「メタバース役所」を活用した広域連携による自治体DX実証事業

三重県桑名市と新潟県三条市は、大日本印刷が提供する「メタバース役所」を活用した共同実証事業を2024年8月26日から開始する。メタバース役所を共同で利用し、相互連携を通じて住民サービスの向上につなげていく取り組みだ。これに先立ち、8月7日に3者は「メタバース役所を活用した広域連携による自治体DX実証事業」の発表会をメタバース空間上で行った。

メタバース役所を活用した
広域連携による自治体DX実証事業

2024年8月7日にメタバース空間で開催された三重県桑名市・新潟県三条市・大日本印刷の「メタバース役所を活用した広域連携による自治体DX実証事業」発表会の様子。桑名市 市長の伊藤徳宇氏(左)と三条市 副市長の上田泰成氏(右)が自身にそっくりのアバターで登場し、説明を行った。

メタバースで行政サービスを効率化

 少子高齢化を要因とする人口減少や大都市圏への人口集中による労働力不足など、各自治体では行政サービスの維持が困難になることが今後の課題として挙げられる。そうした課題に対し、大日本印刷では自治体業務の支援と行政サービスの多様化を実現するための取り組みを行っている。その一つが、リアルとバーチャルを融合させた「XRコミュニケーション事業」だ。

 XRコミュニケーション事業では、メタバースを活用した教育支援や自治体の地域活性化、行政サービスの向上、窓口業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)をかなえるためのソリューションを展開している。メタバース上で構築した行政サービスのプラットフォーム「メタバース役所」もそのうちの一つである。メタバース役所を通じて、住民は電子申請や各種相談を行えるようになるなど行政サービスに変革をもたらすソリューションだ。さまざまなソリューション展開に加えて、同社では実証実験などの取り組みを通じて、数多くの自治体と連携を深めている。三重県桑名市と新潟県三条市も、大日本印刷と共に取り組みを進めている自治体だ。

自治体間の連携を深める

 桑名市は、「スマート自治体」への転換を市政の柱の一つに置き、オンラインによる各種手続きの申請、証明書交付手数料のキャッシュレス決済対応など、行政サービスにデジタル技術を活用する取り組みを進めている。この活動をさらに加速させるべく、2024年2月に大日本印刷と「『誰一人取り残さない、デジタル社会の実現』に向けた連携協定」を締結し、行政サービスの新たな施策としてメタバース役所の実証事業を実施した。

 三条市は、デジタルの力で誰もが便利で快適に暮らせる社会を目指す「三条市デジタル田園都市構想総合戦略」を策定し、行政が所掌する幅広い領域の政策や施策を総合的・効果的に推進していくため、新たな技術の活用を積極的に行っている。その一方で、人口減少や高齢化をはじめとした課題を抱えており、新しい視点で地域の活性化に関わる重要な役割を担う人材である「関係人口」の創出を模索していた。この課題の解決に向けて、2024年7月に大日本印刷とPwCコンサルティングの3者で「関係人口創出を通じた持続可能なまちづくりに関する連携協定」を締結し、メタバースなどの技術を活用して誰もが地域サービスを活用できる包摂な行政を目指している。

 大日本印刷は両市とこうした取り組みを進める中で、自治体全体の課題である行政サービスの効率化をさらに促進させるため、「メタバース役所 共同利用モデル」の提供を開始した。このメタバース役所共同利用モデルを活用したのが、2024年8月26日から桑名市と三条市が共同で実施する「メタバース役所を活用した広域連携による自治体DX実証事業」だ。

「メタバース役所共同利用モデルは、一つのメタバース空間を複数の自治体が共同で利用するものです。個々の運用面・コスト面での負担を軽減するとともに、自治体間の総合連携を通じて、住民サービスの向上が図れます」と大日本印刷 ABセンター事業開発ユニット未来創造ラボ リーダーの野内みゆき氏は説明する。

 今回の共同実証事業では、桑名市と三条市が一つのメタバース役所を共同で利用する。共同利用に伴う相互連携を通じて、住民サービスの質の維持や、イベント開催による住民・職員間の交流の創出などを図る。

「三条市さまと大日本印刷さまと共に、離れた地域の自治体間での連携モデルの有用性を検証します。ヒトも行政も垣根を超え、誰一人取り残さないデジタル社会の実現を目指します」と桑名市 市長 伊藤徳宇氏は意気込む。

行政サービスの在り方を変える

 実証事業の期間と内容は以下の通りだ。


■実証期間およびメタバース役所の開庁時間
・2024年8月26日〜9月1日 8:30〜17:30
・2024年9月9日〜15日 13:00〜22:00
(2024年9月2〜8日は閉庁日)

■実証内容
・離れた地域間での共同事業、イベント(災害対策など)/職員 同士の交流
・地域の特色を生かした交流会やセミナー
・全国共通の社会課題に関する交流会やセミナー
・外部委託を活用した相談窓口の共同利用


 メタバース役所は、VRゴーグル不要でPCやスマホからアクセスが可能だ。Webブラウザーに対応しているため、アプリをダウンロードする必要もない。今回の実証では、市民同士や市民と行政とのコミュニティー形成の一環として、交流会やセミナーなどのイベントの開催を中心に検証を進めていく予定だ。

 三条市 副市長 上田泰成氏は「先端技術を活用することで市民の皆さまの利便性向上だけではなく、これまで実現しなかった新たなサービスの提供や関係人口の創出を通じた持続可能な街づくりにもつながっていくでしょう。桑名市さまとの実証をモデルケースに、今後はさらに全国の自治体さまとの連携を深め、行政サービスの在り方を変えるきっかけにしていきたいと考えています」と期待を込めた。