3D立体視の新体験にビジネスチャンス
日本エイサー
ASV15-1BP
日本エイサーが展開する3Dモニターシリーズ「Acer SpatialLabs View」は、高度な光学機能、リアルタイムレンダリングソリューションにより、直感的な操作と臨場感を実現するというコンセプト。同シリーズの15.6インチモニター「ASV15-1BP」は、ビジネスシーン向けの「Acer SpatialLabs View Pro」という製品で、裸眼で3D立体視を実現する。3D体験といえば、VRゴーグルのように左右それぞれにスクリーンを用意する方式が一般的だが、ASV15-1BPはゴーグルやメガネなどを装着する必要がなく、通常のモニターを見るようにして3D立体映像を体験できる。その驚きは、実際に目にすると実感するのだが、誌面でどこまで伝えられるか、文章と事例から3D体験への想像力を膨らませてもらいたい。
text by 森村恵一
裸眼で3D立体視を実現する仕組み
15.6インチモニター「ASV15-1BP」が裸眼で3Dの立体視を体験できる理由は、日本エイサーが開発した映像技術「SpatialLabs」にある。SpatialLabsテクノロジーの基本は1枚の液晶パネルに左右の目用の画像を交互に表示する仕組みだ。テクノロジーを解きほぐしていく前に、そもそも立体視とは何かを復習しておこう。私たち人間の左右の目は、約6cm前後の開きがある。その開きにより、左右の目では視認する像にわずかなズレがある。このわずかな像のズレを脳は奥行きとして知覚する。この原理を逆に応用すると、2次元の画像に疑似的な左右の目が錯覚するズレを作れば、人の脳は奥行きを感じて対象物を立体だと視認する。10年以上前に登場した3Dテレビでは、左右のズレを交互に表示して、専用のメガネで見分ける方式で立体視を実現していた。当時は専用メガネを使う3Dテレビの立体視は大衆娯楽として好まれなかったものの、VRゴーグルに代表され、左右それぞれにスクリーンを用意する3D方式が登場し、ゲームや一部の仮想現実体験でのニーズを満たしてきた。こうした過去の立体視に対するテクノロジーに対し、ASV15-1BPは裸眼による3D表示を実現した。その鍵となる技術は、映像を見た時に左右の目で見え方が異なる映像を同時に表示できる特殊な液晶モニターと、モニターの前に座る人の目の位置や動きを追随する「アイトラッキング用Webカメラ」にある。ASV15-1BPは、モニターの前にいる人の目を2台のWebカメラで認識して、左右の目の視差を計算する。そして、計算結果から液晶モニターに組み込まれた特殊フィルターを制御して、左右の眼に合わせた映像のズレを映し出す。それに加えて、3D立体映像そのものをレンダリングするために、ASV15-1BPは専用アプリも用意している。つまり、専用アプリとアイトラッキング機能を備えた3Dビューモニターの組み合わせによって、裸眼での立体視体験が実現した。
設計からアミューズメントまで応用
ASV15-1BPで標準搭載しているアプリケーションは、「SpatialLabs Model Viewer」「SpatialLabs Go」「SpatialLabs Player」の三つになる。まず、SpatialLabs Model Viewerは、3D形式のファイルをインポートして3Dで表示するアプリ。3D設計アプリケーションの「Autodesk 3DS MAX」や「Blender」などで作成されたファイルも、SpatialLabs Model Viewerに転送して3D表示できる。SpatialLabs Goは、Blenderを使用して、2Dで編集したデータをリアルタイムで3D表示するアプリ。例えば、通常の2Dモニターでコンテンツを作成してASV15-1BPで3Dプレビューする、といった使い方ができる。そして、SpatialLabs Playerは、右目と左目用の映像を左右に並べたサイドバイサイド方式でサッカー観戦など3Dでの映像視聴が可能だ。
仕様としては、Adobe RGB比100%、デルタ E2未満の正確な色精度にも対応している。本体には折り畳み式のスタンドが付いていて、VESAマウントも利用可能だ。入力端子はHDMI 2.0、USB 3.2のType-CとType-Aを備える。1点、求められる性能が高い点に注意が必要だ。CPUは第8世代以上のインテル Core i7プロセッサー以上に加え、NVIDIA GeForce RTX 3070 Ti Laptop以上のGPUと、Windows 10以降のOSが必要だ。3D設計やモデリングで利用するワークステーションやゲーミングPCなどなら、ほぼ対応できる性能になるだろう。高性能なPCとASV15-1BPに専用アプリ、そして3Dデータがそろえば、いよいよ裸眼3D立体視を体験できる。
手に取りたくなるような眼前に迫る3D
今回は日本エイサーのショールームで用意してもらった3Dデータを体験したが、その印象は想像していた立体感よりも現実味があった。3Dのフィギュアの立体視では、目の前に実物があるように思え、手を伸ばしたら取れそうな錯覚を起こした。また、2Dの画像データをAIで解析して3D画像に表示しても没入感が高く、単なる鑑賞用というよりも広告などで活用できそうな表現力がある。
そして、最もビジネスの可能性を感じたデモンストレーションが、医療関係の専用ソフトをASV15-1BPに映した時だった。これはサイアメントが開発した立体ビューワーソフトウェア「Viewtify」で、DICOMデータを瞬時に3DCGに変換して3D表示する。デモンストレーションでは、CTスキャナで撮影した数百枚の画像から、胸部の立体データを3D表示した。医療関係の専門家がデモを行ったところ、平面的な映像では体験できないリアルさに感嘆したという。
映像表現は、平面的に捉えていたデータを3次元データとして収集できるまでに進化した。しかし、それを視認するデバイスの主流はVRゴーグルなど個人向け製品にあり、ビジネスでの実用性は模索段階にある。その限界が、ASV15-1BPによる裸眼3D立体視によって革新されようとしているのだ。ASV15-1BPを体験した開発者やエンジニアは、きっと手元のデータや画像を3Dで表示したいと考えるだろう。そうした勢いが強くなれば、今後はさらに優れたアプリやビューワーが登場するなど市場の拡大が期待できる。それだけに、ASV15-1BPの登場は今後の映像表現において大きな希望であり、ビジネスチャンスとなるはずだ。