地方におけるICTの課題解決を目指す
JUSAと3自治体による包括連携協定

2022年4月12日、クラウドPBXやWeb会議、テレワークを推進する事業者の団体である一般社団法人日本ユニファイド通信事業者協会(JUSA)と千葉県館山市、静岡県松崎町、静岡県西伊豆町が地域ICT活用促進に関する包括連携協定を結んだ。4者はこの包括連携協定で地方都市が抱える課題の解決を目指す。その取り組み内容について東京都内で行われた記者発表会の内容をリポートする。発表会では締結式のほか、JUSAの会員企業である日本マイクロソフトやZVC Japanによる基調講演も行われた。

UCの活用が鍵を握る

JUSAと3自治体による包括連携協定締結式
東京都内で開かれたJUSAと千葉県館山市・静岡県松崎町・静岡県西伊豆町による「包括連携協定締結式」の様子。左からJUSA 会長 近藤邦昭氏、千葉県館山市 市長 金丸謙一氏、静岡県松崎町 町長 深澤準弥氏、静岡県西伊豆町 町長 星野淨晋氏。

 働き方改革の推進や新型コロナウイルス感染拡大に伴って多様化する働き方。そうした中で脚光を浴びているのが、音声通話、メール、チャット、ビデオ通話といったさまざまな通信手段を連携・統合してコミュニケーションの円滑化を図る「Unified Communication」(UC)である。昨今では、UCをクラウドサービスとして提供する「Unified Communication as a Service」(UCaaS)のニーズも高まっている。

「UCは災害時のコミュニケーション手段として2011年の東日本大震災を契機に利用が加速し始めました。そしてさらにその勢いは、働き方改革の推進やコロナ禍によるテレワークの普及とともに強まっています。自宅や外出先などのオフィス以外の場所にいても、オフィスと変わりなく業務をこなすためには、UCの活用が欠かせません。働く場所にとらわれない働き方は、都市部と地方都市の垣根をなくし、地方創生の実現にもつながっていくと考えています」とJUSA 会長 近藤邦明氏は話す。

 人々の働き方に変化が起きているのは世界でも同様である。新型コロナウイルスの感染拡大防止のために行われたロックダウンや外出自粛により、テレワークが進んだ。現在、新型コロナウイルスに関する規制が解除されつつある中で、海外のビジネスパーソンの働き方は日本よりも一歩先を進んでいるようだ。「当社は『Zoom Meetings』をはじめ、さまざまなUCサービスを提供しています。コロナ禍でテレワークの浸透が進んだことにより、世界シェアが大きく伸びたのは言うまでもありません。米国では、UCを有効的に活用することでコロナ前と変わらない職場環境を築き上げ、多くの企業で社員が出社/テレワークを自由に選択できる働き方が実践されています。遠隔地で仕事をしていても評価やポジションを下げることなく働ける環境は、優秀な人材を確保するための企業アピールにもなっています。働き方の多様化が求められる中で、日本の企業においてもUCの活用が鍵を握るでしょう」とZVC Japan 社長 佐賀文宣氏は基調講演で世界におけるUCの潮流を語った。

ICTに触れる機会を増やす

 もちろん日本でも働き方改革に挑戦する先進的な企業も存在する。「ICTを活用した働き方改革への挑戦」と題して基調講演を行った日本マイクロソフト モダンワーク&セキュリティビジネス本部 本部長 山崎善寛氏は同社の取り組みを次のように話す。「コロナ禍をきっかけにテレワークへの意識がより深まりました。当社では、ICTソリューションの活用によって遠隔勤務を可能にし、都市部から地方都市へ移住したり、二拠点生活を始めたりと社員が新たな働き方に挑戦しています。生活の質や業務の生産性が上がるといった効果も生んでいます」

 こうした例がある一方で、地方都市においてはいまだにICTの活用が進んでいないケースが多いのが実情だ。「静岡県西伊豆町では高齢者の割合が50%を超えており、少子高齢化が深刻です。高齢者のデジタルデバイド(情報格差)が浮き彫りとなったり、労働人口が減少したり、さらには子育て世代が減少して学校が廃校となったりするなどさまざまな問題が生じています。これはほかの地方都市でも同じことが言えるでしょう。ICTを活用することで、こうした地方都市の課題を解決できるのではないかという思いから、JUSAさま、千葉県館山市さま、静岡県松崎町さまと共同で包括連携協定を結ぶことになりました」と静岡県西伊豆町 町長 星野淨晋氏は話す。

 包括連携協定の主な取り組みとしては以下の二つだ。

(1) 地域におけるICT・UCaaS推進のサポート
(2) 都市部人材の地域ワーク促進

 ICT利活用の促進やICT教育の推進、地域課題の解決、地域経済の活性化などを目的にさまざまな活動を行っていく。「地域におけるICT推進のサポートでは、JUSAの会員企業がイベントなどのプログラムを用意し、自治体さまには会場を提供していただきます。ドローンの体験、海底ケーブルの見学などのプログラムを用意し、小学生から高齢者まで幅広い世代がICTの仕組みを学び、実際に触れる機会を設けたいと考えています。都市部人材の地域ワーク促進は、ワーケーションの可能性を探るものです。地方都市でも都市部と変わらない働き方が可能であると示すことで、人口の増加、地方創生に貢献できるのではないかと考えています」(JUSA 事務局長 安カ川幸司氏)

地域間の交流を深める

 今回の包括連携協定は三つの市町が連携して行うということもポイントだ。「一つの自治体で行うよりも、複数の自治体が連携することで、地域間の交流はより深まります。遠隔地から災害支援を行ったり、情報交換しながら地域課題の解決に向けて取り組んだりといった、新たな広がりが生まれています」と静岡県松崎町 町長 深澤準弥氏。

 千葉県館山市 市長 金丸謙一氏は「地方都市における情報格差の広がりは非常に懸念される問題です。今回の包括連携協定はその心配を払拭できると確信しています。ICT利活用の促進やICT教育の推進、地域課題の解決、地域経済の活性化に向けて、JUSAさま、静岡県松崎町さま、静岡県西伊豆町さまと共に力を入れて取り組んでいきます」とこの連携に期待を込めた。