Padを障害特性に応じた支援ツールに

児童生徒1 人につき1 台の端末整備と高速大容量なネットワーク環境を一体的に整備するGIGA スクール構想。その整備の対象には小学校、中学校、そして特別支援学校などが含まれている。今回は2013 年度からiPad を導入している鳥取県立特別支援学校の取り組みから、GIGA スクール時代の特別支援教育の様子を見ていこう。

iPadを学びの“ 支援機器” に

 鳥取県では、2013年度から県立の特別支援学校8校でiPadを導入し、学びの支援機器として活用を進めている。特別支援教育にiPadを選択した理由について、鳥取県教育委員会事務局 教育環境課 教育情報化・学校整備担当 主事 西川まりん氏は「iPadは画面拡大や音声入力、Bluetoothによるキーボードの併用など、障害者支援の学習機器として必要な機能がそろった端末でした。また当時から授業支援ソフトである『ロイロノート』など、学びに必要なアプリケーションがそろっており、児童生徒の支援機器として最適な端末でした」と振り返る。

 特別支援学校は、文部科学省において障害のある幼児や児童生徒に対して、幼稚園、小学校、中学校や高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上や生活上の困難を克服して、自律を図るために必要な知識技能を授けることを目的とした学校と定められている。そうした「障害による学習上や生活上の困難の克服」を支援するため、使われているのがiPadなのだ。

 例えば視覚障害のある児童生徒の場合、iPadで表示する文字の大きさを変更することで、見やすい状態で文字を読めるようになる。また、肢体不自由のある生徒は紙の辞書ではページをめくれない場合もあるが、iPadの辞書アプリを使えばそういった生徒でも教科の調べ学習に取り組めるのだ。「認知発達が初期段階で能動的な発声が難しい子供もいます。そうした子供に、触れると音が鳴ったり色が変わるアプリをインストールしたiPadを渡せば、自分が触れたことで何かが変化するといった外の世界とのつながりが見いだせ、認知発達の学びにも生かせます」と、鳥取県教育委員会事務局 特別支援教育課 指導担当 指導主事の勝田浩司氏は語る。

iPad は専門教科の動画チェック(左)や、書字代替(右)など、特別支援学校のさまざまな学びのシーンで活用されている。

MDMツールに求められる使いやすさ

活用を進める中で、iPadの導入台数を徐々に拡大していった鳥取県。現在は542台のiPadを学びに活用している。そうした中で1台1台のiPadを教員だけで管理することが難しくなり、2016年からはMDMツールを導入して運用管理を行っている。しかし、そのツールにはある問題があった。

「 特別支援学校の教員から、画面のUIが複雑で分かりにくいという声がありました。もちろん時間をかけて操作に習熟すれば理解できますが、ICTツールに不慣れな教員の場合、ツールにじっくり向き合うよりも端末1台1台を設定したほうが分かりやすく個別の端末管理に逆戻りしてしまう事態も発生していたのです。授業の合間でも操作が理解できるような、分かりやすいMDMツールが求められていました」と勝田氏。

 そこで2020年のツール更新に合わせたリプレース先として選ばれたのが、アイキューブドシステムズのMDMツール「CLOMO MDM」だ。2019年に教員にアンケートをとるなどして、複数社の中から最も人気が高いツールを選定したという。西川氏は「プルダウンで選べて、間違えたらすぐに戻れる使い勝手の良さが評価されました。CLOMO MDM は2020 年7 月1 日から活用をスタートしています。CLOMO MDMと合わせてセルラーモデルのiPad70 台もリプレースしました」と語る。残りのWi-FiモデルのiPadは2020年度末にリプレースを実施する予定だ。

iPad を活用した遠隔朝の会の様子。iPad を介して遠隔の子供同士のコミュニケーションも取れる。
BYOD スタイルで運用している例もある。画像は数学の解法発表の様子。

児童生徒に合せた最適な端末活用

 Wi-Fiモデルとセルラーモデルの2機種を導入している背景には、特別支援学校の学びのスタイルがある。学校外での実習や訪問学校など、校内のWi-Fiが使えない環境下でiPadを利用するシーンがあるのだ。そうした環境でも利用できるよう、一部iPad端末にセルラーモデルを選定し、Wi-Fi モデルとの使い分けを行っている。

 CLOMO MDMは、学校ごとに必要なアプリの一括インストールなどに活用されている。児童生徒の障害特性に応じた有料アプリなどは、MDMを介さずに直接利用する端末にインストールしているという。勝田氏は「特別支援学校の端末活用スタイルはさまざまで、児童生徒に合わせて運用しています。例えば、コミュニケーションツールとしてiPadを利用している生徒であれば、個人専用の端末にした方が良いのでその生徒専用で運用しますし、共有でよい場合は1台を2~3人の児童生徒で共有します。児童生徒に合わせた個別最適化の学びに向けて、端末も最適な活用を提案しています」と語る。

 このような特別支援学校における端末整備は、コロナ禍における臨時休校時にも大きな効果を発揮した。手続きを踏んで自宅にiPadを持ち帰れるようにし、ZoomやFaceTimeなどを使ったオンライン学習を実施したという。また鳥取県では2019年に分身ロボット「OriHime」を8 台整備している。OriHime は距離や身体的な問題によって行きたいところに行けない人のためのもう一つの体として、遠隔から操作してコミュニケーションを取れるロボットだ。新型コロナウイルス感染症のリスクによって登校できない児童生徒の学習を保障するため、OriHimeを活用した学びも行っているという。

 西川氏は「2020年度は、鳥取県でG Suite for Educationを導入しました。オンライン授業にはまだまだ課題もありますが、研修会や学校間とのやりとりなど教員間での活用から、G Suiteを利用した遠隔教育も徐々に拡大していきたいと考えています。タブレットを使ってもっとできることを先生方とともに考え、施策として実施していきます」と語った。