スマートフォン、固定電話公衆電話から
自身の脳の健康状態を 無料で診断できる
〜『脳の健康チェックフリーダイヤル』(NTTコミュニケーションズ) 後編〜
「脳の健康チェックフリーダイヤル」はフリーダイヤルに電話をかけて、自身の年齢と利用当日の日付を答えるだけで、AIが脳の認知機能の変化を検知して脳の健康状態をその場で知らせるサービスだ。サービス提供開始から約2カ月間で42万件もの利用回数を記録するなど、ニーズの高さを実証した。一方で無償のサービスをどのようにマネタイズするのかが今後の課題となっている。
無償のサービスで利用を定着
高機能なサービスでマネタイズ
角氏(以下、敬称略)●「脳の健康チェックフリーダイヤル」は2022年9月21日に正式に発表されましたが、反応はいかがでしたか。
武藤氏(以下、敬称略)●ありがたいことに発表した当初からテレビなどさまざまなメディアで取り上げていただきました。うれしかったのはサービスを開始して2カ月ほどの間に42万件の利用があったことです。ここまで反響があるとは私自身も思っていませんでした。認知症が社会課題として関心が高いことを改めて認識しました。
意外だったのは認知症になる可能性が高くなる60代以降の方の利用が多いと予想していたところ、実際は40代、50代の方の利用も多かったことです。恐らく自分はまだ認知症にかかる年齢ではないけれども、手軽に利用できるのなら確認して今後に備えたいという需要が多くあるとみています。
角●今はサービスを無償で提供していますが、これだけニーズがあると分かればマネタイズへの期待が高まりますね。どのようなビジネスの展開を考えていますか。
武藤●例えばタクシー業界ではリタイア後に第二の人生で高齢の方が仕事をされています。始業前に実施されているアルコールチェックのように脳の健康チェックを実施することで、安心できるドライバーが運転していることをアピールできるのではないでしょうか。また最近はWebの接点が多いので、商取引でのリスク対策としてお客さまの脳の健康状態をチェックするという用途もあるかと思います。
すでに多くの方々に利用していただいているので、脳の健康状態をチェックしたことをきっかけとしてスポーツジムなど健康に配慮したアクションにつながるサービスや商品を紹介したり連携したりするなど、パートナーと協業できるビジネスのプラットフォームに育てていきたいと考えています。
角●例えば生命保険に加入している人が健康になるような行動や習慣を身に付けるように誘導していくことによって、結果として保険加入している人が健康でいられる確率を高めて、保険料の支払いを抑制するという仕組みの一つとして脳の健康チェックを取り入れることもできますね。
サービスを有料化することは考えていますか。シンプルな機能については無償で提供して、高付加価値なサービスについては有料化するという方法もあると思います。
武藤●その通りだと思います。ただし少なくとも2022年度は有料化しません。有料にしてしまうと、恐らく使ってもらえなくなると思うからです。フリーダイヤルを継続することで、個人の方が脳の健康チェックをするという行動を定着させたいと考えており、定着を促すためにも一定期間は無償でサービスを提供し続けていきたいです。
一方で法人向けに高付加価値なサービスを有料で提供することも検討しています。例えば高度なチェック機能を組み込んだサービスを利用したいという企業のお客さまもいらっしゃいますし、こうしたサービスを自社のサービスに組み込んで顧客に提供したいという事業者さまもいらっしゃいます。
また脳の健康チェックを利用した方からどのようなニーズが生まれるのかを把握して、そのニーズに対してビジネスを展開したいという声もあります。ですから今後は利用者の年齢別や地域別の特性などを把握して、マーケティング活動を支援するようなビジネスも展開できるのではないかと考えています。
遠くの目標と近くの目標を設定して
モチベーションを維持して成し遂げる
角●脳の健康チェックのような社内にも世の中にも取り組みの事例がない、全く新しいサービスを始めるのは、そこに顧客がいるかどうかも分からないですし、もうかるかどうかも分からないので、社内を動かしたり新規事業を認めてもらったりするのに苦労したのではないですか。
武藤●当初は妄想に妄想を重ねながら会話をしており、「新しいものを作ろうとしているけど、何かもがいているばかりという雰囲気がありました。こうなるとモチベーションを保つのがとても難しく、やり遂げるにはモチベーションを保つことが大切になります。
やはり社内で考えていても何も生まれないので、いろいろなお客さんに会って、いろいろな会話をしつつ、すぐにマネタイズできるとか、社外の認知をすぐに獲得できるというものではなかったので、何をやっていくのかを描きながら段階的に進めていきました。
ただしあまり描き過ぎてしまうと、あまりにもゴールが遠くなってしまい、またそこに到達できないとやる気もなくなってしまいます。ここまで到達するには半年以内に何をするとか、そのためにどのようなお客さんと会って、どのような会話をすべきなのかということを妄想しながら活動しました。
角●モチベーションを維持するためには、遠くの目標だけでは現実味がなく、同時に近くの目標も設定することが必要ですよね。そしてモチベーションを維持して根気よく社内を動かして新規事業を認めてもらうということですね。
武藤●社外の反響がないと社内を動かすことはできませんので、まずはサービスを立ち上げて社外に認知してもらうことを目指しました。そして認知してもらうためには無償で利用できるサービスを提供することが近道だと考えました。その次にお金をかけてもこういうことをやってみたいというお客さまに出会えれば、有償で実証実験(PoC)させていただいて事業化へ進めることができます。ここまでいければ社外にも受け入れられると思います。
まず無償サービスの開発、提供に必要な予算は、角さんにお世話になりました。社内の新規事業の創出に向けた社内新規ビジネスコンテスト「DigiCom」(デジコン)と、ビジネスアイデアを事業化する伴走型支援プログラム「BI Challenge」を通じて獲得しました。
その後、自治体と無償でのPoCや証券会社と有償でのPoCなどを経て、現在は三段目のステップという流れで事業を継続しています。
起業しているのであれば最初からマネタイズできることが前提となりますが、企業の社員として新しく事業を起こすという観点では社内を説得できれば社内のリソースを使えるので、それをうまく活用しつつ、メンバーを徐々に増やして活動の規模を広げていきました。
角●最初のメンバーは3人でしたよね。
武藤●はい、3人というのはコミュニケーションを図りやすい人数だと実感しました。4人や5人だと、会議などに誰かが不参加になったときに、内容を伝達しなければならない面倒が生じますから。最初は人数が少ない方が、うまく進めやすいと感じました。ただし1人や2人だと、心が折れやすくなってしまいます。
角●確かにスタートアップでも3人が最も適した人数だと聞きます。当社も取締役は3人なのですが、コミュニケーションがとてもしやすくてスピード感もあり、お互いにカバーもできるので、3人という数字はマジックナンバーだと思います。
「脳の健康チェックフリーダイヤル」
https://www.ntt.com/business/lp/brainhealth.html