デジタル技術で高齢者の健康を守る
神石高原町の取り組み
筋力や基礎体力、免疫力といった身体機能は年齢を重ねるごとに衰えていく。加齢に伴う身体機能の低下によって、糖尿病、高血圧症、変形性膝関節症といったさまざまな病気を発症するリスクも高まる。そうした病気の予防や早期発見をするためには、日頃からの健康管理が鍵を握る。そんな健康管理をデジタル技術を用いて支援する取り組みを広島県神石高原町とNTTドコモ(以下、ドコモ)が共同で実施した。
広島県の東部に位置する人口8,195人(2023年3月時点)の町。のどかな里山や、湖、渓谷など豊かな自然が広がる。面積の80%以上が森林で、標高400〜500mの場所にあるため、寒暖の差がはっきりしており、夏は涼しく冬は寒さが厳しい。昔から避暑地としても親しまれている。
高齢化がもたらす課題解決に向けて
広島県の東部に位置する神石高原町は、人口8,195人(2023年3月時点)の町だ。多くの自治体における課題の一つとして、少子高齢化が挙げられているが、神石高原町においてもそれは例外ではないようだ。
「神石高原町では、広島県内でも高齢化率が高く、若者は減少しているという少子高齢化が深刻に進んでいます。高齢化に伴って、医療機関を受診する割合も増え、1人当たりの医療費をはじめとする社会保障の費用が大きな財政負担となっています。それに加えて、医療従事者の不足など、さまざまな問題が発生しており、改善の糸口を探していました」と話すのは、神石高原町 保健福祉課 松井和寛氏だ。
そうした問題を解決するために取り組んだのが、ドコモと共に実施した「高齢者の生活習慣ケアシステム構築に関する実証実験」である。「高齢者の予防医療を行うことで、当町が抱える課題を少しでも解決できるのではないかと考え、公募型プロポーザルを実施しました。そして、さまざまな技術や知見を持つドコモさまと共に、この実証実験を進めることになりました。スマートフォンやウェアラブル端末を介して住民の生活習慣や血圧などのデータを取得し、それを健康管理に役立てるものです」と神石高原町 保健福祉課 江村英哲氏は取り組みの背景を語る。
健康活動の促進に生かす
実証実験は、2022年12月から2023年2月末までの期間で行われた。ウェアラブル端末やスマートフォンを活用し、歩数や睡眠などの生活習慣データ、血圧データといった参加者の健康情報を取得。生活習慣データなどは、ドコモが提供する「健康マイレージ」というアプリケーションを活用して収集を行う。実証実験の検証ポイントは以下の通りだ。
1. 高齢者の予防医療の検証
ウェアラブル端末の活用で行動変容が起こるか。
行動変容による社会保障費へのインパクトはどうか。
2. データ連携の有用性の検証
ウェアラブル端末で取得した健康情報を医師と連携し、治療に役立てられるか(ひろしま医療情報ネットワークの活用)。
オンライン医療の実施に向けた検証など。
「収集した住民の生活習慣や血圧などのデータは、さまざまな場面に役立てられると考えています。例えば、血圧の上昇リスクをAIで推定して、住民に高血圧症などのリスクを通知、運動や食生活といった普段の生活習慣の見直しを伝えることで病気予防につなげられます」(松井氏)
広島県では、広島県医師会と共に「ひろしま医療情報ネットワーク」(HMネット)を運営している。これは、HMネットに参加した病医院や薬局が、患者の診療情報を共有することで、重複した検査や投薬などを防げるというものだ。このHMネットと住民の健康情報などのデータを連携することで、医療機関による診察にも役立てられるようになるのだという。
健康に対する意識が向上
実証実験の参加者からは、「ウェアラブル端末でデータを取得することで、自身の健康状態を可視化でき、健康活動の促進につながった」「病気に対するリスクなど、普段はあまり考えずに生活していたが、健康に対する意識が高まった」などの声があったという。
実証実験で得た結果から、今後は生活習慣病の予防やフレイル対策としての機能などを実装していく予定だという。また政府が運営する「マイナポータル」との連携(医療保険情報取得API連携)による生活習慣病などの重症化予防にも取り組んでいく。
最後に今後の展望について「ウェアラブル端末によって取得したヘルスデータをプラットフォームに集約し、ビッグデータにすることで、質の高い医療サービスの提供、医師の診断・治療といった診療支援やソフトウェアの開発につながっていくと考えています。町民の健康寿命の延伸や重症化予防に向けて、今後もこうした取り組みを継続していきます」と江村氏は意気込みを語った。