DX推進やAI活用に伴う需要の急増を受け
グリーンデータセンター新棟を新たに開設

2024年5月、NECは100%再生可能エネルギーを活用したグリーンデータセンターの新棟として、「NEC神奈川データセンター二期棟」(以下、神奈川DC二期棟)と「NEC神戸データセンター三期棟」(以下、神戸DC三期棟)を開設した。2013年ごろから環境に配慮したデータセンターの構築を進めている同社を取材した。


NEC
クラウド・マネージドサービス事業部門
データセンターサービス統括部
シニアディレクター
伊藤誠啓

 NECは、パブリッククラウドのハブ機能を提供する「クラウドHubデータセンター」、地方公共団体や地場企業向けの「地域データセンター」、そして一般企業や官公庁などのほかクラウド事業者などの大規模ユーザー向けの「コアデータセンター」の三種類のデータセンターを運用している。全国12拠点のデータセンターを展開しており、その内主要なデータセンターでは100%再生可能エネルギーを活用し、環境に配慮したグリーンデータセンター運用に取り組んでいる。

 本記事で紹介する神奈川と神戸のデータセンターは東西の中心となるコアデータセンターだ。DX推進に伴うパブリッククラウドの利用加速やセキュリティの確保、生成AIを契機とするAIの急成長により、需要が高まったことを受け新棟をオープンした。

 NEC クラウド・マネージドサービス事業部門 データセンターサービス統括部 シニアディレクター 伊藤誠啓氏は、同社のグリーンデータセンターを実現する技術について、次のように説明する。「100%再生可能エネルギーを採用していることに加え、電力を削減する取り組みとして『フリークーリング』を活用しています。これは外気温を活用してデータセンター内の冷却を行うものです。また空調の消費電力を削減するため、『中央熱源冷却方式』も採用しています。10年ぐらい前のデータセンターのサーバールームというのは非常に冷たくて、夏でも冬のような室温だったのですが、昨今のデータセンターは空調設計を最適化することで、以前のような温度設定でなくてもサーバーの運用が可能になっています。サーバールームの冷却水も5度や10度といったものではなく、20度の冷水を循環して冷却することで、データセンター全体を冷やすことが可能です」と語る。

NECの神奈川データセンター二期棟、神戸データセンター三期棟では国内商用データセンターでは最高クラスとなるpPUE1.16(設計値)を実現している。画像は神奈川データセンターの屋上フリークーリング。

非化石証書を利用者に提供

 高効率変圧器や高効率UPSを採用することで、電力損失を低減した。LED証明の採用を含め、こうした高効率の電力を実現していることで、神奈川DC二期棟と神戸DC三期棟は国内商用データセンターではデータセンターの電力効率を示すpPUE(Partial Power Usage Effectiveness)において最高クラスとなるpPUE1.16(設計値)を実現している。一般的なデータセンターのpPUEは1.5〜2.0であることを考えると、その電力効率の高さが分かるだろう。pPUE値の低減は、環境への配慮に加えて、ランニングコストの低減や、電力料金の変動リスク圧縮にも寄与する。AIの急成長によってGPUサーバーの高負荷化・高集積化が進んでいるが、今回新たにオープンした新棟では高負荷対応エリアを用意し、最大実効20kWのラック設置に対応するほか、さらなる高集積化への対応に向けて各種ベンダーと連携しつつ、水冷式などでの対応を検討しているという。

 グリーン化への企業の関心の高まりを受け、環境への配慮に加えてNECが実施しているのが非化石価値の提供だ。伊藤氏は「非化石証書の発行サービスを提供しています。これは日本卸電力取引所(JEPX)の非化石証書を当社が再販する形で、お客さま名義の証書として提供します。本証書は、お客さまが参加しているRE100※などのイニシアティブや関係省庁など第三者機関への報告に活用できます。実は現在のところ、データセンターの電力使用によるCO2排出量は利用者側に組み込まれるか否か、議論が進められている段階です。将来的に利用者側の排出量に組み込まれれば、非化石証書の需要は劇的に高まるでしょう」と指摘した。

 NECでは環境への配慮と次世代テクノロジーへの対応を両立したグリーンデータセンターによって、企業のESG経営やDX推進を今後も協力に支援していく。

※企業が自らの使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的イニシアティブ。NEC神奈川データセンター利用ユーザーのうちRE100への参加を含め64%が脱炭素を表明している。

独自技術で環境負荷を配慮
温室効果ガス排出量ネットゼロを目指す

地球温暖化による気候変動が深刻化している。この問題に対して、レノボでは2050年までに温室効果ガスの排出量をネットゼロにするという目標を掲げている。同社が行う環境負荷を低減するためのアプローチとユーザー企業に向けた取り組みついてレノボ・ジャパンに聞いた。


レノボ・ジャパン
企画本部 製品企画部
元嶋亮太

 ネットゼロ(Net Zero)とは、排出量削減と炭素吸収のバランスを取り、実質的な温室効果ガス排出量を正味(=Net)ゼロにする取り組みを指す。気候変動への懸念が高まる中、多くの企業でさまざまな施策が実行されている。「レノボでは、温室効果ガスの排出量をネットゼロにすることを目標に、製品ライフサイクルの全てに携わるハードウェアベンダーだからこそできる一気通貫での環境対策を行っています」と話すのは、レノボ・ジャパン 企画本部 製品企画部 マネージャーの元嶋亮太氏だ。

 製品の設計や製造を経て、ユーザーの手に渡り、役目を果たして引退(廃棄・リサイクル)するまでの全てフェーズにおいて、レノボならではの環境への配慮がある。「当社の製品は、設計の段階から廃棄品を減らすことを留意し、再生資源を最大限に活用しています。例えば、2024年に発売した『ThinkPad』シリーズには押し並べて、筐体に90%のリサイクルマグネシウム、55%のリサイクルアルミニウム、95%の再生プラスチックなどの再生由来素材を使用しています。再生素材というと強度が落ちてしまうのではないかといった懸念がありますが、素材の配合バランスを考慮した上で検証を重ね、筐体の堅牢性をしっかりと確保しています。また、製品を梱包するパッケージには100%堆肥化が可能な竹由来の素材を使用したクッションやテープレス組み立ての外装箱を採用するなどプラスチックフリーを実現しています」(元嶋氏)

環境に配慮した独自技術

 製品の製造時にも環境に配慮した技術を取り入れている。2017年からレノボ独自の「低温ハンダ技術(LTS:Low Temperature Solder)」を採用している。通常、PCのマザーボードにCPUや各種チップを接着する際、250度程度の温度でハンダ付けをする。それに対して、レノボの低温ハンダ技術は180度程度の温度で溶けるようになっている。「温度を約70度下げることで、ハンダを温める際に発生する電力の削減が可能です。低温ハンダ技術によって、製造工程におけるCO2排出量が下がり、環境負荷を抑えられます。また、高温による部品にかかる負荷を軽減するため、部品不良による廃棄を減らせます」と元嶋氏はアピールする。

 製品がユーザーの手に渡った後は、利用時の消費電力を下げるための機能で環境への負荷を減らしている。「人感検知をベースにした画面ロックなどの『スマート機能』や最小限の消費電力で動作する『低電力モード』などを備えています。また、サーバー製品には同社独自の液体冷却技術『Lenovo Neptune』を取り入れています。空気よりも熱伝導率の高い液体(水)を使ってCPUやGPU、メモリーといったパーツを冷却する技術です。95%の熱除去効率と最大40%の消費電力削減を実現しています」(元嶋氏)

 また、レノボではユーザー企業側が環境負荷軽減に貢献できる「CO2オフセット・サービス」を用意する。企業活動で排出された温室効果ガスの内、削減できなかった分を排出権(クレジット)の購入によって相殺する仕組みだ。PC購入時に、PCの使用時に発生するCO2排出量を最大5年分、あらかじめオフセットできる。

 レノボでは、こうしたグリーンITに対する取り組みを通じて、温室効果ガスの排出量をネットゼロにすることを目指していく。

環境に配慮した設計や機能で
気候変動対策への取り組みを強化

気候変動問題は、国際社会における重大なグローバルリスクの一つとして挙げられている。HPでは、2003年に再生プラスチックを含むハードウェア製品をリリースして以来、環境に配慮をした製品展開や取り組みを進めてきた。気候変動問題が企業における課題となる中、日本HPでは環境負荷を軽減するためにどのような対応を行っているのだろうか。


日本HP
パーソナルシステムズ事業本部
岡 宣明

 HPでは、炭素排出量の削減や循環利用に焦点を当て再生可能な経済を目指す「気候変動対策」、社会的公正・人種およびジェンダー平等を推進する「人権」、情報格差を解消してデジタルの公平性の道を開く「デジタルエクイティ」の三つを柱にした「サステナブルインパクト戦略」を進めている。本特集のテーマであるグリーンITに関する取り組みは、気候変動対策に当たる。同社は、2040年までにバリューチェーン全体で温室効果ガスの排出量を削減しながら、ネットゼロの再生型経済の実現を目指している。

 気候変動対策は提供する製品にも盛り込まれている。HPでは、海岸や海沿いの地域において、海に流入する前に回収されたプラスチックごみ「オーシャンバウンド・プラスチック」を世界で初めて製品の素材に利用するなど、サステナブルな取り組みを先駆けて進めてきた。そうした革新性と環境負荷への対策を備えた製品の一つが、ビジネス向けの14インチノートPC「HP EliteBook 1040 G11」である。

 HP EliteBook 1040 G11にはさまざまな再生素材が利用されている。「リサイクルマグネシウムやリサイクルアルミニウムをはじめ、主要部品の70%以上に再生素材を活用しています。リサイクルする素材に関して毎年新たな挑戦をしており、HP EliteBook 1040 G11には、リサイクルした漁網をキーボードの素材に用いています。製品の梱包材にはリサイクル可能なパルプモールド材を使用しており、環境への影響を減らすための工夫を取り入れています」と日本HP パーソナルシステムズ事業本部 クライアントビジネス本部 CMIT製品部長の岡 宣明氏は説明する。

 HP EliteBook 1040 G11は、環境に配慮した機器であることを示す評価システム「EPEAT」において最高評価のゴールドランクを取得している。製品の省エネルギー性、有害物質の量、リサイクル対応、企業の環境活動など、多岐にわたる環境基準が評価された結果だ。環境性能の高さだけではなく、米国国防総省が定める米軍調達基準「MIL-STD-810」に準拠した堅牢性・耐久性を確保しているため、過酷な環境下でも利用できる安心感がある。

不要になったPCの再利用を促進

日本HP
ワークフォースソリューション事業本部
中 宏樹

 HPでは、気候変動対策を実現するためのサービスも展開している。それが、2023年5月から提供を始めた「PC リユースプログラム」である。持続可能な循環型経済へ貢献する法人企業向けのプログラムで、今まで使っていたPCを日本HPが買い取り、データ消去および修理・再生後にリユース(再利用)を行うものだ。「不要になったPCは再利用されることなく、処分されている実情があります。PC リユースプログラムによって、PCの再利用を促進し、温室効果ガスの排出量の削減を目指します」日本HP ワークフォースソリューション事業本部 サービスビジネス部 部長 中 宏樹氏は話す。

 2023年9月には「HPカーボンニュートラルコンピューティングサービス」の展開も開始した。HPカーボンニュートラルコンピューティングサービスは、PCの原材料調達から使用、破棄まで、各デバイスのCO2排出量を算出して、オフセット(相殺)する。オフセットが適用されたPCはカーボンニュートラルなPCとなり、証明書の発行も可能だ。

「お客さまのグリーンITに対する意識は徐々に高まりつつあります。販売パートナーさまと連携し、当社の環境負荷を配慮した製品やサービスの提案を進めていくことで、企業における気候変動への対策をより強化させていきます」と中氏は意気込みを語った。

組織を超えたデータ利活用の推進が
SXと事業成長の両立を実現する
—富士通SX調査レポート2024から

気候変動や格差の拡大、不安定な経済情勢に直面したことで、経営における「サステナビリティトランスフォーメーション」(SX)への注目が高まっている。富士通ではSXに対する意識について、各国の経営者層(CxO)を対象に調査した「富士通SX調査レポート」を2022年から発表しており、2回目となる調査レポート「富士通SX調査レポート2024」を2024年4月23日に公開している。調査レポートから事業成長とSXを両立している経営者の傾向が見えてきた。

調査から明らかになった
SX推進に向けた“二つの鍵”

富士通
グローバルマーケティング本部
コーポレートマーケティング統括部
コンテンツマーケティング部
マネージャー
高橋美香

 富士通SX調査レポート2024の調査は、英国、オーストラリア、カナダ、韓国、シンガポール、スペイン、タイ、中国、ドイツ、ニュージーランド、日本、フィリピン、フィンランド、フランス、米国の15カ国の企業・組織の内、年間売上高5億米ドル以上の経営者層(CxO)600人を対象に実施された。グローバル版のほか、地域版レポートを発行しており、日本分析版では日本国内の経営者層を230名に増やし、合計800名の経営者層を対象として再集計・分析を行っている。これらの調査は富士通による企画の下、調査会社FT Longitudeに委託し、2023年11〜12月にかけてアンケート方式で行われた。本記事はこの日本分析版にフォーカスして紹介していく。

 本レポートではSXを「世界を持続可能にするために、デジタル社会の進展により、社会のレジリエンスや環境、経済にポジティブなインパクトを与えること。これらを通じて企業価値を高める取り組み」と定義している。具体的には、「地球環境問題の解決」「デジタル社会の発展」「人々のウェルビーイングの向上」などだ。

 こうしたSXへの取り組みを先進的に押し進め、SXと事業成長を両立している一部(調査サンプルの9%)の企業や組織を、本レポートでは「チェンジメーカー」と定義し、その傾向を分析している。その結果、チェンジメーカーのSX推進には二つの鍵があることが明らかになった。

 一つ目は、SXによって財務と非財務を両輪とした企業価値向上を目指している点だ。チェンジメーカーがSXを推進する主な動機は「ブランドイメージ・評価向上」が67%とトップであり、それに「社会にプラスの影響を与えること」(59%)、「地球環境への影響を低減すること」(53%)と続く。こうした非財務的な目標を掲げている一方で、チェンジメーカーの63%が「SXの取り組みが売上や収益に直接的に貢献している」と回答した。例えば新たなサービス開発や新しい市場の開拓など、SXの取り組みが新たな価値を創出したのだという。

 二つ目は、組織の枠組みを超えたデータの利活用が進んでいる点だ。チェンジメーカーはSXに関するデータ活用が進んでおり、過半数となる51%が組織の枠組みを超えたデータ連携の最も高い成熟度に達しているという。また、チェンジメーカーの26%は高度に強調的なエコシステムに参加してリソースやデータを共有し、SXに関する価値創出に向けて協働を進めている。

SX目標を下回る
日本企業の取り組み

 こうした特徴をもつチェンジメーカーに対し、日本企業のSXへの取り組みはどのように進んでいるのだろうか。富士通 グローバルマーケティング本部 コーポレートマーケティング統括部 コンテンツマーケティング部 マネージャー 高橋美香氏は「日本経営者の多くが、サステナビリティの重要性を認識している一方で、具体的な進捗は思うように進んでいない傾向にあります」と指摘する。

 例えば、外部(第三者機関や政府がもうける基準)のSX目標に対して「目標を下回っている」と回答した数は、日本以外の地域が45%だったのに対し、日本は60%とほかの地域と比較して15ポイント高い結果となった。また日本の経営者層の57%は、競合企業の方がサステナビリティに取り組んでいると感じており、これも世界のその他の地域と比較して12ポイント高い。

 各国のチェンジメーカーの割合を見ると、ドイツが最も高い24%、フィンランドがそれに次ぎ23%、シンガポールとスペインが17%と並ぶ。日本は調査対象となった15カ国中12番目に位置する4%であり、その他地域と比べて低い傾向にある。

 チェンジメーカー、日本の非チェンジメーカー、世界の非チェンジメーカーを比較した調査を見てみると、前述した外部のSX目標に対して、チェンジメーカーは70%が「目標を上回っている」と回答したのに対し、日本に非チェンジメーカーと世界の非チェンジメーカーはともに18%にとどまっている。

 本調査では、SXにおける14の重要な取り組みとして「気候変動対策」「資源のリサイクル」「水資源の保全」「廃棄物の削減」「生物多様性の保全・拡大」「情報セキュリティの確保」「デジタル格差の解消」「情報・AI倫理の推進」「健康的で働きやすい環境の推進と労働力不足解消」「責任あるサプライチェーンの推進」「従業員・顧客の健康の確保や向上」「生涯教育やリスキリングの推進」「顧客・消費者体験の向上」「人権、コミュニティやダイバーシティの尊重」を挙げている。これら14の取り組みの中で「具体的な成果が出た」項目を調査したところ、日本の非チェンジメーカーは情報セキュリティの確保が8%、気候変動対策において5%と特に低く、苦戦している結果になった。これは世界の非チェンジメーカーと比較しても低い結果だ。

 高橋氏は「日本企業は経営指針を定める上で、財務指標に重きが置かれています。財務価値に直結しにくい取り組みは後回しにされがちであり、それが今回の結果に表れているのでしょう。また各部門で独自のシステム基盤を導入することが主流になっており、欧米と比較してサイロ化が進んでいます。これにより、データ連携が遅れていることに加え統合的な情報セキュリティ対策の遅れにも影響しているようです」と指摘する。

データ利活用の差が
SX推進の差につながる

 一方で、SXを推進するチェンジメーカーは環境や社会へのポジティブな影響を取り組みの主な動機とする傾向が強い。SX取り組みを推進する主な動機の調査では「ブランドイメージ・評価向上」の項目が67%とトップだが、それに次いで「社会に良い影響を与える」が59%、「地球環境の影響を低減」が53%と高い結果だ。日本の非チェンジメーカーが気候変動対策に苦戦していることを考えると、こうした傾向は興味深い。また、チェンジメーカーは「SXの取り組みが売上や収益に直接的に貢献している」と回答した割合が63%と高い一方で、日本の非チェンジメーカーは30%にとどまっている。これは日本の非チェンジメーカーの47%がSXに対して「費用がかかりすぎる・経営にマイナスであるため、規制などを満たす最低限の取り組みしかしていない」と回答したことも関連しているといえる。日本の多くの企業は、SXの取り組みが収益に結び付くと捉えておらず、外的なプレッシャーを受けてSXに対応せざるを得ないと考えていることが浮き彫りになった結果だ。

日本の経営者の60%が、外部のサステナビリティ目標を下回っていると回答。そのほかの地域の経営者は45%であることを踏まえると、日本の組織は外部サステナビリティ目標の達成に難航しているといえる。
サンプル数:日本=230、その他の地域=570

 なぜSXに対して、チェンジメーカーと日本の非チェンジメーカーの認識が大きく異なるのだろうか。本レポートでは「データ利活用」にその差があると指摘されている。チェンジメーカーは、その過半数(51%)が組織の枠組みを超えたデータ連携において最も高い成熟度に達しているほか、44%が業種を横断した戦略的なパートナーシップを形成している。一方で、日本の非チェンジメーカーを見ると、41%の組織は外部組織との連携で、データを有益な情報として活用できていない。

「日本企業のデータ利活用が進んでいない背景として、データの価値に対する認識の欠如があるでしょう。今回の調査では、チェンジメーカーの79%が『データから洞察を引き出す能力はサステナビリティ目標の達成に不可欠である』と回答しました。一方で、日本の非チェンジメーカーで同じ見解を持つ人は48%と半数に満たない状態です。こうした環境の中でデータの真価を引き出すことは難しく、SXを推進する上でデータドリブンなアプローチが欠けていることが、日本企業のSXの遅れにつながっている可能性があります」と高橋氏は指摘する。

サンプル数:チェンジメーカー=73、日本のチェンジメーカー以外=220、世界のチェンジメーカー以外=507

四つのステップに取り組み
日本企業をチェンジメーカーへ

 では、こうした日本の非チェンジメーカーが、チェンジメーカーに変わっていくためにはどういった取り組みを行えば良いのだろうか。富士通は本レポートの結果を基に、四つのステップを提示している。

 ステップ1では、社会における自組織の存在意義や価値、貢献のあり方を明確にしてパーパスを策定する。パーパスを策定する際には、長期的な視点を取り入れ、SXから得られる価値の全体像を見通すことが重要だ。

 ステップ2では、SX戦略を策定し、目標の達成に向けた行動を推進していく。SX戦略策定に当たっては、ビジネスを成長させる新たな価値創造の優先事項を明確にしたり、財務と非財務を戦略的に落とし込んだりすることが重要だ。

 ステップ3では、データ利活用の成熟度を上げる。これは組織内でデータの整合性を確保したり、データに基づく意思決定を行うようにしたりする内部連携の取り組みだ。

 ステップ4では、組織の枠組みを超えてデータ利活用のコラボレーションを進める。ステップ3で自社組織のデータインフラストラクチャを整えたことにより、組織を横断したコラボレーションが実現できるようになる。パートナー企業とのデータ共有範囲が広がることで、適切な意思決定につながることに加え、共通のデータフレームワークを使用することで、コラボレーションの成果と進捗状況の把握も可能になるだろう。

 高橋氏は「日本の企業は、ほかの国と比較してSX推進自体をコストとみているケースが多いです。しかし、チェンジメーカーの傾向を見ると、SXに取り組むことで高い事業成果につながっていることが分かります。まずは社会的意義を起点に経営戦略やブランディングを行うパーパスドリブンの経営に転換し、長期的な目標設定の下SXを推進していくことが重要です。当社ではさまざまな社会問題解決のためのソリューション『Fujitsu Uvance』を提供しており、Planet(地球環境問題の解決)、Prosperity(デジタル社会の発展)、People(人々のウェルビーイングの向上)といった3領域に対して、当社が培ってきた事業ノウハウやテクノロジーを生かしたSX支援を行っています。すでに複数の実績もありますので、SX推進に向けての課題を解決するパートナーとして、当社を選択いただければうれしく思います」と語った。