リーマンショックなどをきっかけに広がったフィンテック

フィンテック(FinTech)とは、金融(ファイナンス:Finance)と技術(テクノロジー:Technology)を組み合わせた造語で、情報技術(IT)を駆使した革新的な金融商品やサービスを指します。また、これらのプロダクトを支えるテクノロジーそのもののことを表すこともあります。

フィンテックという言葉が米国で使われるようになったのは、2000年代前半のことです。その後、2008年のリーマンショックや金融危機をきっかけとして、テクノロジーやデータを活用した、より利用しやすく、効率のよい金融サービスが求められるようになりました。

そこで、インターネットやスマートフォン、クラウドサービスやビッグデータ、AIなどの情報技術を活用したサービスを低コストで迅速に提供する金融ベンチャーが、2010年代半ば以降、続々と登場しました。

これら金融ベンチャーは独自にサービスを開発して提供するほか、既存の金融機関やテクノロジー企業との協業・提携によって投資や保険、金融取引、銀行業務などのサービスを効率化・自動化し、より便利で使い勝手のよい金融サービスの提供に一役買っています。

注目が集まるフィンテックサービスの数々

フィンテックサービスの中でも近年、広く使われるようになったものとしては「バーコード(QRコード)決済」が挙げられます。そのほかにも、さまざまなフィンテックサービスが世界中で開発され、利用されています。以下にその例をいくつか紹介します。

●バーコード決済(QRコード決済)
バーコード(QRコード)の提示・読み取りにより、スマートフォンで決済できるサービス。日本では「PayPay」「d払い」「楽天ペイ」「au PAY」など、モバイル通信キャリアやそのグループ会社が展開するサービスが高いシェアを有しており、コミュニケーションアプリのLINEと連動する「LINE Pay」(2022年をめどにPayPayとのサービス統合を予定)や、フリマアプリのメルカリから決済できる「メルペイ」などがそれに続いています。

●インターネットバンキング
パソコンやスマホなどのデバイスから、インターネットを通じて銀行口座の残高確認や振込などの取引ができるサービスで、「オンラインバンキング」とも呼ばれます。従来の銀行がサービスを提供するほか、実店舗を持たないインターネット専業銀行(ネット銀行)もあります。

欧米では、ネオバンク、チャレンジャーバンクと呼ばれる企業が、スマホなどを通じて銀行のサービスを提供しています。2000年代末に米国で登場したネオバンクは、自らは銀行免許を持たず、既存銀行のプラットフォームを利用して、スマホに特化したUIでサービスを展開。一方、2010年代半ばごろから欧州を中心に登場したチャレンジャーバンクは、自社で銀行免許を取得し、スマホなどの上でサービスを提供する存在です。

●後払い決済(BNPL)
クレジットカード決済とは異なる新しい後払い式の決済手段。いわゆる「BNPL(Buy Now, Pay Lateer:今買って、後で支払う)」と呼ばれ、注目されています。これらのサービスは、分割払いの場合でも商品の購入者が手数料を支払う必要がない点が特徴で、ECサイトなどで導入が進んでいます。2022年6月にはAppleが「Apple Payで後払い」サービスを年内にも米国内で開始すると発表しました。

●インシュアテック
収集したIoTデータやAIにより保険料の算定などを行う、保険(インシュアランス:Insurance)領域のフィンテックサービス。複数人のグループで加入し、保険料の一部をプールすることで料金を割安にする「P2P(ピアツーピア)保険」や、ドライブレコーダーなど自動車の走行データを解析することで運転者のリスクを判断して保険料を算定する「テレマティクス保険」などがあります。

●クラウドファンディング
インターネットを介して、プロジェクトを立ち上げた人に寄付やモノ・サービスを購入するかたちで資金を提供する仕組みです。不特定多数の人から資金調達ができるため、事業や店舗の立ち上げなどに際して、利用されています。

●ソーシャルレンディング
お金を借りたい企業と、不特定多数の個人投資家をインターネット上でマッチングするサービスです。クラウドファンディングとは異なり、金融商品の一種として取り扱われ、「融資型(貸付型)クラウドファンディング」と呼ばれることもあります。

●融資(データレンディング、トランザクションレンディングなど)
データレンディングとは、過去の取引(トランザクション)や購買情報、顧客評価などの信用スコアをもとに、融資判断をリアルタイムで実施する機能やサービスのこと。Amazonや楽天などのECサイトが出店者に対し、売り上げデータをもとに融資を行うサービスなどがあります。

●投資・資産運用支援(ロボアドバイザーなど)
AIやデータを活用して投資や資産運用を効率化する動きは、以前から機関投資家の間では取り入れられてきましたが、これを個人投資家にも開放するサービスが広がっています。「ロボアドバイザー」もその一種で、AIを活用した資産運用サービス。アルゴリズムを使って投資・資産運用のアドバイスをするものや、自動で資産運用を任せるサービスなどがあります。

●暗号資産(仮想通貨)
ブロックチェーン」技術によって実装されたデジタル上の通貨のこと。過去からのすべての取引履歴(トランザクションデータ)を記録する仕組みにより、改ざんされない取引の記録が可能です。法定通貨と異なり、国家や中央銀行などによる管理は行われず、ユーザーが互いにトランザクションを監視するブロックチェーンの仕組みによって価値を担保。発行数に上限がある暗号資産が多く、需要と供給の変化に応じて価格が変動します。投機的な目的で取引されることも多く、その分リスクも高い資産と言えます。一方、海外への送金が簡単にできることや、特定の国・組織に依存しない点で“自由”な通貨と言うこともできます。

代表的な暗号資産にはビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、リップル(XRP)などがあります。日本では暗号資産の購入や売却は、暗号資産交換業者として金融庁に登録された取引所や販売所を通じて行うのが一般的です。

話題の「Web3」とも関連、フィンテックの最新トレンド

調査会社のReport Oceanによれば、世界のフィンテック・ブロックチェーン市場は2020年に約12.5億ドル(約1600億円)、2027年には約652億ドル(約8兆円)の規模にまで成長が見込まれています。また矢野経済研究所の調査では、国内のフィンテック市場規模は2022年度に1兆2000億円まで拡大すると予測しています。

今後のフィンテックのトレンドとして目が離せないのが、暗号資産やブロックチェーン技術を活用したいわゆる「トークンエコノミー(トークン経済圏)」と言われる領域です。トークンエコノミーは、ブロックチェーンを基盤とした新しいインターネットの概念として注目される「Web3」とは切り離せない存在です。

暗号資産取引だけでなく、デジタルアートなどのデジタル資産に非代替性トークン(NFT)を付与し、オークションやマーケットプレイスで取引を行う動きも活発となっています。話題の「メタバース」でも、仮想世界の中で使える土地やファッションアイテムなどがNFT化され、売買が盛んに行われています。

また分散型アプリケーション(DApps)と呼ばれる、ブロックチェーン技術を使って開発されたアプリやゲームでは、トークンや暗号資産をプレーヤーが入手することが可能なものもあり、「遊んで稼ぐ(Play to Earn)」「歩いて稼ぐ(Move to Earn)」と呼ばれるブームも起きています。

もうひとつ、フィンテックのトレンドとして紹介したいのが「エンベデッドファイナンス(Embedded Finance)」という概念です。エンベデッドファイナンスは、日本語では「組込型金融」「埋込型金融」とも呼ばれ、銀行などの金融機関が今まで一式で提供してきたさまざまな金融サービスを分解し、ほかのストアやサービスでもその機能を組み込めるようにしたものです。

既存の銀行が持つ機能をAPIを介して提供することにより、非金融サービスの事業者も自社のアプリなどに銀行機能を組み込んで、提供できるようになります。また、APIを提供する金融機関と、金融機能を組み込んだサービスを提供する一般の事業会社をつないで「Bank as a Service(BaaS)」サービスを専門に提供する、「イネーブラー」と呼ばれる金融ベンチャーも欧米を中心に増えてきました。

日本でも2017年に成立した改正銀行法により、銀行オープンAPIの提供が各銀行で進んでいます。エンベッデッドファイナンスの活用によって、近い将来、さまざまなサービスで金融機能がシームレスに使えるようになるでしょう。

利便性の向上と安全性・信頼性の担保の両立が課題

これまで銀行やクレジットカードなどの金融サービスが浸透していなかった、アジアや南米、アフリカなどの発展途上国では特に、スマホアプリやブロックチェーン上のサービスなど、最新のフィンテックサービスが急速に広がる傾向があります。こうした地域では既存の金融サービスに課題が多く残っており、より低コストで安全性・信頼性が実現できる新技術への切り替えニーズが高いためです。

逆に先進国では、これまでのセキュリティや信頼性を損なうことなく、新たに利便性のあるフィンテックサービスを立ち上げることは容易ではありません。新技術へのスイッチングコストが高い上に、各国当局が課す規制をクリアし、安全で信頼性の高いサービスを提供することが求められることから、初期コストがかかるためです。

この高いハードルを低減するには、前述したエンベデッドファイナンスなどを活用し、既存の金融機関の機能を効率よくサービスへ落とし込むことや、実態に合った法改正によって規制を適切に緩和していくことなどが必要となるでしょう。

セキュリティ面での課題も見落としてはならないところです。フィンテックサービスの利便性が向上すれば、ユーザー層や利用シーン、流通額も拡大し、それを狙ったサイバー攻撃によるセキュリティ脅威も増大していきます。たとえば、銀行内部を狙った標的型攻撃や、実在のインターネットバンキングサイトと酷似したフィッシングサイトでユーザーIDやパスワードなどのアカウント情報を詐取するようなケースが増えています。

また、暗号資産の取引所やトークンを扱う事業者・システムなども、資産流通額の大きさからハッカーに狙われやすくなっています。2022年3月には「Axie Infinity」というブロックチェーンゲームのユーザーが狙われ、6億ドル超(700億円以上)相当の暗号資産が流出する、過去最大規模のハッキング事件も発生しました。

もちろん各事業者も、こうした脅威に対して手をこまねいているわけではなく、さらなるセキュリティの強化が図られています。ただし新しいサービスには、それぞれの仕組みに応じた新しいリスクもあり得るということをユーザー側も認識して、考えられる対策を取っておく必要があるでしょう。