今読むべき本はコレだ! おすすめビジネスブックレビュー - 第21回
“アフターコロナ”の世界を生き抜くために不可欠なテレワークには何が必要で、何が不必要なのか?
『テレワーク大全 独自調査と徹底取材で導くアフターコロナ時代の働き方』日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ 編
政府による異例の“ハンコ不要見解”が飛び出し、テレワーク化を阻む最後の砦が崩れた日本。働き方改革をきっかけとしたテレワークの潮流は、コロナ禍を経て一層強くなるだろう。今回紹介するのは、アフターコロナ時代に移りつつある「圧」を感じながらも未だ手を付けられずにいる企業への助け舟だ。
文/成田全
3000人アンケートで浮かび上がった、コロナ禍でのテレワークの実態
「アフターコロナ」という言葉があちこちで取り上げられている。世界中で流行し、地球に住むすべての人々の日常生活を変えてしまった新型コロナウイルス(COVID-19)が収束(終息)した後、どのような社会を構築していくべきか、人間関係はどのように変わっていくのか、対面を基本とした働き方や学び方に代わるものは何かなど様々な議論が続いている。
政府による4月7日の緊急事態宣言以降、多くの企業で従業員の自宅待機が命じられ、否応なく在宅勤務が始まったという人も多いことだろう。この間に一層テレワークを推進した企業や、出社する社員が減ったことでオフィスを縮小したり移転する企業があった一方で、5月25日の緊急事態宣言解除後、部署や業務内容によって生産性が下がったことなどを理由に全社員に原則出社を呼びかける会社も出てきた。
緊急事態宣言発令中、押印のために出社したという人もいたそうだが、政府は6月に民間企業や官民の取引の契約書で押印は必ずしも必要ないという見解を示し、7月に入ってからは経済団体と共に押印が必要とされてきた制度や慣行を抜本的に見直す共同宣言を発表した。これによって日本のデジタル化を阻んでいた大きな要因であった「押印」の問題がクリアになり、社会全体のデジタル化が進むことは確実となり、テレワークの重要性も高まったといえるだろう。
では実際に、このコロナ禍で各社はどうテレワークに取り組んだのか? どんな問題が表面化したのか? 対処法はどうしたらよいのか?――こうした、今誰もが知りたいことについて、日経BPが独自に3000人へアンケートを実施し、調査結果をもとに解き明かしたのが 『テレワーク大全 独自調査と徹底取材で導くアフターコロナ時代の働き方』だ。
基本~応用まで多岐にわたる内容
本書は全6章で構成されている。
第1章の調査編では、各社がテレワークにどのように取り組んだのか、アンケートから導き出される。業種や部署、会社の規模などによってテレワークの利用率に差があり非常に興味深い。また生産性が下がったと回答した企業が6割ある一方、業務に支障はないという回答が約半数あり、多くの人がテレワークの良さと問題点に気づくきっかけとなったようだ。
第2章は導入編だ。テレワークで必要になるシステムや機器、サービスはどんなものを利用したらよいのかを指南してくれる。
第3章は活用編として、静まり返るウェブ会議やサボりの誘惑など、初めてのテレワークで多くの人が戸惑ったであろう20の問題についての傾向と対策が列記される。自宅での働き方のコツや、公私の線引きをどこにするのかなど、多岐にわたって考察されている。本書の一番の読みどころだ。
第4章の事例編では、緊急事態宣言が出される1ヶ月以上前の3月2日からいち早く原則テレワークへと移行した「さくらインターネット」や、4月17日にハンコの完全撤廃とペーパーレス化を決めた「GMOインターネットグループ」などテレワークで先行する7社の取り組みが紹介されている。ぜひ取り組みの参考としてもらいたい。
第5章は発展編として、テレワーク以外でも効果を発揮するビジネスチャットについて詳しく解説されている。「高校生じゃあるまいし、そんなものをチャラチャラやってどうなるんだ!」といった導入を拒む頭の固い上司のいる方は、説得のヒントとなるだろう。
第6章は資料編、国や自治体による助成金や支援策、様々なガイドラインへのリンクなどがまとまっている。
「コロナ以前」に戻ってはいけない
テレワークの価値はただ単に「会社などから離れたところで仕事をするためのもの」ではない。様々な効率化のため、そして時間を有効に使うことで、ストレスを軽減してのびのび働くことで、最大限に能力を発揮できる点にある。それはすべての働く人と会社全体に影響を及ぼし、売上を伸ばしたり新規事業を生み出すことにもつながる。もちろん働きやすさやワークライフバランスにも直結するので、人々の意識を変え、やがて社会全体を大きく変えていくことになる。
第4章でインタビューに答えたGMOインターネットグループの熊谷正寿会長兼社長は、こう語っている。
「人間の行動の九割は習慣です。典型例の一つが通勤ではないでしょうか」。熊谷氏はこう述べ、次のように続ける。「テレワークが身近になり、本格的に取り組むと意外にいけると気づいた。新型コロナを境に、(テレワーク普及へ)時間が一気に進むと思います」
各企業の取り組みは活発化している。カルビーは7月から本社や営業拠点で働く社員約800人に対してテレワークを原則とし、テレワークで業務に支障がないと会社が認めた場合は単身赴任を解除する働き方を導入した。また富士通は2022年度末までにオフィスの規模を現在の半分まで減らして、フレックス勤務とフリーアドレス化へ移行、約8万人の国内グループ社員はテレワーク勤務を原則として「通勤という概念をなくす」と発表した。
今回の新型コロナウイルスの流行は、これまで先送りにされていた様々な問題や、誰も疑わなかった慣例や習慣が実は無駄なのではないか、といったことを図らずもあぶり出すこととなった。今後、間違いなく「テレワークで自由に働くことができるのか否か」は会社選びの判断基準となる。近視眼的で旧態依然とした働き方を強制する会社は、いずれ淘汰されるだろう。コロナ以前の働き方に戻すことは、一番やってはいけないことだ。アフターコロナの世界を生き抜くため、そして勝ち残るためにぜひ本書を参考としてもらいたい。
まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック
次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!
『これ1冊で先が見通せる! アフターコロナ消費&キャッシュレス最新勢力図』(日経クロストレンド、日経トレンディ 編/日経BP)
政府も旗を振り、キャッシュレス決済社会への変革を進める日本。だが、国主導の消費者還元事業は2020年6月末で終了した。そのうえ新型コロナウイルスの感染拡大で、消費の先行きは見通しにくくなっている。一方で、キャッシュレス化をけん引してきた「QRコード決済サービス」事業者は、楽天を含む4つの携帯キャリア陣営に集約され、それぞれ強力な次の一手を打とうとしている。キャッシュレス決済は日本で本当に普及するのか。アフターコロナ消費のあり方はどうなるのか。徹底取材でキャッシュレスの最新動向を追うことで、アフターコロナの消費の行方を占う。(Amazon内容紹介より)
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withコロナ、5G時代に手軽に動画を発信できる入門書の決定版。iPhoneと無料アプリだけで本格的なビジネス動画を作って公開・PRできる手順を、写真とイラストで細やかに解説。機材選びから、企画・構成、撮影、編集、公開まで。つまずきやすい点に配慮した分かりやすい説明から、上級者にも満足してもらえるテクニックまで網羅しました。動画でどんなことができるのか、イラストで紹介した動画レシピ31は、プロのアイディア満載。逆引きのインデックスや充実の目次、索引で、あなたがやってみたいと思うことに迷わずアクセス! すぐに動画が作れます。(公式Webサイト紹介より)
『武器になる雑談力~どんな人とも会話が弾む「おもしろい話」のつくり方』(本間立平 著/きずな出版)
社内や社外、プライベートまで……雑談を必要とされる場面は多い。コミュニケーションが苦手と言われる日本人の実に半分は雑談が苦手だという。しかし、雑談がうまい人の会話にはある一定の法則があるのだ。誰でも雑談を楽しめるようになる「話せるメソッド」が満載!(Amazon内容紹介より)
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『「こちら秘書室」公認 接待の手土産 2020-2021』(ぐるなび「こちら秘書室」編集室 編/日本経済新聞出版)
「接待の手土産」は、ぐるなびの「こちら秘書室」が手がける手土産ガイドサイトです。毎年、接待・ビジネス使いに適した、センスのよい手みやげ約300品を実際の秘書が選んで品評し、ウェブ上で「今年の手みやげ」として発表しています。本書は、その2020年度入選品全品収録し書籍(ムック)化したもの。B5判・フルカラーで、商品の外観写真、内容量、価格、日持ち、店舗情報など基本要素のほか、渡す際のインパクトを左右する包装方法、紙袋のデザインなどもビジュアルに掲載。とくに評価の高い30点は「特選」として、前付けで大きく紹介します。(Amazon内容紹介より)
筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)
1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1600人以上を取材。『誰かが私をきらいでも』(及川眠子/KKベストセラーズ)など書籍編集も担当。