顧客層に応じた販促メディア展開を実現
–Retail Tech–
サッポロドラッグストアー
小売店の店頭で商品のプロモーションに活用されているデジタルサイネージ。動画や静止画で効果的な販売促進を実現しているが、昨今はそのコンテンツを、さらに顧客層に効果的に届けるソリューションが登場している。その実際の活用事例を見ていこう。
リアルな購買情報を販促に生かす
サッポロドラッグストアーは、北海道を中心に展開するドラッグストアチェーンだ。“北海道の「いつも」を楽しく”をコンセプトとして、2023年3月15日時点で203の店舗を展開している。
その店舗の一つ、サツドラ北8条店はサッポロドラッグストアーの旗艦店に当たる。店舗の2階、3階フロアにはサッポロドラッグストアーやサツドラホールディングスのオフィスがあり、店舗とオフィスが一体となっている。そのサツドラ北8条店で取り組んでいるのが、OMOプラットフォーム「リテールコネクト」を活用したマーケティングだ。
リテールコネクトは、サイバーエージェント、AWL、そしてサッポロドラッグストアーが共同開発したマーケティング基盤を構築・提供できるソリューションだ。企業に合わせた広告事業の創出を行える。
サッポロドラッグストアー ドラッグストア事業本部 本部長付 DX・デジタルマーケティング推進担当 山本剛司氏は「小売店はPOSレジのデータから、どういった商品がどのタイミングで売れているかというのは把握していますが、購買層のデータや、棚から手に取ったけれど買わなかった商品などは把握できません。例えば会員カードなどで情報を取得していても、母親のカードで子供が買い物をすると、それによって会員情報にひも付くペルソナに誤った設定をしてしまいます。より正確に来店者や購買動向を把握し、マーケティングに生かしたいと考えていました」と語る。
最適な動画広告を表示
サッポロドラッグストアーでは、もともと店内に防犯カメラを整備していたことから、約5年前からAWLの映像解析エンジンを活用して顧客の動線把握を行っていた。3年前からは、サイバーエージェント、AWL、サッポロドラッグストアーが共同で実証実験をスタートした。リテールコネクトはその実証実験の結果開発されたソリューションだ。
サツドラ北8条店はこのリテールコネクトを活用し、顧客層に応じた販促活動に取り組んでいる。サツドラ北8条店には、一部の商品棚上部にサイネージとWebカメラが設置されており、Webカメラが顧客の性別や年齢層などの属性情報を捉えて、最適な広告をサイネージに表示する。これらの販促メディアはリテールコネクトにおける支援メニューの第1弾の取り組みとして「Satudora InStore Ads」の名称でサツドラ店舗で活用されている。
「このWebカメラによって、来店者がどれだけ商品を手に取ったか、広告を目にして足を止めたかという情報を可視化できます。棚の前を通過した人数や属性も認識できます。店内のサイネージで動画広告を流している企業は多くありますが、特定の商品の動画や画像を流すのではなく、サイネージでどういった広告を流すことで購買率が上がるのかといったエビデンスを残したい。広告を流して来店者に適切な情報をインプットすることで購買率を上げることは、“勝ちパターン”の構築につながるでしょう」と、山本氏は語った。
中小企業でも展開しやすい
メディアとAIカメラのパッケージ
–Retail Tech–
サイバーエージェント×AWL×サッポロ
ドラッグストアー
リテールコネクト
ターゲットに的確に訴求できる広告というのはなかなか難しい。特に多様な客層が来店する店舗に掲示する広告の場合はなおさらだ。サイバーエージェントをはじめとした3社が連携して開発している「リテールコネクト」は、そうした困難を解消してくれる。
小売店のデータ分析の課題
サイバーエージェントは、「Amebaブログ」や「ABEMA」といったメディア事業、「グランブルーファンタジー」などのゲーム事業、そして1998年創業当時から提供しているインターネット広告事業などを手掛ける企業だ。そうした事業のノウハウを生かし、サッポロドラッグストアーを舞台にOMOプラットフォーム「リテールコネクト」の開発に取り組んでいる。前述した通り、本プラットフォームの開発にはAWLとサッポロドラッグストアー、サイバーエージェントの3社が共同で携わっている。
サイバーエージェント 小売DX部門統括 藤田和司氏は「当社がリテールメディアに関する取り組みに着手し始めたのは2016年ごろのことです。広告配信の仕組みやデジタルサイネージにコンテンツを流すための機材の調達などを行っており、2018〜2019年ごろから、実際に小売店の購買データや会員情報データを基にした、LINEやメールマガジンなどのプロモーションによる効果測定を行うことを検討していました。しかし、小売店を取り巻くさまざまな課題から、なかなか実施に至りませんでした。例えば購買データと会員情報データのひも付けが行えていなかったり、個人情報保護の観点からデータの扱いを変えにくかったりといった課題です。こうしたさまざまなハードルを超えることは、大手企業であれば難しくないかもしれませんが、中小企業は困難です。そこで当社では、サッポロドラッグストアーさまの店舗を活用し、中小企業でも使えるリテールメディアのパッケージを開発すべく、サッポロドラッグストアーさま、AWLさまとの実証実験をスタートしました」と語る。この実証実験および共同商品開発がスタートしたのが2020年2月のことであり、2022年3月にはこの実証研究を基に開発された前述のリテールコネクトが発表されている。
AIカメラで顧客層を分析する
リテールコネクトは、広告事業立ち上げに必要な専門知識や、マーケティング基盤の提供を通して、広告配信や効果計測、広告運用までを総合的に支援する。「実証の中で特に力を入れたのが、店頭のメディア化です。店舗にデジタルサイネージを置き、その上部にAWLさまのAIカメラエンジンを搭載したWebカメラを取り付けています。デジタルサイネージによる広告配信は特段新しさはありませんが、AIカメラの設置によってどういった年齢、性別の来店者がコンテンツを見ているか、見なかったかという情報を取得することが可能です」と藤田氏。
またサッポロドラッグストアーの店舗では購買データも活用し、どの時間帯にどのコンテンツをサイネージで流せば売り上げが上がるかといったデータも取得している。サッポロドラッグストアーの店舗は全国で203店舗展開しているが、これらのサイネージとAIカメラを組み合わせたリテールコネクトが導入されている店舗は約50店舗だ。サイネージが設置されている店舗とされていない店舗の売り上げを比較し、サイネージによる広告効果を評価している。
サイネージと組み合わせて活用されているAIカメラについて、AWLの取締役CTO 土田安紘氏は「サイネージに取り付けているカメラは汎用的なWebカメラです。もともとデジタルサイネージには、コンテンツを表示するための機器(STB)が内蔵されています。当社では『AWL Lite』というソフトウェアを提供しており、このAWL LiteをSTBで利用することで、初期導入コストをかけずに映像分析の技術を使える環境を整えています。映像はAWL Liteによってエッジ側で処理されるため、個人を特定するような情報は蓄積されません」と語る。
実際に分析した効果はどうか。「これらのサイネージを導入したのは都市型の店舗が中心で、時間帯によって客層が異なります。同じ頻度で広告を流すのではなく、例えば18時以降はサラリーマンが多く来店するため、そうした客層に対して広告を流すといったように、密度の高い広告表示を行っています」とサッポロドラッグストアーの山本剛司氏は語る。
データに基づいたPRへ
サイバーエージェントはこのリテールコネクトの仕組みを活用し、より配信効果の得られる店舗や時間帯を計算し、掲載の計画を策定するといったサポートを行っていく。「現在は店頭のメディア化をサイネージのみで行っていますが、LINE公式アカウントや小売店舗の自社アプリなどの開発や運用を含めた一気通貫のプロモーションを行うことも視野に入れています。また、中小規模の小売企業がゼロから広告を作成して配信を行うことは負担が大きいでしょう。リテールコネクトでは、導入した小売企業さまをネットワーク化し、全国規模でキャンペーンを実施可能な広告メニューの開発を支援しています。具体的には、リテールコネクトのサイネージを導入すれば、広告が何もしなくても付いてくるような仕組みですね。現在リテールコネクトは開発を進めている段階で、年内の製品化を目指しています」と藤田氏。
サイバーエージェント、AWL、サッポロドラッグストアーの3社はこれからも映像と店舗作りの両側面から、顧客の購買体験向上を目指して検証を重ねていく。