する一人ひとりの発話量や発話したタイミングなどがリアルタイムに画面に表示されるので、それを互いに確認すれば誰の発言が多すぎる、誰が発言していない、などの状況に気付いてコミュニケーションをコントロールしやすくなります。オンラインで対面でのコミュニケーションのような空気感を醸成するのに、Hylableが役立つと思います。

水本●そうした使い方も面白いですね。例えば社内の会議で私が参加したときと欠席したときとで、Hylableを使って参加者一人ひとりの発話量の変化を調べたことがあります。この使い方を応用すれば、コミュニケーションを活性化させるには誰がメンバーに加わったほうがいいとか、誰と誰の相性がいいかなどを推測することができます。

 また部署の配属に利用した事例もあります。テーマを決めて話をさせて、その分析結果から例えばこの社員は話を続けられるので営業に向いているといった評価に使われています。

社員の関係性を可視化することで
組織のマネジメントに広く活用できる

Hylable による話し合いの分析結果の例
画面のように参加者一人ひとりの発話量が可視化されるほか、参加者同士の関係性や、話し合いにおけるそれぞれの役割を推測することも可能だ。

●採用時の面接にも使えそうですね。採用する側としては応募してきた人材が自社のカルチャーにフィットするか、チームになじむかを見極めたいので、インターンシップで現場を体験してもらいます。

 その期間中にほかの社員と打ち解けているか、チームのメンバーの組み合わせの観点から誰と相性がいいのかなども観察しますが、その判断は担当者の評価に頼るしかありません。Hylableを使えば実態を可視化できるので、精度が上がります。スタートアップなどの少人数の企業では採用で失敗ができませんから、Hylableへのニーズが期待できると思います。

 誰と誰の相性がいい、仲がいい、という情報は組織で埋もれやすいものです。社員同士の相性の良さを見える化することで、誰とチームを組ませれば生産性が上がるかの判断にも利用できます。また社員が辞めそうなときに相性の良い社員と組ませて引き続き活躍してもらうなど、Hylableは組織のマネジメントに広く活用できそうです。

水本●チーム編成という観点では学校でもクラス分け、班のメンバー構成で苦慮しています。角さんのお話の通り、組織のマネジメントにおいてさまざまな提案ができそうです。具体的な提案先は角さんのネットワークに期待していますので、よろしくお願いいたします。

●Hylableの事業としての広がりに大きな可能性を確信しました。これからの事業展開が楽しみですね。これからも引き続きよろしくお願いいたします。