大日本印刷、注目が集まる分散型IDを解説

分散型ID

 大日本印刷は9月19日に、サイバーセキュリティ、ID管理、デジタルアイデンティティなどの幅広い概念を含む「分散型ID」の市場動向・技術についての勉強会を実施した。分散型IDを活用することで、企業は既存の枠組みにとらわれず、さまざまなステークホルダーとの柔軟な連携が可能になる。

 分散型IDが求められている背景として、生成AIを悪用したなりすましやフェイクニュースの増加が挙げられる。身分証明書の偽造品が安価かつ容易に入手できることに加え、偽の消費者レビューといった情報がインターネット上に氾濫し、データが信頼できなくなってきている。その結果、デジタルトランスフォーメーションの根幹が揺らいでいるのだ。こうした問題を解決する技術として、分散型IDに注目が集まっている。

 分散型IDのコア技術が、デジタルな個人情報「Verifiable Credentials」(以下、VCs)だ。VCsは、三つの特長を有する。一つ目が、データの真正性だ。証明書が発行された状態から、内容に変化がないことを検証できる。二つ目が、所有の証明だ。ユーザーも証明書に署名可能なため、なりすましを防げる。三つ目が、情報の選択的開示だ。ユーザーは必要最低限の情報のみ提出できる。プライバシーの保護につながるのだ。

 大日本印刷 ABセンター事業開発ユニット 事業開発部 岡本凛太郎氏は、分散型IDの展望を次のように語る。「当社では、分散型IDに基づくデジタル証明書を発行・検証する『DNP分散型ID管理プラットフォーム』を提供しています。こうしたプラットフォームを提供することで、データの信頼を取り戻すサポートをしていきます」

社会実装は2026年以降

 同勉強会では、分散型IDのユースケースとして外国人就労者の検証のユースケースが紹介された。分散型IDを活用した在留カードといった証明書を保管可能なアプリを利用することで、企業側は安心して外国人就労者を雇用できる。さらに外国人就労者が母国に帰国したとき、同アプリを用いれば、日本での就労実績を証明可能だ。

 岡本氏は分散型IDの今後について「現在は限定的な実証フェーズにとどまっています。しかし、来年には特定のユースケースが実装され、再来年以降に本格的な社会実装が始まるでしょう」と語った。

VCsの概要

NTT、鋼材の腐食検査の実証実験を開始

画像認識AI

 NTTはNTT e︱Drone Technologyと埼玉県熊谷市と共に、ドローンと画像認識AIを用いた鋼材の腐食検査の実証実験を9月2日より開始した。

 道路橋の劣化は大きな社会問題となっている。その要因の一つが、水分や塩分などによる鋼材の腐食だ。腐食は進行に伴い鋼材の断面を欠損させるので、道路橋の耐久性能や耐荷性能の低下につながる。その結果、設備の破損や崩壊を招いてしまう。さらに現行の道路橋の点検手法にも課題がある。目視点検では腐食の深さを確認できず、超音波装置を用いた点検ではセンサーを計測箇所に当てる必要があり、道路橋全体を点検するためには作業コストがかかってしまう。

 今回の実証実験では、道路橋をドローンで撮影し、撮影した画像から画像認識AIを用いた鋼材の腐食検出と腐食の深さ推定を行う。実験に使う道路橋は埼玉県熊谷市保有の道路橋、ドローンはNTT e︱Drone Technologyが開発したドローン、画像認識AIはNTTが開発した技術を用いる。ドローンによる画像撮影とAI検査により、今まで目視点検では不可能だった腐食の深さの推定と腐食検出が同時に行えるのだ。さらに現行の超音波装置を用いた点検と比べると、維持管理コストの削減と作業の効率化にもつながる。

 NTT アクセスサービスシステム研究所 シビルシステムプロジェクト 主幹研究員 岡村陽介氏は「鋼材の腐食という点では、道路橋もほかの建造物も劣化のメカニズムは同一です。そのため、今回実証実験を行う点検支援技術が活用できれば鉄塔やガードレールなどさまざまなインフラ設備への技術拡大を進められます。そうすることで、社会インフラ全体の維持管理コストの増加といった課題を解決していきます」と展望を語った。

実証実験の概要