インターネットを介して“モノ”がデータ交換し価値を生む

IoT」とは英語の「Internet of Things(インターネット・オブ・シングス)」を省略した言葉で、日本語では「モノのインターネット」とも呼ばれます。物理的な物体=モノがインターネットを介して、他のデバイスやシステムに接続してデータを交換することで、互いを制御する技術や仕組みのことを指します。

IoTのコンセプトは、コンピュータだけではなく、自動車や家電、施設・設備、ロボットなどのあらゆるモノがインターネットにつながり、センサーなどで収集した情報のやり取りをすることで、データ化や自動化などが進み、新しい付加価値を生み出すという点にあります。“モノのサービス化”が進む中、「製品を売れば終わり」ではなく「製品を使ってサービスを提供する」ためにも欠かせないテクノロジーです。

IoTには大きく分けて3つの機能があります。

1. 離れたモノを遠隔操作する
外出先からスマートフォンで家のエアコンやテレビなどの家電を操作する、工場や工事現場などの危険なエリアでカメラを操作するなど、遠隔地からの信号でモノを操作する機能です。

2. 離れた場所にあるモノの状態や周囲の状況を知る
家の照明を消したかどうかを確認する、患者の呼吸や血圧などのバイタルサインを監視する、工場設備や工事用車両などの稼働・故障などの状態を確認するなど、離れた場所からモノの状態やモノの周辺状況を知る機能です。

3. 離れたモノ同士でデータの送受信ができる
農地の温度や湿度、日照量などのデータをセンサーから送信し、状況に応じて農業ハウス内の水やりや窓・ビニールの開閉などを自動で操作する、自動運転車が信号機や道路の混雑状況のデータを受信して速度や経路を調整するなど、モノ同士がデータを共有することで連携する機能です。

2026年には世界で80兆円超の市場規模へ成長すると予測

IoTの「無線でつながったデバイスによるネットワーク」という概念については、1982年には議論が始まっていました。1992年には米国のカーネギーメロン大学で改造されたコカ・コーラの自動販売機が、インターネット(ARPANET)に接続された初の電化製品として登場しています。用語としての「Internet of Things」は1999年、プロクター・アンド・ギャンブルのケビン・アシュトン氏が使い始めた「Internet for Things(モノのためのインターネット)」がもとになっていると言われていますが、当初のIoTでは、RFID(タグによる無線識別)によって製品などの管理を可能とすることを想定していました。

2010年代に入ると、米国企業が主導するIIC(インダストリアル・インターネット・コンソーシアム)やドイツ政府によるデジタル化政策・Industry 4.0(インダストリー4.0)によって、工場における生産プロセスの改善と生産性向上のための仕組みとしてIoTが普及するようになります。その後、各種センサーや通信モジュールなど、デバイスの低価格化・小型化・低電力化・高機能化が進んだこと、通信環境が高速化したこと、クラウドやプラットフォーム型サービスの普及によって導入コストが下がったことなどで、IoTはより幅広い分野で、手の届きやすいテクノロジーとなりました。そこで、生産性向上やインフラ管理、自然災害対策など、課題解決につながる技術として、近年さらに注目を浴びています。

日本では、2016年に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」において、国が目指すべき未来社会の姿として「Society(ソサエティー)5.0」が提唱されました。Society 5.0は「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立させる、人間中心の社会(Society)」と定義されています。この社会では、IoTであらゆる人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、生産性や少子高齢化、地方の過疎化などの課題を克服するものとしています。

調査会社のIDC Japanによれば、国内IoT市場におけるユーザー支出額は2021年の実績(見込み値)で約5.9兆円。2026年までに年平均9.1%で成長し、2026年には約9.1兆円に達するといいます。また国際的な市場調査会社・MarketsandMarkets(マーケッツアンドマーケッツ)では、世界のIoTの市場規模は2021年の3003億ドル(約39兆円)から2026年までに年平均16.7%で成長し、6505億ドル(約86兆円)に達すると予測しています。

さまざまな分野で活用が広がるIoT技術

IoTは、具体的にどのような分野での活用が期待できるのでしょうか。

1. スマートホーム
以前から、スマートフォンなどを利用して、外出先から操作できるテレビやエアコン、掃除機などの家電製品は開発・販売されていて、その数は増えています。また外出中にウェブカメラでペットの様子を確認し、餌やりができる製品なども登場しています。

「スマートロックを施錠したらセキュリティカメラを作動させる」「人感センサーでドアに近づいたら照明をつける」「スマートスピーカーと組み合わせて『おはよう』『ただいま』と声をかけると自動で電灯やエアコンのオン・オフを行う」など、日常的に行う機能を自動化することも可能です。

2. 医療・介護
医療・介護の領域では、ウェアラブルデバイスやベッド・部屋に設置されたセンサーなどにより、生体データをリアルタイムで収集・モニタリングすることで、医療・介護従事者の業務負担を軽減するためにIoTが活用されています。

3.モビリティ・交通
インターネットに常時接続する自動車をコネクテッドカーと呼びますが、これはクルマがIoTデバイス化した例です。センサーによって車両の状況を診断・管理する機能や地図情報を更新する機能、事故発生時に位置情報を含めて緊急通報するシステムなどが既に実用化され、各社のクルマに搭載されています。

公共交通機関でも、既にIoTは活躍しています。バスのリアルタイム運行状況がスマートフォンで確認できる仕組みや、配車アプリを使ってタクシーを呼べる仕組みは、それぞれの車両の位置情報を活用したものです。

将来、完全自動運転を実現する際には、クルマのセンサーからの情報を収集・分析して各車へフィードバックし、走行することになるため、IoT技術は欠かせないものとなります。これは地上を走るクルマだけでなく、空の交通を担ういわゆる“空飛ぶクルマ”や無人操縦ドローンにおいても同様です。

4. 物流
物流業界では、入庫から出荷までの倉庫での作業や、配送作業の効率化のためにIoTが活用され始めています。

倉庫作業では、仕分けや棚入れ、在庫管理、ピッキングなどでIoTが導入され、大手物流会社ではロボティクスを応用した自動化も進められています。また配送の場面では、担当者の適切な配置や配車ルートの効率化などにIoTを活用。今後は先述した自動運転によるトラックやドローンによる輸送にも期待が寄せられています。

5. 製造業
製造業では、工場内のさまざまなセンサーや生産設備をIoT化して、製造プロセスを制御し、需要にともなう在庫の最適化、新製品のすばやい生産調整などを可能にしています。また、機械や人の動きをデータ化することで作業効率の向上や自動化を図ることにも役立てられています。

機器の故障などへのリアルタイムでの対応にもIoTは貢献。エネルギー消費量の把握・最適化により、コスト削減や環境負荷の低減にもつなげることが可能です。

6. 農業
温度、降雨量、湿度、風速などの気象状況のセンサリングや、害虫の発生状況、土壌の状態のモニタリングなど、農業におけるIoT活用も盛んに進められています。こうしたデータは作業の自動化や品質・収量の向上など、農業における生産性向上に役立てられています。

セキュリティやプライバシーなど普及にともなう課題も

あらゆるモノがつながることで膨大なビッグデータが得られ、これをAIなどで解析することによって、少子高齢化や生産性向上などの課題解決を促し、産業に新しい価値を生み出すことが期待されるIoT。しかし、課題もあります。

まず、PCやスマートフォンと比較して数が多いIoTデバイスは、2020年時点で500億個以上が存在したのではないかとも言われています。その大量のIoTデバイスがネットワークへ接続するため、ネットワークには大きな負荷がかかります。また、センサーをはじめとするデバイスの生産に必要な資源、特に半導体の不足も課題となります。

さらに、IoTデバイスに対するサイバー攻撃のリスクも高まっています。従来の仕組みでは管理しきれない数のIoTデバイスが無防備に脅威へのリスクにさらされている状況で、実際にIoTデバイスを標的とした攻撃も増加しています。IoTデバイスの中には家電やクルマの制御や周囲の監視などが可能なものもあり、各国でさまざまな対応がなされているところです。しかし、IoTデバイスを誰の責任においてどう管理すべきか、デバイスが接続するネットワーク全体でいかに安全性を確保するかは、課題として残されています。

また、さまざまな場所で多量のデータを収集するIoTデバイスには、プライバシーの保護においても懸念があります。ウェブカメラのハッキングなどによる直接のプライバシー侵害のほか、収集されたデータが誰のものとしてどのように扱われるのか、特にGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)に代表されるプラットフォーマーのデータの取り扱いには、研究者を中心に多くの人が懸念を表明しています。