AWS TRAINING COURSE
---LESSON 01---
意外と答えられない・・・
クラウドってなんだ?
今号から連載する「AWS(Amazon Web Services) Training Course」では、読者の皆さまのビジネスに役立つクラウドやAWSに関する知識と情報を、誰かに話してみようと思うような面白いエピソードを交えながら、楽しみながら学べる内容で進めていきます。第1回目となる今回は「クラウドってなんだ?」という、基本的なテーマについて解説します。この問いに的確に答えられる人は、意外と少ないのではないでしょうか。それでは始めましょう。
自家発電から発電所による電力供給へ
コンピューターリソースも所有から利用へ
まずは講師を務めさせていただきます私の自己紹介から。私はアマゾンウェブサービス ジャパン(AWSジャパン)でパートナーアライアンス統括本部、テクニカルイネーブルメント部でマネージャーをしている相澤と申します。
新卒で外資系コンピューターベンダーに入社し、データベースのチューニングやベンチマークのプリセールスを15年間担当しておりました。生まれも育ちもオンプレミスエンジニアです。
生粋のインフラエンジニアだった私が「クラウドってこういうことか!」と腑に落ちた二つのエピソードを、キーワードとともに紹介しましょう。一つ目のキーワードは「所有から利用へ」です。
右ページに掲載した機械の写真が何か分かりますか。正解は発電機です。19世紀初頭の製造業にとって、発電機は憧れの設備でした。それは発電機を導入して自家発電できることが、当時の製造業における重要な差別化の一つとなっていたからです。
ところが大規模な発電所ができ、送電網が整備され、誰もが使いたいときに、いつでも電気が使える時代が到来しました。こうした変化に伴って発電機を所有していることは差別化ではなくなってしまったのです。
クラウドはITの世界で、この「所有から利用へ」のパラダイムシフトを起こしました。大規模な発電所を大規模なデータセンター群に置き換えてみましょう。発電所は地域ごとに設置され、送電網を通じて連携し、顧客に電気を供給しています。
例えばAWSは世界に24カ所(2021年1月現在)のリージョン(AWSでは複数のデータセンター群を「アベイラビリティーゾーン」(AZ)と呼び、複数のAZを束ねたものをリージョンと呼びます。リージョンとAZに関しては次回で詳しく解説します)を構築しています。発電所をリージョン、送電線をインターネット網に置き換えると、コンピューターが電気と同様に必要なときに、必要な分だけ、低コストで利用できるイメージがお分かりいただけると思います。
壊れることを前提としたシステム設計
サービスを止めないことが本来の目的
大規模な発電所とデータセンター群には共通のメリットがあります。それはユーザーが高価な設備を購入して、コストと手間をかけて運用したり保守をしたりしなくても、使いたいときに使いたい分だけ、電気やコンピューターリソースが利用できるのです。その利用料は電気料金と同様、使った分だけ料金が発生する、従量課金制です。
従来の主流であったオンプレミス型のシステムでは、サーバーやストレージ、ネットワーク機器などの設備を購入してシステムを構築します。すなわち高価な発電機を購入し自家発電することと同じ「所有」であり、クラウドは使いたいときに使いたいだけ使える「利用」となるわけです。
二つ目のキーワードは「ペットと家畜」です。オンプレミスではサーバーはペットのように大切に取り扱うのに対して、クラウドではサーバーは壊れても置き換え可能、特別なものではないという考え方です。
オンプレミスでUNIXサーバーやハイエンドストレージを担当していた私としては、このサーバーが壊れる前提で考えることに初めは抵抗があり、納得するのに時間が掛かりました。
しかしながら「Design for Failure」すなわち「壊れることを前提としたシステム設計」という考え方を学んでいくうちに、インフラに障害が発生してもサービスが動き続けることが重要であり、インフラが壊れたらすぐに代わりのものに置き換えてサービスを継続することが利用者には重要であり、どのサーバーで動いているかは重要でないということを理解した瞬間にAWSの虜になりました。
オンプレミスのスキルを生かし
クラウドらしい考え方を加える
クラウドとはコンピューターリソースを所有するのではなく、使いたいときに使いたい機能を、使いたい分だけすぐに利用できるサービスです。そのためクラウドとオンプレミスは全く異なる知識が必要になる、あるいはすでに習得しているオンプレミスの知識や経験が生かせない、こうした不安を抱く方が多くいらっしゃいます。
これからクラウドを学ぶ方にぜひ覚えておいて欲しいのは、皆さまが今持っているITスキルはクラウドを知る上でも重要だということです。私もクラウドエンジニアになる前は、今までの自分が培ってきたオンプレミスの考え方を180度変えなくてはいけないと戦々恐々としておりました。
しかし実際は、自分が持っていた今までのITスキルに少しだけクラウドらしい考え方、例えばDesign for Failureなどを足していく、そうすることでクラウドらしい設計ができるということに気が付いて気持ちが楽になりました。
私はAWS入社当時、データウェアハウスを専門に担当しました。AWSのデータベースには「Amazon RDS」や、データウェアハウスの「Amazon Redshift」などのサービスがありますが、当時これらのサービスを知れば知るほどクラウドの可能性を強く感じ、エンジニアとしてワクワクしたことを昨日のことのように鮮明に覚えています。
本連載では私がクラウドで体験したエンジニアとしてのワクワク感、AWSをもっと知りたいと感じた経験を、AWSの魅力とともに伝えていければと思います。次号ではAWSを学ぶ上でのラーニングパスとリージョンおよびAZに関して解説します。