DX × ESG SDGs
ESG/SDGsとつなげる企業のDX推進戦略
~事業活動と社会課題解決を両立するデジタル化~
企業にはDXへの取り組みがいっそう強く求められている一方で、「ESG」(環境:Environment/社会:Social/ガバナンス:Governance)や「SDGs」(持続可能な開発目標)への取り組みの外圧も強くなってきている。ESGやSDGsと聞くと環境問題への取り組みや社会課題解決への貢献といった印象を持つ人が少なくない。しかし経済成長や社員の働きがい、産業の持続、技術革新などDXとつながる取り組みも重要な役割を担う。そこで企業が経済成長と企業価値向上を両立できる、ESGやSDGsへの取り組みについてリポートする。
企業価値と利益の向上につなげる
ESG/SDGsへの取り組み方
Introduction
ESGやSDGsという言葉はよく耳にするだろう。しかしこれらがそれぞれ何を意味しているのか、どう違うのか、なぜこれらへの取り組みが必要なのかを語れる人は少ない。ここではESGやSDGsに取り組む意義やメリット、効果的な取り組み方について解説する。
開発目標にすぎないSDGsに
企業が本気で取り組む理由
SDGsとはSustainable Development Goalsの略称で、持続可能な開発目標だ。これは2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2030年に向けた国際目標で、17のゴールと169のターゲット、232の指標で構成されている。SDGsの具体的な目標やターゲットなどは総務省などがWebサイト※紹介しているので、そちらを参照してほしい。
さて、SDGsとともに語られるのがESGだ。ESGとはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)を示した言葉で、投資判断の要素である。2006年に当時の国連事務総長だったコフィー・アナン氏が金融業界に対して「責任投資原則」(PRI:Principles for Responsible Investment)を提唱し、ESGの三つの観点から投資判断することを求めたものだ。
SDGsは行動の指針は示されているものの法的な拘束力はない。ESGもまた法的な拘束力のない任意の原則である。企業がこれらを考慮せずに経営や事業活動を続けたとしても、ペナルティーを受けることはない。
しかしESGやSDGsに強い関心を示す企業や投資家、消費者が急速に増えており、経営や事業活動においてESGやSDGsを考慮することが求められるようになっている。それは新聞やニュースサイトで日々報じられる記事で、ESGやSDGsの言葉が頻繁に使われていることからも察することができるだろう。
ではなぜESGやSDGsに強い関心を持つ企業や投資家が増えているのだろうか。あずさ監査法人 KPMG サステナブルバリュー・ジャパン パートナー 芝坂佳子氏は次のように説明する。
「社会や環境の問題について、これまでは企業が社会的責任として採算を度外視して良いことをしなければならないという風潮でした。例えばCO2排出は温暖化の原因となる環境問題だと捉えられていました。ところがある時点でそれが資産価値に影響してくるという警鐘が鳴らされるようになり、金融の安定化に大きく影響することが指摘されるようになりました。こうして気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が立ち上がり、現在ではCO2の問題は財務リスクとしても認識されています。つまり社会や環境の問題への取り組みは経営リスクの回避や企業価値の向上につながる指標として認識されており、投資家が投資先を決める際、あるいは消費者が製品やサービスを選ぶ際の重要な判断基準となっているのです」(芝坂氏)
事業や財務に及ぼす影響で
ESGやSDGsへの取り組みを考える
ESGやSDGsへの取り組みは単なる社会貢献ではなく、サステナビリティ(持続可能性)への取り組みであると言い換えられる。企業におけるサステナビリティとは事業を継続して成長し続けること、あるいは新たな価値を創造して事業を拡大することにある。
このサステナビリティを向上していくには環境(E)や社会(S)に配慮、貢献することで投資家や消費者などのステークホルダーの期待に応え、企業価値を高める必要がある。芝坂氏は「企業におけるESGやSDGsへの取り組みはビジネスリスクを回避してビジネス機会を得ることだと言えます」と話す。
ところでESGとSDGsについて冒頭でそれぞれ説明したが、これらはどのように関係しているのだろうか。結論から言うとSDGsは文字通り具体的な目標である。そしてその目標を達成するためのツールあるいはプロセスがESGとなる。自社が設定したSDGsの目標に関連するESGを意識して事業や業務、経営を推進することで目標を達成するというシナリオだ。
取り組みの進め方について芝坂氏は「環境にいいから、社会にいいからとやみくもに取り組むのではなく、自社の事業が環境や社会にどのような影響を及ぼしているのか、それらの中で財務上の影響を受ける要素は何かを、時間軸(短期、中期、長期)を含めて見極めます。こうしてリスクとその影響を把握することで、SDGsのどの目標に取り組むべきか、どの目標から取り組みを始めるべきかが分かります。そして定めた目標を達成するためのプロセスを計画して全社的に、さらには取引先を含めたサプライチェーン全体で実行する、この一連の流れがガバナンス(G)となります。目標の設定やESGを通じた取り組みの目的はサステナビリティ、すなわち自社の成長や事業を持続可能にすることで、最終的には利益を出さなければなりません」と説明する。
ESGやSDGsへの取り組みに対して投資家が良い評価を下した場合、仮に一時的に業績が下がったり、株価が下がったりしても、中長期的な視点で投資が得られるメリットもある。ただしその際、財務情報だけでは評価してもらえない。3年後、5年後は再び成長すると投資家に予測してもらえる根拠を提示しなければならない。その際に必要となるのがデジタルである。
ソフトウェアの技術力も
企業価値の評価要素になる
自社のESGおよびSDGsへの取り組みを社外に発信するには評価に必要な要件を数値で表現して可視化する必要がある。このデータと財務情報を組み合わせてESGおよびSDGsへの取り組みの検証や評価が可能となるのだ。
ただしSDGsでは具体的な目標やターゲットが示されているものの、企業の事業活動や投資家の判断基準になじまないテーマもある。一方のESGには標準的な定義が存在しておらず、具体的にどこを評価するかは評価機関側の判断となり、共通の判断基準はないといった問題もある。
KPMG Ignition Tokyo代表取締役社長兼CEOでKPMGジャパン CDOを務める茶谷公之氏は「ESGやSDGsへの取り組みに限らず、先が読めないVUCA時代において経営には俊敏な意思決定が不可欠です。それを実現するのがデジタルです」と指摘する。
経営戦略を策定する場合、例えば映画を作るように大がかりなセットを毎回作って試すと時間もコストもかかりすぎる。変化や要求のスピードにも対応できず、資源も膨大に消費してしまう。しかしデジタルを利用すれば仮想空間でたくさんのアイデアを同時並行で短時間に、少ない資源とコストで試すことができる。
茶谷氏は「従来は資源と時間をより多く使うことで成果を得ていましたが、これからはいかに少ない資源と時間で目標を達成するか、成果を得るかが求められます。経営戦略の立て方や事業の作り方をフルデジタル化することでコストや資源を使わずに、成功まで何度もアジャイルに試せるようになります。今後は目的を明確にしたデジタル化(DX)はサステナビリティにつながり、ESGやSDGsの文脈で投資家や企業価値の評価要素になるでしょう」と語る。
さらに「多くの産業がソフトウェアドリブンになっており、ソフトウェアに関する技術力は企業価値に直結します。例えばオープンソースソフトウェアの世界で影響力を持つ技術者がいるなど、ソフトウェア技術に関する情報開示も自社の優位性を示す重要な要素になります」とアドバイスする。