商業生がプロジェクションマッピングにチャレンジ
デジタルとクリエイティブが支援する地域振興とは
茨城県立那珂湊高等学校(以下、 那珂湊高校)は、2009年に那珂湊一高と那珂湊二高の統合により誕生した公立高校だ。 普通科と商業に関する学科 (会計ビジネス科、 起業ビジネス科、 情報ビジ ネス科)を有しており、地域の未来を担う人材の育成を進めている。 商工会議所と連携してオリジナルご当地マスクをデザインす るなど、 産学連携の取り組みも盛んだ。 そうした取り組みの一つとして同校が参加したのが 「ひたちなかプロジェクションマッピ ング 2022 in ひたちなか開運鐵道神社」だ。
生徒発案で地域振興イベントへ参加
「ひたちなかプロジェクションマッピング2022 in ひたちなか開運鐵道神社」は、みなとメディアミュージアムが主催する地域活性化を目的としたイベントだ。本イベントは、阿字ヶ浦駅にあるひたちなか開運鐵道神社のご神体として祀られている「キハ222」の車体にプロジェクションマッピングを行うものだ。那珂湊高校を合わせて4校がそれぞれ作成したプロジェクションマッピングを車両に投映し、阿字ヶ浦駅を幻想的な雰囲気に盛り上げた。
那珂湊高校が作成したプロジェクションマッピングコンテンツは、アドビが提供する動画編集ソフトウェア「Adobe Premiere Pro」(以下、Premiere Pro)と、動画にエフェクトなどを追加して編集できる「Adobe After Effects」(以下、After Effects)を使用している。同校では元々さまざまなクリエイティブアプリやサービスを利用できるサブスクリプション型メンバーシップ「Adobe Creative Cloud」を契約しており、学びの中でグラフィックスソフトウェア「Adobe Illustrator」(以下、Illustrator)などのクリエイティブソフトを日常的に活用している。
そもそもの発端は、同校の情報ビジネス科の授業の課題としてプロジェクションマッピングの制作を行ったことだった。同校では1年生からIllustratorを活用してデザインを行っている。那珂湊高校の知的財産教育担当 商業科主任の成冨雅人氏は「このキャラクターが描かれたパッケージもIllustratorでデザインした作品なんですよ」とちょうど手元にあったビニールの手提げ袋を示した。袋に描かれたひたちなか市準公認キャラクター「みなとちゃん」も、那珂湊高校生が考えたものだという。
そうした地域との取り組みの中で、今回のイベントの存在を知った生徒たちは、授業の中で制作したプロジェクションマッピングのノウハウを生かしてキハ222への投映をしたいと発案した。最終的に起業ビジネス科や情報ビジネス科、会計ビジネス科の2、3年生から構成される5名のチームで、各々の得意分野を共有し、相談しながらプロジェクションマッピングを制作した。
制作に当たっては、After Effectsの使い方について宝塚大学の渡邉哲意教授と同大学の学生が那珂湊高校に来校し、3日間の集中講義を実施。そのほか、Zoomなどのオンライン会議でツールの使い方などを確認したり、相談したりしたという。
高校生に必要なデザインスキル
2022年11月12日に実施された本イベントでは、那珂湊高校の生徒たちは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で現地に来ることができなかったが、動画によるコメントを発表した。「全世代に愛される」ことをコンセプトにしたプロジェクションマッピングでは、地元で愛される「くじらの大ちゃん」というキャラクターを登場させたり、前述したみなとちゃんや地域商店街とのコラボ商品の名称を登場させたりするなど、地元の高校生ならではの視点から制作したプロジェクションマッピングで、イベントに訪れた人々を楽しませた。本イベントには4校5チームが参加し、コンテンツの審査も行われた。那珂湊高校は残念ながら最優秀賞の受賞はならなかったが、宝塚大学賞の受賞が決まった。
生徒たちのプロジェクションマッピングを見た成冨氏は「地元の高校ですので、地域に根ざしたコンテンツが制作できていましたね。本校は2018年から従来の検定取得のための学習から、デザインを中心とした学習内容に舵を切っています。この近辺の中小企業はパッケージ制作のために外注するコストも厳しいケースがあり、デザインできる人材というのは大きな需要があります。アドビのクリエイティブソフトを使える、デザインできるというスキルは、今の高校生にとって必要なスキルの一つと言えるでしょうね」と語った。