中山五輪男氏
なぜ、今、ノーコードが注目されるのか?
―― 最近、ノーコード/ローコードという言葉を目にする機会が非常に増えている気がします。
中山 ノーコードもローコードもプログラミング技術無しでアプリを開発するための手法や製品、サービスを指します。ローコードは多少のプログラム技術が必要ですが、ノーコードは一切必要ありません。プログラミングスキルがなくてもノーコードなら利用できます。他にも以前からノンプログラミングという言葉はありましたが、世間的にあまり知られてはいませんでした。
―― ノーコードへの関心が高まっています。なぜ今注目されるのか? その背景を教えてください。
中山 ノーコードが関心を持たれるようになってきたのはこの4〜5年で、注目されるようになったのは、日本のDXがなかなか進展しないためです。スイスのIMDは毎年「国際競争力ランキング」を6月に、「世界デジタル競争力ランキング」を9月に発表しているのですが、2022年、日本は前者が63カ国中 34位、後者が28位と、欧米先進国にかなりの後れをとっています。こうした状況を改善するためにはDXを推進する必要がありますが、そのための有効なツールとしてノーコードが注目されるようになってきたのです。
―― DXがなかなか進まないという話はよく聞きます。
中山 私は現在アステリアというノーコード専業ベンダーのCXO(最高変革責任者)に就いていますが、前職は富士通、ソフトバンクでエバンジェリストの仕事をしていました。日本全国でセミナーや講演を行っているときに、多くの中小企業経営者の方から、DXって何をやればいいのだろうと質問を受けました。そうした中小企業の多くはDXに取り組もうにも、お金もなければDX向きの人材もいないという状況です。ノーコードなら、プログラミング能力がなくても、自分たちでアプリが作れます。DXのためにはデジタル化を進めていかなくてはならず、そのためには多くのアプリを作る必要があります。それを自分たちの手で作成できるのです。
―― これまでは、中小企業ではアプリを自社で作るのは難しかったのですね。
中山 日本では外部のIT企業に委託して、アプリを作らせるのが主流でした。多数のSIerが存在している国は日本だけです。海外ではパッケージソフトを買ってきて、業務をそれに合わせるか、あるいは自社内で設計・開発するのが主流です。こうした日本のソフトウェア文化を変えて、新しい文化を実現できるのがノーコードツールです。
―― 海外ではノーコードツールは以前から使われていたのですか?
中山 欧米ではノーコードツール文化はありました。日本に入ってくるのに時間がかかったのは従来のSI文化の蔓延もありますし、UIが英語だとなかなかとっつきづらかったというのもあるでしょう。現在は日本語化されたツールも多く、TVCMで有名なサイボウズのkintoneのような製品もありますし、アステリアのツールも多くの企業で使われているなど、じわじわと広がっています。こうした状況を踏まえ、私は来年、2023年をノーコードの飛躍の年にしなくてはと考え、転職し、日本ノーコード推進協会を9月1日に立ち上げました。業界内の関心も大変高く、協会の参加企業は3カ月で70社を越え、2023年中には200社を目指したいと考えています。
―― 今、ノーコードで開発されたアプリはどのくらい広まっているのでしょうか?
中山 正確な数は分かりませんが、IDCジャパンは、国内で開発される新しいアプリの6割はノーコード/ローコード開発になると予測しています。これは正確性の高い数字だと思います。現状ですでに3割以上がノーコード開発です。また、マイクロソフトはこれまでの40年間で5億本のアプリが開発されたが、今後の5年で開発されるアプリはこの5億本を超えると言っています。DXはアプリがあって初めて可能になるので、この数字も現実的です。ノーコードばかりではなく、今後はAIが作るアプリも出てくるでしょう。他にも、ゲーム業界では20年前からノーコードで開発されていて、今や必要な人材はプログラマーではなくデザイナーやイラストレーターなのだそうです。あれだけ、高度なゲームがノーコードで開発されているのです。
ノーコードツール導入のメリット
―― 企業などがノーコードツールを導入するメリットはなんですか?
中山 誰でもアプリが作れるということです。自治体などの導入も進んでいます。熊本県小国町では職員100人がノーコードツールで開発されたアプリを利用できる環境を用意しています。職員間で作り方を教え合ったりしているそうです。
―― ツールの習得期間はどのくらいかかるのですか?
中山 アプリ自体は数日程度で作れるようになります。ある会社の専務はノーコードツールを使って自分でアプリを作り、現場に渡したところ、現場がカスタマイズして短期間でバージョンが105まで行ったそうです。こんなにアップデートすれば、外部に出していたらどれだけお金がかかったか分かりませんよね。
―― 短期利用のアプリと、長期にわたって使われるアプリがあると思うのですが。
中山 はい。短期型のアプリでノーコードの開発スピードは大きなアドバンテージになります。コロナ対応で現場で使用するアプリなどはスピーディーな開発が求められますが、これを従来のように設計・製作を外部発注していたのではとても間に合いません。
ノーコード導入に必要なこと
―― 企業がノーコードツールを導入しようとした場合、障壁となるようなことはありますか?
中山 使い方や作法のような、いくつか習得しなくてはならないことがありますが、これをサポートする専業の会社がいくつか出てきています。そうした会社はニーズがすごく増加していて、業績を伸ばしています。こうした会社にサポートを依頼することで、スムーズな導入が可能になります。もちろんツールベンダーも教育プログラムを用意していますので、そちらもご利用いただけます。アステリアの場合、販売パートナーを複数持っていて、そうした企業のサポートもご利用いただけます。
―― ノーコードツールにも色々種類があるのですよね?
中山 PCの業務アプリ作成用ノーコードツールとしてはサイボウズのkintoneは有名で、スマホ専用の業務アプリ作成用ノーコードツールとしてはアステリアのPlatioは有名です。そのほかにもAI専用のノーコードツールとか、サイト作成用のノーコードツールと言えばWordPressほか多数あります。
―― ユーザーとしては、多数あるツールから目的に合い、自社の業務に使えそうなものを選定するのは大変ですね。
中山 ですから協会で機能一覧の比較表を作りたいと考えています。
―― それぞれのツールは、より使いやすくするためにどんな工夫をしているのですか?
中山 ライブラリやテンプレートなどを持っているツールは多いです。Platioも各業種ごとに100種類以上のテンプレートを持っていて、これを利用することで業務に必要なアプリを簡単に作成できます。よりオープンにしていくために、ユーザーが作成したテンプレートの販売も考えています。
―― たくさんのツールがある中、使いやすさや選びやすさを考えるとある程度の標準化も必要になりますね。
中山 関連用語の標準化は、ベンダーサイドから要望が上がってきています。ツールごとに違う用語を使っていると混乱が生じます。言葉を変えていくか、あるいは出版部会でそのあたりを解説する書籍や用語集、ホワイトペーパーなどを作成して対応していきたいと思います。
―― 誰でもアプリが作れるということは、管理が大変なのではないですか?
中山 管理しきれない野良アプリが生まれてしまうということは聞きますが、私はあまり心配していません。必要で使われていくものは生き残っていくでしょう。
―― 異なるノーコードツールで開発したアプリの互換性はあるのでしょうか?
中山 これは難しい問題ですが、ほとんどのノーコードツールはクラウドサービスとして提供されているので、クラウド同士を繋げる統合ツールによって、連携が可能です。EAI(Enterprise Application Integration)というもので、これもノーコードです。アステリアはWarpというシェアNo.1のEAIを提供しています。
―― ノーコードツールを使う上で何かリスクはありますか?
中山 例えば、ツールベンダーが倒産して、ツールを提供していたクラウドサービスの引き取り手がなく閉鎖されたら、そのツールは使えなくなります。こうしたリスクを避けるには、信頼できる会社のツールを導入する必要があるでしょう。
日本ノーコード大賞の開催
―― 日本ノーコード推進協会は、現在ノーコード普及のためにどんな活動を行っているのですか?
中山 2023年は「ノーコード」という言葉を広めるのが目標です。普及のために、書籍を出したり、セミナーやイベントを開催していきます。2023年初頭から「出版部会」「地方創生部会」「広報教育部会」の3つの部会を設けて、それぞれ十数社が所属し活動していく予定です。
―― まだ、ノーコードという言葉の認知は低いとお考えですか?
中山 世の中にはたくさんのノーコードツールがあるのですが、その割には知られていません。例えば、タレントを使ったテレビCMで有名なホームページ作成のBASEやYappliなどは名前は知られていますが、実はノーコードツールです。こうしたサービスにも勇気を持ってノーコードを名乗ってもらいたいですね。
―― 2023年に予定している活動のトピックスは?
中山 「日本ノーコード大賞」というイベントを6月下旬に開催します。今年はDX推進協会が6月に「日本DX大賞」を開催しましたが、同協会と協力する形で「日本ノーコード大賞」を同時開催する予定です。これにより、ノーコードをさらに盛り上げていければと考えています。