基礎学習とアウトプットをセットにした授業が
生徒一人ひとりの“創造性と自律”を育む

Case :東京成徳大学中学・高等学校

2025年に学園創立100周年を迎える東京成徳大学中学・高等学校は、東京都北区に位置する中高一貫校だ。同校では「成徳」の 精神を持つグローバル人材の育成を目指し、語学力はもちろんの こと1人1台の端末を導入し、ICTを活用した学びを実現してい る。Appleが国際的に iPadを活用していることによる教育効果 の高さを国際的に認定するプログラム「Apple Distinguished School」でもある同校の、その教育について話を聞いた。

学びを豊かにするiPad

中学校では1人1台端末にiPadを指定。日常的に端末を活用している。

 東京成徳大学中学・高等学校(以下、成徳中高)で生徒1人1台端末の運用をスタートしたのは、2017年からのこと。同校の英語科教諭であり、ICT活用推進部長を務める和田一将氏は「現在、GIGAスクール構想で多くの学校が1人1台の端末環境を整備していますが、本校では世の中の流れに沿ったICT化ではなく、“徳を成す人間”の育成に向けた教育環境を実現するために、1人1台の端末整備を実現しました」と振り返る。

 同校では中学校ではiPad(第8世代)を指定し、高等学校ではOSを指定しないBYODのスタイルで端末を運用している。中学校段階の端末としてiPadを指定している理由について和田氏は「本校の教育テーマに“創造性と自律”があり、それを実現できるデバイスであった点が大きいですね。iPadは学びを豊かにしてくれる万能な教材であると考えています。個別最適化の学びはもちろん、学びをさらに深めるツールとして最適です。また、説明書などがなくても直感的に使える点も選定理由の一つです」と語る。もともと同校では2017年以前から、iPadを学習者用の共用端末として採用しており、その環境を1人1台の環境にシフトしていくにあたって、従来から使われていたiPadを選択したことも理由の一つとしてある。

アウトプットにより学びが定着

 iPadを活用した授業で、成徳中高が特に意識しているのが学んだ内容のアウトプットにある。例えば中学2年生の英語の授業で助動詞について学ぶ際、ただ単語や文法のルールを授業で一方的に教えるだけでなく、学んだ助動詞を活用して英語の旅番組を、生徒自身がiPadで作成して表現するのだという。校舎には映像の背景合成がしやすいグリーンバックなども設置されており、そこで撮影した映像を旅番組でテーマにする国の背景と合成して紹介するような作品作りに取り組んでいる。

 和田氏は「よく、『iPadなどのタブレット端末を使っていれば成績が伸びる』と言われますが、実際にこれらを活用することによる教育効果を可視化している学校現場はあまり多くありません。本校で実際に、旅番組を制作する前後で助動詞などの英語に対する理解度を調べたところ、制作した後では明らかに理解度が向上していました。自分たちで旅番組を作る中で、使った助動詞が確かな知識として蓄積され、また正しく伝えるために細かい違いまで追求できるようになるなど、大きな効果があることが可視化されました」と語る。

 このようなアウトプットを伴う学びは、単元学習の中で時間が確保できないという問題も生じてしまいがちだ。その問題に対して和田氏は「アウトプットの時間を含めて、最初にカリキュラムに組み込んでいます。そうすると、板書の時間が減るなど、これまでの授業スタイルでは時間が不足する部分が出てきます。しかし、ICTを活用すれば事前に板書内容を生徒に共有するような工夫も可能になります。こうした授業カリキュラムは、授業をデザインする教師が学びにおけるアウトプットをどこまで重視しているかによって左右されてしまうため、前述したような学びの効果を可視化することも含めて、事例を表に出すようにしています」と話す。

 授業外でもiPadは積極的に活用されている。成徳中高では2021年の文化祭がオンライン開催となったが、そのライブ配信は生徒会が中心となり実施された。プロモーションムービーなども生徒たちが制作し、ドローンで撮影した映像を編集してYouTubeに投稿したという。「映像で流すテーマソングも生徒自身が作曲しました。ドローンも生徒自身が免許を取得して空撮するなど、学習の中で創造的な要素を組み込むことで、自律した人間へと成長していった姿が見られました」と和田氏。

動画編集などが行いやすいよう、校舎にはグリーンバックを設置したスペースを用意。
2021年のオンライン文化祭では、生徒会が主体となって映像配信やプロモーションムービーの制作を実施した。

学びに応じたOS選択

 こうした教育の質の高さが認められ、同校は2018年から、Appleが国際的にiPadを活用していることによる教育効果の高さを認定している「Apple Distinguished School」に選ばれている。認定されている学校は世界36カ国で689校であり、日本国内ではわずか11校だ。「そのうち東京都内の私立中高では、本校を含めた3校しかありません。授業や校外活動ではEveryone Can CreateというAppleの教育カリキュラムを採用しており、生徒の創造性を伸ばしながら、自分の考えをどうすればたくさんの人に伝えられるかを学んでいます」(和田氏)

 一方で、高等学校では生徒が使う端末のOSを指定せず、BYODでの1人1台環境で学びを進めている。その理由について和田氏は「本校は高等学校段階でゼミ形式の授業を行います。自然関連やプログラミングなどさまざまなテーマに基づき、実地調査や実技も含めた探究的な学びに取り組む授業です。このゼミ形式の授業で、例えばプログラミングをする場合、iPadだけでは力不足です。そのため、MacBookやWindows端末のようなPCを選択する生徒も少なくありません」と説明する。学習データなどはグーグルの「Google Classroom」で一元管理しているため、マルチOS環境で学習が進められるのだという。

「iPadなどを活用したICT教育は、現在日常的なものになってきています。今後はSTEAM教育にも展開して行く予定です。現在のPC教室を改装して、作った物を検証するLabスペースの構築なども視野に入れています。地域の人を巻き込んだ研究大会なども実施していきたいですね」と和田氏。

 社会に開かれた学びへと、変革が進む成徳中高。“徳を成す人間”の育成に向けた同校の取り組みは、これからも続いていく。