杉森千紘さん
https://corp.asics.com/jp
足の成長を予測し、適切なシューズを推奨
──最初にASICS STEPNOTE(アシックスステップノート)のサービス概要について教えていただけますか。
杉森 ASICS STEPNOTEは、子どもの足の成長を予測し、適切なタイミングで適切なシューズを推奨するデジタルサービスです。子どもの足の成長予測に使用するデータは、1985年に設立された「アシックススポーツ工学研究所」が、20年以上にわたって蓄積した子どもの足形計測データをベースにしており、アシックスが提供するOneASICS(ワンアシックス)という会員サービスに登録すれば、どなたでも無料でご利用いただけます。2021年12月にサービスを開始し、昨年12月でリリースからちょうど1年になりました。現在、約1万9000人ほどのお客さまにご利用いただいています。
杉森 ASICS STEPNOTEは、さまざまな機能を持っていて、リリース後も機能を追加しているのですが、主な機能としては3つあります。
1. 忘れてしまいがちな足の計測をリマインド
足の計測のタイミングをメールでお知らせするほか、ホーム画面にポップアップで「計測タイミングですよ」という通知が出ます。定規やメジャーを使用した正しい計り方も教えてくれるほか、サイト内から「計測シート」をダウンロードして、これを印刷してご利用いただけるようになっています。
2. 独自データに基づいた足の成長予測と一人ひとりの成長にあわせた製品推奨
このサービスのコア技術は、お子様の足の成長を予測することです。アシックススポーツ工学研究所で蓄積した子どもの足形データを元に、足の成長を予測するのですが、実はこの予測には、お子様の足の測定データだけではなく、家族の足長のデータも入力して、遺伝的な部分も加味した上で予測しています。現在だけでなく、未来が出ているというところがすごく面白いところで、そこがASICS STEPNOTEの一番の魅力かなと思っています。
また、それらのデータをもとに、子ども一人ひとりの成長に合わせた買い替えタイミングや、好きなスポーツなど子どもの情報と掛けあわせたおすすめシューズを提案します。おすすめシューズは、EC在庫の情報も含めて推奨されるため、購入可能な商品内からお客さまに適したシューズを提案し、ショッピングの時間を短縮してくれる可能性があります。さらに、年齢や足囲率などから足が成長収束していると判定した子どもには、大人用のシューズを推奨するなど、よりパーソナライズされたシューズ選びを可能にしています。
3. 足の大きさを楽しく記録する「あしあーと」の作成
「あしあーと」は、お子様の足の計測を楽しいイベントにできないかと考えて作った機能です。スマートフォンなどで撮影した足の裏の写真でスタンプを作り、デザインを選ぶことで世界に一つだけの「あしあーと」を作ることができます。「あしあーと」は、SNSに投稿できるほか、ポストカードにもできます。
子どもの足形をデジタルアートとして記録し、情緒的に成長を実感でき、「計測=家族の楽しいイベント」といった新しい価値観を創造できたのではと思っています。
──ASICS STEPNOTEの開発で難しかったのは、どんなところでしょうか。
杉森 まず、保護者の方が子どもの足の成長に対して関心が低いことと、継続的に足の計測をしていただくことが可能なのかということです。保護者の方に関心を持っていただくためにはどうしたらいいか。そして、足の計測も1回だけならできると思いますが、継続的に行っていただくためにはどうしたらいいか。この2点を解決しなければいけませんでした。
そもそも、なぜ、子どもの足の成長の予測をしなければいけないかというと、子どもの足は大人に比べてやわらかく、足に合わないシューズを履いていても子ども自身ではなかなか気づきません。そのため、保護者の方もシューズの爪先が破れて初めて、シューズが小さいことに気がつくようなことがあります。やわらかいからこそ、窮屈なシューズを履き続けていると足の形に影響を及ぼし、足の成長を阻害する可能性があります。あっという間に成長する子どもの足に合ったサイズのシューズを選ぶためには、定期的に足のサイズを計測して、足に合ったシューズを履かせてあげることは非常に大事なことなんです。ところが、子育てで忙しい保護者の方にとって、定期的なサイズ確認はついつい忘れがちでちょっと面倒でもあります。新学期が明日始まるといった時に、急に小さいことに気づいて、靴を買いに走るなんてことが起きるわけです。まずは「計測」を身近に感じてもらい、定期的な計測を習慣化する必要がありました。
そのために、子どもの足を計測することが楽しいイベントにならないかということを考えました。先ほど紹介した「あしあーと」が作成できることのほかに、生活に身近なモチーフと比較できる「くらべるグラフ」というものを用意しています。
これは、まだグラフが読み取れないような小さいお子様でも、自分の足をランドセルと比べてみるとか、みかんと比べてみるというような方法で、視覚的にわかるようにしたものです。兄弟同士で比べることができたり、自分の1カ月前と比べてみたりということもできるようになっています。これによって、家族のコミュニケーションのきっかけにもなると思いますし、子どもの成長を家族で感じていただければと思っています。
足の計測については、スマートフォン用の3次元足形計測アプリも開発中です。これはスマートフォンで足を前、後、横など7方向から撮影し、それをもとに3次元の足形を測定するというもので、昨年12月から本年1月まで一部直営店舗でお試しサービスを提供しました。ゆくゆくは正式にアプリ展開したいと考えており、お客さまのスマートフォンでも使えるようになれば、足の計測はもっと楽になるだけでなく、大人のシューズ購入にも有効なデータになると思います。
──推奨する製品は、どのようにして決めているのでしょうか。
杉森 製品のお薦めは、好きな色と好きなスポーツを予め登録いただいて、それに合わせたスポーツシューズなどの推奨を行い、アシックスのECサイトへの誘導も行っています。アシックスの膨大な種類の製品からフィッティングや嗜好に合ったシューズを選ぶことがより簡単になります。コロナ禍で店舗に行けないという時に、容易に適正なシューズが見つかると好評でした。
「シューズは履いてみないとわからないからECサイトからの購入は不安」という方もいると思うのですが、現状、90%以上のお客さまにご満足いただいています。中には、スマートフォンのASICS STEPNOTEの画面を見せて「これください」という方もいらっしゃるので、店頭でも役に立つサービスだと思います。
それから、中学生くらいになると、子ども用シューズを買えばいいのか、大人用シューズを買えばいいのかがわからないというお声をしばしばいただくのですが、それぞれのお子さんの「成長収束」も予測し、その切り替えのタイミングもお知らせしていますので、中学生くらいのお子さんにも有用だと思います。
創業の動機は「スポーツによる青少年の健全な育成」
──ASICS STEPNOTEというサービスを開発しようというきっかけはどのようなことからですか。
杉森 2020年にキッズプロダクト部が新設され、それと同時にASICS STEPNOTEの開発が始まりました。アシックスは、創業者の鬼塚喜八郎が第2次世界大戦で焼け野原になった神戸を見て、スポーツによる青少年の育成を通じて社会の発展に貢献することを志して興した会社です。 「ASICS」という名前も創業哲学である「“ANIMA SANA IN CORPORE SANO”(健全な身体に健全な精神があれかし)」というラテン語の頭文字からきています。子どもたちのためのスポーツシューズを作ることは、創業哲学にも基づいたもので、ASICS STEPNOTEはその想いを具現化したものだと思います。
アシックスでは、各カテゴリーで子ども用シューズの企画開発やマーケティング活動をしています。キッズプロダクト部は、アシックスキッズブランドをグローバルで一貫したストーリーでユーザーに届けることが役割の1つとなっており、各カテゴリーを横断的に管理しているほか、靴型(ラスト)の開発なども行っています。
世界中の子どもたちにサービスを提供
──これからの計画や抱負について教えてください。
杉森 アシックスは、日本だけではなく、世界中の人々の心身の健康の向上に寄与するプロダクトやサービス、環境の提供をめざしています。ASICS STEPNOTEは今年、海外の地域販社へのサービス開始を予定しています。今後も日本に限らず、世界中の子どもたちと家族の健康的で豊かなライフスタイルの実現をサポートできればと考えています。
また、子どもたち一人ひとりの成長スピードが異なるように、運動能力も一人ひとり異なります。運動能力に合わせて適切なシューズを履くことは、子どもの運動能力を最大限発揮できるようサポートするだけではなく、けがのリスク軽減にもつながると思います。足の大きさのみでシューズを決めるのではなく、運動能力に合わせたシューズの機能性の選択によって、安心してスポーツを楽しんでいただくことができると思うので、これからはそうしたお客さまの声にも対応していきたいと思います。