全国vs四国のイノベーション対談! 「ICT」で「地方創生」を活性化!
パネルディスカッション〜DISわぁるど in 四国 たかまつ
文/二瓶朗
モデレーター
佃 昌道氏/学校法人四国高松学園 理事長、高松大学・高松短期大学 学長、かがわ情報化推進協議会 副会長
パネリスト
加藤 貴弘氏/徳島県政策創造部地方創生局 地方創生推進課 発信戦略担当 係長(リーダー)
岡村 健志氏/国立大学法人高知大学 地域連携推進センター 特任講師・地域コーディネーター(UBC)、工学博士
山崎 正人氏/国立大学法人愛媛大学 社会共創学部 特任教授、株式会社いよぎん地域経済研究センター 特別顧問
小柳津 篤氏/日本マイクロソフト株式会社 エグゼクティブアドバイザー
パネルディスカッションでは、まず登壇者による個別のプレゼンテーションが展開された。そのダイジェストをお届けしよう。
四国の地方創生を牽引する香川県の取り組み
モデレーターを務めた佃昌道氏のプレゼンは「香川における特徴的なICT利用」。香川県はICTを活用した地方創生に積極的に取り組んでおり、東京を含む大都市から引退した高齢者の地方移住を支援する「日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community)構想」を展開しているという。地方創生の取り組みにICTが不可欠であることを佃氏は強調した。
プレゼンでは続いて、ICTを活用した具体的な取り組み事例が紹介された。旧高松空港跡地を利用して産業支援機関や研究開発機関を誘致・集結させる「香川インテリジェントパーク構想」、遠隔医療を主体にした地域医療連携ネットワークである「かがわ遠隔医療ネットワーク(K-MIX)」、リアルな人間交流を促進する「情報通信交流館 e-とぴあ・かがわ」といった香川県独自の取り組みが紹介され、冒頭から会場の関心が深まっていた。
なお余談ではあるが、今回の「DISわぁるど in 四国 たかまつ」の会場「サンメッセ香川(香川県産業交流センター)」も、香川インテリジェントパークの一角にある。
徳島県の地域ブランディングに成功した「vs東京」
次にパネリストの加藤貴弘氏が徳島県の地方創生への取り組みについて、「本当に東京じゃなきゃダメ?」と印象的なタイトルを掲げてプレゼンを展開。人口や産業が東京に一極集中し続けている事実を上げつつ、2014年ごろから同県が取り組んでいる「vs東京」という地域ブランディングプロジェクトを紹介。
このプロジェクトでは、都市圏の住民に“地方の良さ”をアピールするとともに、徳島県民へ“郷土への誇り”を再確認させるコンセプトのもと、展開されたという。さらに東京からの“とくしま回帰”を促し、東京一極集中から分散型社会を実現するという第2のコンセプトも潜んでいる。特設サイトや動画を公開して大きな反響を得たとのこと。
加藤氏はこの「vs東京」を実現するための“強力な武器”こそがICTであると強調。徳島県は地デジ化をきっかけに視聴チャンネルが10チャンネルから3チャンネルに減少したが、その対策として2002年に「全県CATV構想」が発表され、2012年に整備が完了。CATV世帯普及率88.6%(日本一)の「ひかり王国・徳島」が誕生した。
全県光ブロードバンド化も実現され、その結果、コールセンターやデーターセンターの誘致が進んだほか、テレワークやフリーWi-Fiが普及。首都圏の企業がサテライトオフィスを設ける事例が増加、果ては消費者庁の移転が検討されるまでになったという。まさにICTが地方を躍進させた証拠ともいえるプレゼンに会場は沸いた。
ICTで高知県を盛り上げるKICSの活躍
パネリスト・岡村健志氏のプレゼンは高知県の取り組みについて。岡村氏は現在、高知大学にて地域連携推進センターの特任講師・地域コーディネーターを務め、地域計画やITS(高度道路交通システム)、地域情報化などにおいて産学官連携を推し進めているという。ICTを用いた道路交通問題や地域課題の解決、防災支援など多数の事例が挙がった。その中でもユニークな事例は「トンネル歩行者対策」。同県を通過することの多い“お遍路さん”が徒歩で安全にトンネルを通過するためのこの施策は、お遍路さんに高い評価を得たという。
岡村氏はさらに、高知大学が取り組んでいる「KICS(高知大学インサイド・コミュニティ・システム)」について言及。これは高知県が抱えている多種多様な地域課題を、高知大学と連携して解決しようという施策。
当初は、同県中央に大学キャンパスが集中していたため、地域との連携に難があったことから、「UBC(高知大学地域コーディネーター)」を設けた上で県内各地にUBCサテライトオフィスを開設。特任教員を常駐させることによって地域と大学の連携を高めた結果、迅速に課題を解決する手段となった。すでに高知県内35自治体中、24市町村+県との連携が報告されているという。
多種多様な取り組みで地方創生を試みる愛媛県
パネリストの山崎正人氏は、愛媛県のICT活用による地方創生についてプレゼン。愛媛県の人口は1980年代をピークに減少の一途だが、その一方で県内の各圏域には全国トップシェアを誇る産業が集積しているという。
特に製造業の製品出荷額は4.1兆円で、四国の47%を占めている(2014年度)。その産業を活かすためには解決すべきさまざまな問題が山積しているが、それらを解決するのがICTであると山崎氏は語る。たとえば就労人口を支える“結婚”の支援。愛媛県は「えひめ結婚支援センター」を2008年に開設し、少子化の原因である未婚化・晩婚化の解決を図っている。Webサイトでイベントなどの参加を募っているほか、ビッグデータを活用してオススメの相手を探す会員制のお見合い事業「愛結び」を提供。これまでに9000組のカップルを誕生させたという。
また、ICTを活用した産業振興策として、「『水産情報コミュニケーションシステム』による赤潮・魚病対策技術の開発」「遠隔農場WEBシステムと生産現場の連動」「遠隔監視型捕獲システム」といった取り組みを紹介。さらに官民共同事例として、「松山市の女性のための在宅就業支援事業」、無料オンライン講座「えひめ南予通信大学」、オープンデータを活用してさまざまな仕組みを構築する試みの「Code for DOGO(道後)」など積極的で多種多様な愛媛県の取り組みに参加者も大きな興味を寄せていた。
MSのワークスタイル変革の取り組みと東京で起こっていること
日本マイクロソフトの小柳津篤氏は、ここまでの四国4県の代表ともいえる登壇者のプレゼンを受け、「ワークスタイル変革」において今東京で何が起こっているかを解説した。
現政府が掲げる「一億総活躍社会」とは、つまり“ほとんどの国民を働かせる”ということ。だが、今の社会の枠組みでは難しい。それには働き方の多様性が必要となる。マイクロソフトは、そんな働き方の多様性を推し進めてきた。10年ほど前からはテレワークを活用し、一部の社員のある側面、具体的には産前産後、介護といった個人的な問題を助けるために仕事を切り出して自宅で行う、というスタイルに取り組んでいた。ただ、このスタイルは社会的に重要ではあるものの、本人以外に業務的なメリットは多くない。
そこで近年同社が取り組んでいるのが、より働き方の多様性を推し進めた「フレキシブルワーク」だ。現在では、モバイルやネットの普及によって全員が毎日、柔軟で多様な働き方ができる。いつでもどこでも誰とでも働くことで、仕事が効率的になり、業務のスピードアップが可能だという。もちろん、単に会社のためだけではなく、自分にとって働きやすいというメリットもある。
マイクロソフトが推進しているフレキシブルワークには、政府や他の企業も注目していて、視察も行われている。そしてフレキシブルワークはもはや企業にとっての“競争力”のひとつになりつつあるのが現実。企業は働き方の変革に目的意識を持っていて、投資することも厭わない時代になってきている。フレキシブルワークが定着することで、週に1日も出社しない人がいたり、部門ごとまるごと地方で業務にあたる、というようなケースも登場している。また、派遣社員だがオフィスに派遣されない、という業務形態もある。まさに「時空を超えた働き方」が実現しつつある。
プレゼンの中で「vs東京」というキーワードがあったが、このフレキシブルワークによって、四国のとある町が東京の一部のように存在することもあり得るのではないだろうか。言ってみれば「with東京」「@東京」という考え方。地方の人口減を下支えするために、魅力的な場所を作ったり施策したりするという考え方もあるが、働く人たちを東京に足止めするのではなく、「東京の一部としての地方」という考え方はどうか。東京に対抗するのではなく、寄り添うことで地方創生につながることがあるのではないか。
小柳津氏はそう締めくくり、プレゼンをまとめた。
地方のつながりや協働に欠かせないICTが地方創生を導く
最後に、登壇者によるディスカッションが展開された。
小柳津氏の発言を受け、加藤貴弘氏は、「そういう考えもあると思うが」と前置きした上で「やはり都会に取り込まれないように、地方はこういう強みがある、こういう売りがある、というある程度の対抗心を持つべき」と地方創生における心構えを熱弁した。
岡村健志氏も、「高知県民はなかなかアイデンティティの高い県民性で、すべての人が同意するものではないかもしれないが、働きかけ自体はすごく魅力。高知にいながら面白い仕事ができるんじゃないか、という期待が膨らむ」と話した。山崎正人氏も「個人的には小柳津さんの仰る通りだと思うが、労働力不足が続いている中小企業の多い地方では、東京の大企業で実施されているような働き方変革を急に推し進めるのは難しい面もある」と述べた。
対して小柳津氏は「たとえば四国に東京の24区目となる特区を置くようなダイナミックな取り組みを行うことで、中小企業の枠組みを超えた変革が見いだせるようになるかもしれない、と思う。それにはやはりICTを使うことは欠かせないだろう」と語った。
その後、徳島県神山町やその南に位置する美波町にICT企業が多く集まっている事例が加藤氏から紹介された。「サテライトオフィスから発展して、企業の本社が移転してきたという例もある。ICTがあれば日本のどこに拠点があってもかまわないという時代に来ていると実感している」と話した。山崎氏は「これから地方にビッグビジネスは難しいのではないか。ICTを活用した、身の回りの“問題解決型”の小ビジネスを成立させていくことが重要だと思う」と述べた。
小柳津氏はモデレーター・佃氏から四国についての感想を求められ、「自然が豊かで、独立性が高く、各県の個性が強いという印象を持った」とした。そして「日本のほかの地方とは差別化できる」という。「交通の便も決して悪くなく“地の利”もある。個性的な地方としてアピールできると思うが、現状ではやや宣伝不足ではないか」と提言。その対策として「ICTを活用したプロモーションの展開」を提案。ソーシャルメディアを含めて、小さなメディアを小さく始めることが最近のICTの特徴であるとし、「そのきっかけ作りを、自治体や行政が手助けしていけば、より効果は上がるのでは」と語った。
そして最後にモデレーター・佃氏が、「四国お遍路を切り口に、地域の歴史や文化、人との関わりを大切にしつつ、それぞれの地域がつながって協働で組織作りをしていくことで、街や人、仕事ができてくる。その“つながり”や“協働”にはICTが欠かせない」と締めくくり、パネルディスカッションは終了した。
四国4県の個性や意志の強さが見えたこのパネルディスカッション。今後、四国での地方創生にその個性とICTがどのように交わり、結果を産み出すか、また各県協働による新たなムーブメントがICTを通して見られるか、いずれにせよ楽しみなところだ。