デジタル技術で市民の暮らしを向上させる「武雄市DX推進計画」

少子高齢化と都市部への人口集中によって、自治体ではさまざまな社会課題が顕在化している。これらの問題を解決するため、「スマートシティ」をキーワードにデジタル技術を活用して市民の生活の質を向上させる住み良い街づくりを目指す自治体が増えている。今回は「武雄市デジタルトランスフォーメーション(DX)推進計画」を策定し、「暮らしやすさを実感でき、持続していくスマートシティTAKEO」を基本理念にスマートシティの実現に向けて取り組みを進める佐賀県武雄市を取材した。

佐賀県武雄市

佐賀県の西部に位置する人口約4万7,000人(2024年6月末時点)の都市。市の中心部には、舟の形に似ている山「御船山」、西部には谷を挟んで向き合う「雄岩」「雌岩」、21世紀に残したい日本の自然100選にも選ばれた「黒髪山」、樹齢3,000年を越える3本の大楠などがあり、雄大な山々と豊かな自然に囲まれている。

誰も取り残さない街づくり

 少子高齢化による人口減少が全国的に進行している。それに伴って人手不足が懸念されることから、限られた人的資源をいかに効果的・効率的に活用し、市民サービスの質を維持していくかが自治体の大きな課題となっている。

 こうした課題に対し、佐賀県武雄市では、市民一人ひとりが幸せに暮らすことを重視する「武雄市まち・ひと・しごと創生総合戦略」に基づき、数多くの政策を進めてきた。これまでに、企業誘致の積極的な推進、中小企業支援、子育て・家庭支援、健康づくりの推進、国内・海外誘客の促進などさまざまな取り組みを展開している。

 情報システムに関する対応も積極的に進めており、総合行政ネットワーク(LGWAN)の整備、自治体情報システム強靱性向上モデルへの対応、オンライン事務環境の整備、教育現場におけるICT環境の整備などを行ってきた。

 そして2023年10月、デジタル技術を活用して市民のニーズや“新しい日常”の構築を確実に進めるための基本的な考え方を示す「武雄市デジタルトランスフォーメーション(DX)推進計画」を策定した。

 武雄市デジタルトランスフォーメーション(DX)推進計画は、「暮らしやすさを実感でき、持続していくスマートシティTAKEO」という基本理念の下、“新たな日常”に対応できる環境の構築、観光や地域振興につながるスマートシティの実現を目指すものだ。そのために、デジタル技術やデータを活用して、地域や市民の生活の質(QOL)を高める行政サービスへと転換を図っていく。「計画を推進していくに当たっての最大の信念は『誰も取り残さない』ということです。武雄市をより住みやすい場所にしていくには、市民サービスの質を向上させることと合わせて、デジタル技術の活用による『防災』も特に意識していきたいと考えています」(武雄市 企画部 デジタル政策課 担当者)

三つの方針でDXを推進

 武雄市デジタルトランスフォーメーション(DX)推進計画では、市民の暮らしを向上させるサービスの実現を目指す「市民DX」、地域課題の解決と新たな価値の創出を目指す「地域DX」、デジタル技術を活用した行政事務の効率化を図る「行政DX」の三つの基本方針を掲げている。詳細は以下の通りだ。

1.市民DX:市民に直結する行政サービスのDXとして、市民の利便性の向上を目指し、行政手続のオンライン化など、行政サービスを利用者目線で変革することを目的とする。
2.地域DX:地域社会全体のDXとして、デジタルデバイド解消やデジタルインフラの整備などを推進し、地域社会が協働してデジタル改革を推進することを目的とする。
3.行政DX:内部業務のDXとして、業務の効率化やリソースの有効活用を目指し、事務およびシステムの標準化や共通化、AI・RPAの利用促進など、行政運営の改革を目的とする。

 市民DXでは、行政手続のスマート化やデジタルデバイド対策などを進めていく。行政手続のスマート化は、スマートフォンなどを使って、時間や場所に制約されることなく手続きが行える環境と、来庁時の窓口での手続きがスムーズに行える環境を整備する。「2023年10月から、証明書請求のほか、子育て関係での手続きとして29種類のオンライン申請、2種類の窓口予約、各種ライフイベントにおける必要な手続きを案内する15種類の手続きガイドなどのサービスをスタートさせました。サービス開始後も、庁内プロジェクト参加職員の協力の下、申請メニューの追加作業を行い、2024年3月には31種類の申請メニューと集団健診に関する5種類の窓口予約を追加しました。そのほか、国の経済対策による物価高騰対策給付金事務などにおいても随時オンライン申請による給付に取り組んでいます」(担当者)

 地域DXでは、地域の産業活性化や災害時における支援の迅速化などを進めていく。加えて、データを活用して観光業などでの新たな価値創造に役立てる取り組みも行っていく。

 行政DXでは、業務プロセスの最適化、AI・RPAの利用を促進していく。市役所窓口だけでなく、バックオフィスも含めた業務プロセスの見直しの実施や文書管理システムの導入と電子決裁を推進する。ペーパーレス化・押印省略を進め、業務の最適化を図っていく。また、AI・RPAの利用で事務作業の効率化・自動化を推進し、人でしか行えない業務へ注力できるようにしていく。

豊かで安全・安心な暮らしを実現

 武雄市デジタルトランスフォーメーション(DX)推進計画は、2023〜2027年度までの5年間を予定している。「暮らしやすさを実感でき、持続していくスマートシティTAKEO」の実現に向けて、武雄市では市民サービス向上や行政運営の変革を目指していく。

「デジタル化の進展により、今後はさらに一人ひとりの細かなニーズに即したサービスを選べるようになるでしょう。行政においても同様に、よりきめ細かなサービスの提供が求められるようになっていくと思います。武雄市デジタルトランスフォーメーション(DX)推進計画を通して、市民の利便性を向上させるとともに、豊かで安全・安心な暮らしの実現に向けて注力していきます」(担当者)