端末の次はソリューション整備にシフト
学習支援系ソフトウェアが大きく伸長
Market:シード・プランニング
GIGAスクール構想によって教育現場のICT化は急速に進んだ。それに伴い今後は、教育ソリューションの需要が大きく増加することが見込まれている。一方で、急速な端末整備によって生じている課題もある。調査会社のシード・プランニングが全国の教育委員会への取材と教育ICTのデバイス・ソリューション企業への調査をもとに発表した市場動向から、それらをひもといていこう。
端末の需要ピークは2024年に
2009年から電子黒板市場の調査をスタートし、以降定期的に教育ICT市場に関する市場レポートを発刊しているシード・プランニング。教育ICTの第9弾となる「2021 教育ICTの最新市場動向」のレポートでは、電子黒板やタブレット、拡大表示装置といった教育用デバイスに加え、教務・学習支援ソフトウェアや校務支援ソフトウェアなどの教育用ソリューションも調査対象とし、現状の製品やサービス動向、現状分析から今後の動向をまとめている。
本調査において主にデバイス市場を調査したシード・プランニング リサーチ&コンサルティング部 エレクトロニクス・ITチーム 2Gリーダ 主任研究員 原 健二氏は「前回の調査から、デバイスに加えて、新たに教育用ソリューション市場の調査をスタートしました」と語る。教育用コンピューターの普及に伴い、次に市場の拡大が予想されるのは、そのデバイスで活用されるソフトウェアなどのソリューションだからだ。
本調査のハードウェアの需要推移予測によると、教育用コンピューターの需要は、GIGAスクール構想によって2020年に620万台。その後は300万台前後で推移し、2024年に428万台と需要のピークを迎える予測だ。この需要のピークはリース契約の更新や、2020年度のGIGAスクール構想によって導入した端末のリプレースを迎えることが背景にある。自治体は4~5年のスパンで端末などのIT資産を更新していくためだ。
セキュリティ対策に新たな需要
「GIGAスクール構想は、元々5カ年計画で教育現場に教育用コンピューター(タブレット)をはじめとしたICT教育環境の整備を進める方針でした。しかし、2020年はじめから発生したコロナ禍の影響でオンライン教育の需要が急増し、本来5カ年計画で進める予定の端末整備を、わずか1年で行いました。本調査は2021年5月10日~8月16日に、各自治体教育委員会などに電話で取材を行いましたが、その時点で小学校には教育用コンピューターの導入が完了していました」と原氏は振り返る。
GIGAスクール構想以前の学校現場で活用される端末のOSの主流はWindowsだった。しかし、GIGAスクール構想では予算の関係でChromebookの割合が大きく増えたという。また端末の整備が進んだことで、今後は教務・学習支援系ソフトウェアの市場が年10~20%のペースで拡大していく予測だ。一方で、校務支援系ソフトウェアの市場は横ばいが続く見込み。
「学習支援系ソフトウェアでは、特にAIドリルやアクティブラーニングを支援する製品、双方向授業を実現する製品の導入が進んでいます。今回の調査対象には含まれていませんが、今後はアンチウイルスソフトやMDMソリューションなどのセキュリティ製品の需要も増加する見込みです。ITベンダーは教育委員会に情報漏洩のリスクなどを説明することも必要でしょう」と指摘するのは、教育用ソリューションを主に調査した同社のリサーチ&コンサルティング部 研究員 大野裕貴氏。
急速に進んだ端末整備によって、課題も生じている。例えば1人1台環境が整備された小中学校では、ネットワーク環境がそれらのアクセス負荷に耐えられないケースも出てきているという。
「学校現場の通信環境は、報道されているほど整っていません。今回の調査ではネットワークについて調査をしていませんが、今後の教育現場では高速な通信環境を整備するネットワーク需要が高まっていくとみています」と原氏。
短期間の端末整備によって、保守サポートなどの契約が詰め切れていないケースもある。「端末の保守やメンテナンスなどに新たな需要が生まれそうです」と原氏は指摘する。
1校に1人のICT支援員を
教育用コンピューターの需要が大きく伸長した一方で、校務コンピュータや拡大表示装置(大型モニター、プロジェクター、電子黒板など)は横ばいとなっている。拡大表示装置はすでに導入が進んでいるが「タブレットを有効に活用するためには教室に電子黒板1台だと少ないため、2台目を導入する動きがあります。また教室の黒板に教材を投映するプロジェクターは、安価で導入がしやすく使いやすいため、今後も継続して導入が進むでしょう」と原氏は語る。
児童生徒には1人1台の端末が配備された一方で、不足しているのが教員用の端末だ。原氏は「現場の先生方にヒアリングしたところ、授業で使うための教員用コンピューターが不足しているそうです。教員は貸出用の端末を交代で使っており、教室で児童生徒に教材を提示したり、学びを共有したりするための端末が十分な台数整備されていないのです」と課題を語る。校務用のコンピューターは配備されているものの、端末自体が古く授業での活用が難しいのだという。
「そもそも学校の先生方は忙しく、新しく導入された教育用コンピューターを使いこなせていません。そうした先生方のICT教育を支援するのがICT支援員です。ICT支援員の市場は短期間で急成長し、2022年度に前年度比約50%増加します。人数としては2,000人規模から4,000人規模へと増加し、雇用条件などの改善もあり市場は成長していくでしょう。一方で、現状では予算や対応が追いついておらず、先生方への十分な支援が行えていません。国は4校に1校をICT支援員の配備目標としていますが、本来は授業に入り込み、『この単元ではこう使うといい』といったところまで分かるICT支援員が必要です。1校に1人、ICT支援員を配備するような取り組みが求められています」と大野氏は語った。