ChatGPTの登場は、社会に大きなインパクトを与えた。これまでも「AIに仕事が奪われる」といった懸念が散見されたが、ChatGPTの性能の飛躍的な進歩により危機感を抱いているビジネスパーソンも増えたのではないだろうか。実際に、キャリアに不安を抱いたり、志向も多様化したりといった時代に沿った変化が起きており、これからのキャリアには指標が必要だ。そこで、激動の時代を生き残るための、ビジネスパーソンのキャリア構築に関する書籍を紹介する。
替えがきかない人材になる
ための専門性の身につけ方
AIが急激に進化する知識基盤社会では、新たな知識の創造が価値となる。その中でビジネスパーソンは、専門知識を消費にとどめるのではなく生産し、研究していくことが大切だと筆者は指摘する。そもそも専門知識とは何か? 学問として認められているような専門知識とは体系的に構築されたものだ。自分が持つ専門知識が体系的かどうかの判断に関しては、当事者の中で知識が構造的に整理されていれば要素が組み換えられても通じると助言する。専門性を身に付けるための最初のステップとしては、自分らしい問いを立てることを推奨。そのためには探求学習が必要だ。これは近年、小学校・中学校・高等学校の学習指導要領に組み込まれたが、学んできていない大人も多い。そこで、文部科学省が示す探求学習のプロセスを提示。日常生活で湧き上がる疑問や関心、具体的な問題の採集、情報収集・整理分析、意見の表明や新たな課題提起といった発展的な活動が専門知識の創造につながる。
図解 「いいキャリア」の育て方
人生100年時代やリスキリングなどの言葉が飛び交い、キャリアへの意識や不安が高まっている。しかしキャリア構築とは曖昧で長期戦のため目標設定や道筋が適切かどうか不安だ。本書では、キャリアを枠組みや地図を使って書き出し、枠組みに沿って整理して将来ビジョンを見通すことを提案している。大枠としては、キャリアを考える時の補助ツールとして「資格」「資源」「資質」「資本」「資産」に分けた「5つの資」のフレームを用いて簡易に図解。第4章では、自身のキャリアの振り返りや転職活動時の強みとなる実績・信頼・評価に際し「Situation」(状況)「Task」(課題)「Action」(行動)「Results」(結果)の視点で整理する「STARシート」も添付した。また、キャリアにおける詰み(将棋用語で敗北確定の意)パターンとしては自社への過剰適応、悪評判の波及、専門性・技術の陳腐化などがあるという。キャリアとの向き合い方や今後予想されるリスクへのマインドセットなどを学べる。
キャリアづくりの教科書
年功序列や終身雇用など日本固有の就業形態が終焉を迎えようとする中、今後は必要な武器を身に付け自らの行き先に向かって旅をする「キャリア3.0」の時代となる。本書では、キャリア3.0を生き抜くに当たっての自身の言語化や市場価値(スキル)の把握、キャリアの選択に関わる方法論などを幅広い層に向けて解説。特に興味深いのは市場価値の把握についてだ。筆者は市場価値=希少性×市場性×再現性と定義する。その中で重要な論点として、人でなければできない領域を創造・変革・コラボレーションの三つの領域に大分。課題を設定し目的を描き出す力や事業モデル変革、多様な志向や職種を束ねる力などを挙げており、潜在的な能力拡張が今後の成長のカギとなりそうだ。4章では、単一の領域に深い専門性を持つI型人材から一定の幅広い経験に基づく能力+複数の特定領域で深い専門性を持つH型人材などキャリアの4類型のモデルを示した。キャリア構築の指標設定にお薦めの一冊。