今読むべき本はコレだ! おすすめビジネスブックレビュー 第31回
テレワーク時代のリーダーに必要なコミュ力とは?
『テレワークで人を動かすリーダーのメール術 ビジネスチャットで部下を伸ばす方法』
吉田幸弘 著/秀和システム
テレワーク、在宅勤務、リモートオフィスといった新しい働き方が急速に普及している。メールやビジネスチャットを介して、部下や顧客とどうコミュニケーションを取ればいいのか、モチベーションを上げ、トラブルの芽を摘むにはどうすれば良いのか、ビジネスコミュニケーションの専門家が解説する。
文/土屋勝
部下とのメール・チャットに悩むリーダー
この原稿を書いている今はコロナウイルス感染拡大に対する3回目の緊急事態宣言が発出され、在宅勤務の活用や大型連休中の休暇取得により出勤者の7割削減が呼びかけられている。
大企業が都内のオフィスを縮小するというニュースも耳にする。コロナウイルス感染が収束しても、在宅勤務が主となる流れは変わらないだろう。
こうなると、社内や取引先とのコミュニケーションをどうするのかが大きな問題だ。これまでのように「ちょっと」「すみませんが」という対面でのやり取りは望めない。テレワークや在宅勤務の経験が浅い企業では、会社内での指示、確認、報告、管理がうまくいかないことから、メールやビジネスチャットでのやり取りに戸惑っていることもあるようだ。
感情が高ぶっているときに大事なメールを書いてはいけない
文字だけの情報によるメールやチャットは、電話や対面でのやり取りと比べて相手に表情が見えないため、本意が伝えにくく、思っていたものと違う伝わり方をしたり、人間関係を悪化させたりしがちだ。特に注意しなければいけないのは、部下がトラブルを起こし、その部下に指示をしなければならないとき。怒りの感情を持ったままメールを書くのはトラブルを増幅させる危険がある。著者は「感情的なうちはメールを書かない、送らない」ことにすべきだという。書いたとしてもいったん下書き保存し、冷静になってから読み直して送るほうが良い。感情が高ぶっている状況でメールを書くと文章がきつく、詰問調になってしまう。そんなメールを受け取っても部下は怒られたことばかりが頭に残り、改善策まで考えられなくなる。
急いでメールを送らなければならない状況でも、一口水を飲んだり、深呼吸をしたりして、落ち着きを取り戻し、クールダウンしてから文章を見直そう。
さらに重要なメールを書く前には集中モードに入るための「儀式」を行うのが有効だという。軽く体操をしたり、コーヒーを飲んだり、リラックスできる音楽を聴くなど。イチロー選手はバッターボックスに立つと、バットを垂直に立ててピッチャーのほうに向けて、左手で右肩のユニフォームをたぐるという一連の動作を行った。人それぞれで動作は異なるだろうが、自分なりにお決まりの「儀式」を行うことで、気持ちを落ち着け、リラックスできる。
「メールをチェックしない時間」が大切
部下とのやり取りだけに限らないのだが、四六時中メールの着信をチェックし、来たメールにすぐ返事を書くべきではないともいう。四六時中のメールチェックは、常に着信通知に気を取られ、本来の仕事がおろそかになってしまうからだ。また、「即返信」は「用件は何であれ、私は自分の優先事項を差し置いて、あなたの優先事項のために時間をつくっていますよと言っているようなもの」であり、仕事の主導権を相手に渡してしまうことになる。
著者は、メールチェックは1日3回までに制限したほうが、ストレスが減り、仕事の効率がアップするとアドバイスする。とは言っても立場によっては決裁など、メールチェックが遅くなると業務全体のボトルネックになってしまうこともある。メールチェックは50分に1度、10分以内とすることで、仕事に集中でき、業務全体もスムーズに回すことができるだろう。
選択肢をあらかじめ挙げておく
決まった回答が欲しいときに使えるテクニックとして、「箇条書き」にすることがある。たとえば、顧客から決まった項目での回答を欲しいとき「会社名、役職名、お名前(ふりがな)、郵便番号、住所、電話番号……」と文章内にべたに並べてしまうと、項目を見落とす可能性が高くなる。
このような場合は
・会社名
・役職名
・お名前(ふりがな)
・郵便番号
・住所
・電話番号
と箇条書きにすれば、一目瞭然、分かりやすくなる。
さらに、相手に何かを選んでもらうときは、あらかじめ3つの候補を提示し、3択にするのがいいという。「ランチ、どこに行きましょうか」ではなく「ランチは中華とイタリアンと和食、どれにしますか」という具合だ。多すぎても選べなくなってしまうため、選択肢は3つぐらいがちょうど良い。
分かりやすい指示、知っている言葉を
部下に指示をするときには、あいまいな表現は禁物だ。「今日の会議には資料を多めに用意しておいて」ではなく、「今日の会議には資料を20部用意しておいて」というように、数量、価格、締切日時などを具体的に明示することで、トラブルを防ぐことができる。
また、メールの文面では分からない言葉、使い慣れていない言葉を避けよという。もっとも分かっているつもりで誤用していると困ったことになる。本書でも著者が若いころ、社長・部長からプロジェクト責任者に任命されたとき、謙遜したつもりで「私では役不足です」と返答して、赤っ恥を書いた過去を述べている。「役不足」とは本来、「力量に比べて、役目が不相応に軽いこと」という意味で、不満を意味する言葉だ。著者は「自分では力不足」と言いたかったわけだが、まったく逆の言葉を使ってしまったのだ。言葉は時代とともに変わっていくが、正反対に近い二つの用法が同時に使われている言葉は避けたほうが良い。
ビジネス用語は、「本当に知っているものだけを使いましょう」「カタカナ語は若い部下のほうがよく知ったりすることもあるので、付け焼き刃で使うのは控えたほうがいい」という。逆に業界用語として定着しているビジネス用語、カタカナ語は堂々と使うべきだ。部下もその業界で仕事をしていくためには、業界用語を知らなければ客先との会話にもついていけなくなる。日頃からの訓練が大切だ。
ビジネスチャットも活用しよう
本書ではビジネス向けのチャットとしてLINEを紹介している。これはビジネス用のLINE WORKSのことだと思われる。
LINEはセキュリティの問題が話題になっているが、それ以上にデータがIDではなく、スマートホンそのものに紐づけられていることが大きな問題だ。SIMを差し替えると、IDとパスワードは引き継げてもトーク履歴が消えてしまう(バックアップを取っておかないといけない)ため、ビジネスにはあまり向いていないと言える。
個人用LINEは一般ユーザーやコンシューマーとのコミュニケーションツールにとどめておくべきで、ビジネスには履歴がしっかり残るSlackなどのビジネスチャットを使うのが良いだろう。
電話が普及しはじめたころ、電話でビジネスの用件をやり取りするのは不躾な行為だと言われたという。直接出向くことが一番であり、手紙が二番。今でもビジネス文例集には「誠に略儀ながら書面にてお詫びとさせていただきます」と載っているほどだ。だが今現在、メールやチャットを使わずに仕事を進めることはほとんど不可能だ。迅速で簡潔であるがゆえに相手の感情を害したり、あいまいな指示を出してしまうなど、メールやチャットはトラブルの種にもなる。本書は、新しい働き方、新しいコミュニケーションツールに悩んでいるリーダーたちにお勧めの一冊だ。
まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック
次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!
『リモートマネジメントの教科書』(武藤 久美子 著/クロスメディア・パブリッシング)
リモートワークの導入で、マネジャーが行うマネジメント業務は、さらに難しいものになっています。 リモートワーク下で、マネジャーはメンバーをどのようにマネジメントすればいいのでしょうか。著者は、リモートワークの導入が主流となる前から、様々な業界のクライアントに、本格的、先進的な働き方改革やリモートワーク導入を支援してきたコンサルタントであり、「リモートワークの達人」です。また、リモートマネジメントはマネジャーだけが頑張れば済むものではありません。本書の中では、メンバーの果たす責任や、会社や組織がマネジャーを支援するポイントについても紹介します。(Amazon内容紹介より)
『生産性と満足度が上がる テレワークマネジメント (日経BPムック) 』(日経クロステック 編/日経BP)
2020年、一気に企業にテレワークが広がりました。緊急に導入したとはいえ、待っていたのは想定外の生産性の低下です。この問題を解決するための決め手はマネジメント。テレワークを成功に導いた企業に共通するポイントや、16社の注目のテレワーク先進事例、ゼロトラストネットワーク、ビデオ会議など、テレワーク関連で知っておきたいテクノロジー&サービス、テレワークマネジメントのチェックリスト、部下がやる気をなくす上司の 「禁じ手」 など、具体的なテレワークマネジメントのコツを紹介。(Amazon内容紹介より)
『事業成長につなげるデジタルテクノロジーの教科書』(片山 智弘 著/ 大学教育出版)
新しい技術が生活やビジネスへ加速度的に浸透している。本書は、デジタルテクノロジーを活かして事業開発を行う著者が、デジタルとは何か?からデジタルテクノロジーをどう理解し活用するのか?までを解説したビジネス実践書である。身近に起きているデジタルテクノロジーの変化、デジタルテクノロジーの体験価値と測定、デジタルテクノロジーを事業にする上で重要になること、デジタルテクノロジーのマーケティングなどについて紹介する。(Amazon内容紹介より)
『見る 読む 分かる IT&デジタル 重要キーワード』(日経パソコン 編/日経BP)
今さら聞けないIT社会の常識! 知らないと困る基本&最新用語(現代ビジネスの注目語、インターネットの重要語セキュリティの必修語など)について、1語3分で、豊富な図表でわかりやすく解説します。(Amazon内容紹介より)
筆者プロフィール:土屋勝(ツチヤマサル)
1957年生まれ。大学院卒業後、友人らと編集・企画会社を設立。1986年に独立し、現在はシステム開発を手掛ける株式会社エルデ代表取締役。神奈川大学非常勤講師。主な著書に『プログラミング言語温故知新』(株式会社カットシステム)など。