今読むべき本はコレだ! おすすめビジネスブックレビュー - 第16回

職場改革する前に! 他社の成功事例をチェックするための一冊


『デジタル仕事が“ササッと終わる”アイデア満載 AI スマホ チャットでつくる働きやすい職場』日経xTECH編

働き方改革関連法の施行以来、違反企業に対する世間の目は厳しい。「職場改革の早期実行を!」と上層部から発破をかけられ焦っている管理職は多いはず。しかしやみくもに動いても実りは見込めない。まずは成功事例を知り、自社に取り入れることが可能か確認することから始めるのが定石だ。今回紹介するムックはその成功事例を丁寧に解説してくれる一冊だ。

文/成田全


失敗例ではなく、よい取り組みと多くの成功例を見て学ぶ

 2019年4月1日、時間外労働の上限規制(残業時間は月45時間まで)や、年5日の年次有給休暇取得を義務化する「働き方改革関連法」が施行された。違反した場合、内容によっては罰金、懲役という罰則を課すという厳しいものだ。すでに9月、電通が社員に違法な長時間残業をさせたとして労働基準監督署からの是正勧告があったという報道があった。2015年12月に過労から同社社員が自殺、労働基準法違反で有罪となり、長時間労働是正の改善計画を発表して対策に取り組んでいた最中の勧告だ。

 また11月には大阪府が職員の働き方改革を目的として、2020年度冬から府庁の終業時間(17時30分)の1時間後に業務用パソコンを強制終了する取り組みを始めると発表した。しかし16時30分からパソコンに警告を表示し、18時20分に再度警告、18時30分には強制的に終了(残業が必要な場合はパソコンで申請が必要)というやり方に疑問を感じた方も多いことと思う。

 一方、IT化を推進したことで業務の効率化に成功したり、商機を逃さなかった企業もある。

 チーム内コミュニケーションツール「Slack」を導入し、迅速な対応で商機を逃さなかったのがKADOKAWAだ。2019年のノーベル賞化学賞を受賞した吉野彰氏が、科学への興味の原点として書名を挙げたファラデーの『ロウソクの科学』の重版を、発言のあった日にSlackのチャンネルを立ち上げ、生産・物流・プロモーションを連携してすぐに決定、通常10営業日かかるところを2営業日に短縮し、ほぼ欠品なく書店店頭に本が並んだという。

 またIT化で業務改善を進めている渋谷区の取り組みも注目に値する。すでに公文書の決済は100%電子化してペーパーレス化を実現、会議はマイクロソフトの「Teams」で記録して、「言った、言わないなどはあり得ない」状態にしているという。また区役所に来なくても区民がサービスを受けられる「来庁者ゼロ」を目指しているというから、その先進性には驚くばかりだ。

 スマートワーク総研では、働き方改革には「仕事の効率化」を図らねばならないことをこれまで何度もお伝えしてきた。単に「残業をなくして労働時間を短縮する」だけでは、こなしていた量の仕事を終らせることは難しい。また長時間労働が日常化していて、会社の体質的に働き方を変えづらいという職場もあるだろう。しかし失敗ばかりを見て「ウチはまだマシ」と悪い習慣を続けていても埒は一向に明かないどころか、会社存続の危機を招きかねない。変わらないことで起こり得る最悪の未来については、夏野剛氏へのインタビュー「働き方改革は待ったなし! やらない企業は『滅びの道』です」をぜひご参照いただきたい。

 最悪の未来を迎えないためには他社の成功例を多く見て学ぶことが肝要だ。そこでお勧めしたいのが、雑誌「日経コンピュータ」「日経SYSTEMS」に掲載された記事を一冊にまとめたムック『デジタル仕事が“ササッと終わる”アイデア満載 AI スマホ チャットでつくる働きやすい職場』だ。

働き方の“今”を知るための最適な伴走者

 本書はビジネスチャット、AI、IT支援、スマートフォンやタブレットを導入している企業のケーススタディと、働き方改革関連法案について、テレワークやビジネスチャットの活用法などが紹介されている。中でも興味深いのが、第7部の特集「『帰りにくい雰囲気』を一掃」だ。定時に帰りにくい理由は何なのか、なぜ残業することが当然になっているのか、休みが取りづらいのはどうしてかを様々な角度から分析、テレワークやRPAなどの活用を紹介しながら、どうしたら気まずく厄介な雰囲気を一掃できるのかを指南してくれる。

 本書を通して読んでみると、働き方改革が遅々として進まない職場には「コミュニケーション」が欠けていることがとてもよくわかる。ライフシフト・ジャパンの豊田義博氏が、インタビュー「転職・起業せずとも人生を変えることはできる! 『心の騒ぎ』を見逃すな」で、「コミュニケーションインフラなどを豊かにして、リアルでなくてもいろんな形で関わり合える、いつでもどこでもフランクにコミュニケーションできたり、ちょっとしたときに思ったことが伝わるという『つながっている状態』を作ることが大切になります」と語っているように、IT技術の導入は頭の固い人たちが考えるようなディスコミュニケーションを生み出すものではなく、より円滑なコミュニケーションを行うためのツールなのだ。

 石橋を叩いて渡るような「すべての準備を整えてから導入」ではなく、各社の取り組みを参考にして「合いそうなものから今すぐ限定的に導入」してみる。上手く行けば全社で導入し、効率化しなかったのであれば別の方法を考えればいい。働きやすい職場には何が必要なのかは、走りながら考える――本書は働き方の“今”を知るための、最適な伴走者となるだろう。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!

『ゼロ円PR』(笹木郁乃 著/日経BP)

なぜエアウィーヴは浅田真央さんに選ばれたのか――? 第1号正社員として、5年で売上高115倍に貢献した著者が、ロジカルでシンプルな、セオリーとノウハウを説き明かします。満員御礼「PR塾」のエッセンスを、ぎゅっと詰めこみました。(Amazon内容紹介より)

『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル 第3版』(清水陽平 著/弘文堂)

ネット上のトラブルは、突然生じて、現実世界に想像以上の影響を与えます。個人の場合には、家族や友人、学校や職場などの現在の人間関係だけでなく、進学、就職、結婚などの未来の人間関係にまで、ダメージを与えることもあります。会社の場合には、顧客や取引先との関係の悪化、売上の減少だけでなく、事業そのものが続けられなくなることもあります。そのような大きな被害をもたらす嫌がらせの書込み・画像・動画は、どうすれば消せるでしょうか。投稿した人物は、どうすれば探し出せるでしょうか。この本は、そのようなネットトラブルから自分や会社を守る1冊です。(Amazon内容紹介より)

『いちばんやさしいキャッシュレス決済の教本 人気講師が教える新たな経済圏のビジネス』(川野祐司 著/インプレス)

現金いらずで、しかもお得であるキャッシュレス決済。いまや私たちの日常の買い物にも欠かせない支払い手段となりました。本書では、そんなキャッシュレスをビジネスに取り入れたい人や、電子マネーや仮想通貨の仕組みを知りたい人、社会や経済に及ぼす影響を考えたい人、先端技術に興味がある人など、「キャッシュレス」というキーワードにちょっとでも引っかかるすべての人が知っておくべきトピックを集め、深く丁寧に解説しています。本書でわかること:日本のキャッシュレスの現状/現金のトレンド/現金の社会的コスト/通貨の役割/キャッシュレスの種類/北欧やアジアなど世界各国の先行事例/SDGsとキャッシュレスの関係/仮想通貨と電子通貨/キャッシュレスが生み出すデータ/キャッシュレスを活用したビジネス事例 など。(Amazon内容紹介より)

『図解とQ&Aでわかる 最新 入管法と外国人雇用の法律問題解決マニュアル』(服部真和、小島彰 監修/三修社)

企業にとって外国人雇用は人材不足解消の手段として不可欠である。ただ、入管法に定める在留資格要件の不備、社会保険未加入、生活慣習や文化などの違い、などの法律問題に発展するようなケースも多い。本書では、現場で問題になっている100項目以上の問題をセレクトしてQ&A形式で平易に解説。在留手続きや採用時の届出などの書式も掲載。(Amazon内容紹介より)

『情報を儲けに変える イラスト図解 小さな会社のIoTマーケティング』(澤井雅明 著/日本実業出版社)

IoTを自社製品やサービスに活かすことができれば、業務効率化や経費削減をはじめ、新しいニーズの開拓や、それをもとにした新商品開発によって自社ビジネスが広がる可能性があります。導入の際に大切なのは、IoTを新規事業と捉えるのではなく、自社で行なってきた事業や既存商品にIoTを活用して、さらなるビジネス展開を狙うためのマーケティング戦略を立てることです。本書では、あなたの会社が目標までたどりつく道筋(ビジネスストーリー)の描き方や、それに沿った戦略(マーケティングマップ)の立て方を解説し、それぞれシートを使って描き出すことができるようになっています。(Amazon内容紹介より)

筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)

1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1600人以上を取材。『誰かが私をきらいでも』(及川眠子/KKベストセラーズ)など書籍編集も担当。