電力スマートメーター通信網を活用
水道自動検針に関する静岡市の取り組み
水道事業において欠かせないのが、検針業務だ。水道使用者に毎月の水道使用量を伝えるだけではなく、漏水の早期発見など重要な役割を担っている。そんな検針業務をIT技術によって効率化する取り組みが進んでいる。今回は、電力スマートメーター通信網を活用して水道自動検針の実証試験を行う静岡市を取り上げる。
静岡県のほぼ中央に位置する人口約68万人(2023年4月時点)の政令指定都市。温暖な気候に恵まれ、北部の南アルプスから南部の駿河湾まで、豊かな自然環境を有している。今川家や大御所時代の徳川家の城下町として、独自の文化や産業を育み、日本の中枢都市として発展を続けてきた。「お茶」「桜えび」「プラスチックモデル」など多種多様な特産物を生み出している。
検針業務にかかる負荷を取り除く
IT技術を活用して水道の検針業務の省力化や新たなサービスの創出に取り組んでいるのが、静岡市だ。静岡市では、水道の検針業務に関する実証試験を実施しており、2023年1月から新たに開始したのが、「電⼒スマートメーターの通信網を活⽤した中⼭間地域の⽔道⾃動検針に関する実証試験」と「⽔道⾃動検針のアタッチメント型スマート⽔道メーターの実証試験」である。その理由を静岡市 上下水道局の担当者は「静岡市は市域が広く中山間地を多く抱えています。そのような中で、特に中山間地域の検針員の担い手が、人口減少、高齢化の影響により減っており、検針の継続性を確保することが難しくなっています。そのため、検針継続性の確保という課題の解決に寄与する機器として通信機能を備えた『スマート水道メーター』に以前から注目していました。スマート水道メーターの特性を知り、この先進技術が広域な市域においても導入が可能か検証するために、実証試験を行っています」と話す。
電⼒スマートメーターの通信網を活⽤した中⼭間地域の⽔道⾃動検針に関する実証試験は中部電力と共に、⽔道⾃動検針のアタッチメント型スマート⽔道メーターの実証試験は中部電力、アズビル金門、東芝インフラシステムズ、日本ウォーターソリューション、Toshinと共に実施している。中⼭間地域の⽔道⾃動検針に関する実証試験について、中部電力の担当者は「静岡市では2020年12月から市街地の集合住宅における自動検針の実証を行い、その有用性を確認していました。そして、次のステップとして、水道の検針業務に手間やコストがかかり、自動化の導入効果が高い中山間地域を対象エリアに、水道の自動検針と広域での電力スマートメーター通信網の有用性の検証を進めていくことになりました」と話す。続けて、「⽔道⾃動検針のアタッチメント型スマート⽔道メーターの実証試験は、将来の検針員不足、漏水などの課題に対し、解決の手段となり得るスマート水道メーターの知見を深めたい静岡市と、電力スマートメーター通信網をさらに活用することを模索していた中部電力、新技術を検証するフィールドを求めていたアズビル金門、東芝インフラシステムズ、日本ウォーターソリューション、Toshinの4社、それぞれの思惑が合致したことから、今回の実証試験の実施に至りました」と説明する。
水道自動検針における知見を深める
中⼭間地域の⽔道⾃動検針に関する実証試験と、⽔道⾃動検針のアタッチメント型スマート⽔道メーターの実証試験の検証内容は以下の通りだ。
【中⼭間地域の⽔道⾃動検針に関する実証試験】
静岡市葵区および清水区の中山間地域の個人宅(100戸)にスマート水道メーターを設置(機械式水道メーターから電子式水道メーターに交換)し、遠隔地でもデータが取得できるか有効性を検証。
中部電力の電力スマートメーター通信網が、中山間地域という電波不感箇所が想定される場所においても機能するか検証。
【アタッチメント型スマート水道メーター実証試験】
アタッチメント型スマート水道メーター(機械式水道メーターにアタッチメントを装着)を静岡市清水区および三保地区の個人宅(100戸)に設置し、検針精度や漏水検知精度を検証。
製品化に向けた機能の有効性を検証。
水道自動検針のデータの送信には、中部電力の電力スマートメーター通信網が利用されている。電力スマートメーター通信網は、中部電力グループ管内に網目のように設置した電力スマートメーター約1,000万台をアンテナとして利用するもので、電子式水道メーターで取得したデータを通信端末から最寄りの電力スマートメーターに無線通信する。隣接した電力スマートメーターが相互にバケツリレー方式で中継装置へ送り、そこから管理システムへ、主に電力系統の制御用の光ファイバーを用いて送信する。
実証試験で用いるアタッチメントは、機械式水道メーターに取り付けて活用するものだ。画像撮影やメーター指示値の読み取り(OCR)機能が具備されており、電子式水道メーターに取り替えることなく、既存の水道メーターで自動検針が可能となる。また、内蔵の振動センサーにより、近傍管路(宅内・道路側)の漏水検知が可能となる。今までは宅内漏水検知に関するものが主であったが、今回の実証試験では、道路側の配水管の漏水検知まで行う。
検針継続性の確保を期待
静岡市 上下水道局の担当者は実証試験を通して、期待する効果を「中山間地域での実証試験については、広域な市域においても電波条件などに左右されずに検針が確実にできるという検証結果を得ることで、検針継続性の確保という水道検針における課題解決につながれば良いと考えています。また、アタッチメント型スマート水道メーター実証試験については、先進技術が製品という形で実用化に近づくことで、より多くの付加価値が増えることを期待しています」と話す。
静岡市と共に実証試験を行う中部電力は、今回の実証を契機に水道事業へのテレメータサービスの本格普及により一層注力していく予定だという。
今後の展望について「メーターの価格が高額であることから、現在は本格導入が難しい状況ですが、導入が可能となった段階で早期導入ができるよう準備を進めていきます。実証試験を通じて、先んじて導入時の課題を解決しておき、収集した検針情報の正確性の検証、使用量データを活用した付加価値サービスの検討を行い、導入に向けた足掛かりにしたいと考えています」と静岡市 上下水道局の担当者は意気込みを語った。