画像生成AIってなんですか?

画像生成AIとは、命令(プロンプト)や下絵を入力すると画像を出力する人工知能のことだ。「渋谷のハチ公前に座ってパンを食べているパンダのイラスト」(現在は英単語のみ)と指示したり、手書きのイラストや写真を読み込ませて「ゴッホ風に」と指示すると、それらしいイラストや写真が出力されたりする。この1年ほどで驚くほど進化しており、イラストレーターや写真家、モデルなどの仕事がなくなってしまうのではないかと危惧されるほどだ。

だが、本書で扱っているのは、そういった近未来の話ではない。まず、現在の画像生成AIが学習に使っている既存イラストの著作権について考察している。実際にアメリカでは著作権者から画像生成AIベンダーを相手にした訴訟が起きている。

日本の著作権法では、著作権者の許諾を得なくても、ネット上に公開されている画像データをAIに学習させることが認められている。著作権法30条の4の2号で「多数の著作物を情報解析に使用するケース」では著作権が制限されることが明記されている。

画像生成AIは、学習にあたって画像データをそのまま覚えているわけではない。花井氏は「大量の画像とテキストのペアを入力して、基盤となるモデルをトレーニングしている」と解説している。トレーニングとは「大量にあるパラメータを大量のデータによって最適化する作業」であり、「データもさまざまなパラメータで表現」できる。たとえば、Stable Diffusionは20億枚以上の画像を入力することで8.9億個以上のパラメータを習得しているという。

そもそも著作権侵害とは

そもそも著作権侵害とは何だろう。一般的には他人の作品をマネした作品は模倣で、著作権を侵害していると考えられる。だが、谷氏は「『絵柄を模倣したかどうか』ではなく『生成画像が特定個人の描いたイラストと創作的な表現において似ているかどうか』です。絵柄や画風が似ていても『創作的な表現の部分は似ていない』と判断される可能性はあります」と述べている。画風が似ているから著作権侵害だとなると、たとえば、ピカソ風とかバスキア風の絵など、同じ画風の絵を描けなくなってしまう。

著作権侵害が認められるには「依拠性」(既に存在している著作物を視聴し、それに基づいて創作すること)という要件も必要だ。この条件はたまたま似てしまった作品を除外するためにある。たとえば、学校の写生大会で富士山の眺めがよい公園に行き、みんなで風景を描いたとすると、ほとんどの作品が同じように富士山を描くだろう。同じ構図、同じ天気で描かれた富士山のある風景はどれも似通ってしまう。だが、それぞれタッチや色使いは異なるはずだ。そこに依拠性はない。もし誰かが目の前の富士山を見ずに他の人の絵を覗いて、そのマネをしたなら、それは依拠性がある模写や剽窃であり、著作権を侵害しているということになる。

作品が著作権を侵害しているかどうか、依拠性と類似性があるかどうかは「さまざまな要素を総合的に考慮して行われるため、弁護士や裁判官などの法律の専門家でも判断が分かれる可能性がある難しい問題です」という。

著作権は、創造した時点から作者の死後70年間にわたって著作物の使用を独占させる、非常に強力な権利である。それだけに著作権保護は慎重にならざるをない。谷氏は「仮にこれくらい似ている作品が著作権侵害になるとした場合、ほかのイラストレーターが困ることにならないだろうか?」と考えることを提唱している。「作品の全体的な雰囲気や画風・作風が似通っていたり、同一のモチーフや構図で描かれていることのみをもって『盗作ではないか』、『パクリだ』といった批判が行われることがある」。イベントのロゴが既存作品と似ているとして炎上し、撤回に追い込まれた実例もある。意図的にパクるのはもちろんダメだが、似ているからと一方的な正義感で叩くことはかえってクリエイティブを萎縮させる。「構図が似ていることだけをもって類似性を認めてしまうと、いずれ世の中のイラストレーターはいっさい絵が描けなくなってしまうでしょう」。

なぜ生成AIは勝手に他人の著作物を学習できるのか

生成AIは、既存のデータ、文書やイラスト、写真、動画、音楽などを大量に学習する、機械学習によって成り立っている。人間も何も学習しなければ文書も絵も作れないだろう。少なくとも現在の技術では生成AIが人間の著作物なしで作品を作ることは難しい。

そこで問われるのが「なぜ生成AIは著作権者の許諾を得ずに勝手に著作物を学習しているのか」ということ。「学習はご自由に」と公開されている著作物だけを学習すれば、著作権者から訴えられる心配も無用だ。「ご自由に」ではない著作物を勝手に学習できるのは、前述のように著作権法で著作物の無許可学習が認められているからだ。

一方で、なし崩し的に不正データが学習に利用されている例もある。多くの画像生成AIが学習に使っている最大のデータソースがアメリカに本拠を持つDanbooruというサイト。ここは海外ユーザーが日本のイラスト画像を投稿・共有している。「基本的にすべての画像が無断転載」だが、詳細なタグが付けられ、画像生成AIの学習に欠かせないという。実際にアクセスしてみると鉄腕アトムからサザエさん、ラムちゃん、トトロ、竈門禰󠄀豆子まで、ありとあらゆるマンガのキャラクターが出てくる。同人誌に掲載された二次創作も多い。

画像生成AIベンダーにすれば、スクレイピング(自動データ収集)が認められ、詳細な英語タグが付けられているDanbooruのデータは学習のための宝庫なのだ。

Danbooruにはアメリカのデジタルミレニアム著作権法による権利侵害申立窓口があるが、ニャタBE氏によれば「おそらくはそういった手続きはあまり利用されません」という。「そもそもイラストって、本当にあちこちで無断転載される」、使っている人は「無断転載という意識すらないと思います」、「個人ですべてに対応するのは不可能」と述べ、諦め気味だ。

クリエイターの権利を守るには

結局、クリエイターとしてはどうすれば自分の著作権を守ることができるのか。作品をSNSやWebサイトで公開しないというのは1つの、消極的な防衛手段ではある。しかしクリエイターにとって、自分の作品を多くの人に知ってもらうことで次の仕事に繋ぐことも大事な作業だ。

「AI利用禁止」を利用目的として掲げているサイトに限定して公開するといった方法は、法的にすぐに有効とは言えないが、「訴訟リスクを恐れたAI開発企業がそのサイトをスクレイピングの対象から外す判断をする可能性があります」という。自分の作品がAI学習に利用されてしまった場合でも「作者の側からは法的請求の論拠が増える」「AI開発企業としては法的なリスクが増える」という効果はある。

もちろん法的請求には費用や時間など多大なコストがかかる。フリーランスのクリエイターや趣味で作品を作っている同人作家にとっては大きな負担だ。やむなく泣き寝入りということが多いだろう。谷氏は被害を受けたクリエイターが共同戦線を張り、集団訴訟を起こすことで一人あたりの裁判費用を抑えられるのではないかと提案している。

本書は画像生成AIによる権利侵害に悩まされている、あるいは画像生成AIをどう自分の作品に活用すればよいか試行錯誤しているクリエイター、特にイラストレーターにとって有用な情報を与えてくれるだろう。

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