自治体×デジタルの最新事例を紹介!
「自治体・公共Week 2023」
2023年6月28〜30日の3日間にわたって、東京ビッグサイトで「自治体・公共Week 2023」が開催された。本イベントでは、自治体・公共向けの「住みやすいまちづくり」「活性化」「業務効率化」につながるさまざまな製品・サービスの展示に加え、最新の公共政策や自治体の取り組み事例を学べる講演・セミナーなども行われた。今回はその中から、スマートシティ、地方創生、デジタル化、地域防災などをテーマに実施された各自治体による講演やセミナーを取り上げる。
自治体・公共Week 2023
国家戦略特区加賀市のスマートシティ構想
スマートシティで地方課題を乗り越える
石川県の最南端、金沢市と福井市の中間に位置する加賀市。人口は約6万3,000人(2023年4月1日時点)で年々減少の一途をたどっており、人口流出・少子化が進むことで存続できなくなる恐れのある自治体を指す「消滅可能性都市」と指摘された。この課題を解決するべく取り組んでいるのが、「スマートシティ構想」だ。加賀市では「スマートシティ加賀構想」を掲げ、地方創生に励んでいる。「2016年に経済産業省と情報処理推進機構(IPA)の地域におけるIoTプロジェクト創出のための取り組み『第1回地方版IoT推進ラボ』に選定、2020年には、日本政府が世界経済フォーラムと共同でスマートシティの効果的・効率的な運用に資する共通認識を醸成するために設立した『G20スマートシティ都市連合』のパイオニア都市に認定されました。そして2022年には、国家戦略特区の一つである『デジタル田園健康特区』に指定を受けました。こうした歩みを重ねながら、先端技術を活用した新たな取り組み、関係人口の創出、人材育成などを進めています」(石川県加賀市 最高デジタル責任者(CDO) イノベーション推進部 山内智史氏)
加賀市が進めている取り組みの一つとして紹介したのが、空飛ぶクルマやドローンなどの先進技術を活用した実証だ。加賀市では、市内の生活圏域全体をカバーする3Dマップを作成し、空飛ぶクルマやドローンが飛行できる環境を整えるなどインフラ整備を積極的に進めている。2023年3月には「ドローンを活用した血液輸送の実証実験」を行い、災害時や地域医療におけるドローン活用の可能性を示した。ドローンをはじめとする先進技術の利用を通じて産業・経済・社会に変革をもたらす新たな産業集積に向けた取り組みが進められている。
ほかにもマイナンバーカードと顔認証技術を活用して市民生活の利便性を向上させる「加賀市版スマートパス構想」など人口減少から脱却するための地方創生モデルが紹介された。
ウェルビーイング先進地域を目指して
ウェルビーイングを高めるまちづくり
「心も身体も社会的にも満たされている状態」「実感としての幸せ」「心の豊かさ」などを意味する言葉を“ウェルビーイング”と言う。富山県では、このウェルビーイングを成長戦略の中心として位置付けている。「ウェルビーイングを実現することによって、次世代の価値を生む人が育ち、県外からも多様な人々が集まる魅力あふれるまちになります。富山県では『幸せ人口1,000万〜ウェルビーイング先進地域、富山〜』というビジョンを掲げ、六つの施策を柱に県の新たな成長を目指しています」(富山県知事 新田八朗氏)
富山県の成長戦略における施策は、多様な人材が生き生きと暮らせる環境づくりを推進する「真の幸せ(ウェルビーイング)戦略」、地域の特色や強みを生かした居心地の良いまちづくりを推進する「まちづくり戦略」、“富山県=ウェルビーイング”のイメージを国内外へ発信する「ブランディング戦略」、新たな世界の潮流に合った産業構造の実現を目指す「新産業戦略」、富山県の成長経済の種となる新たな産業や企業の創出を目指す「スタートアップ支援戦略」、民間のニーズに合った施策を創出するための基盤をつくる「県庁オープン化戦略」の六つだ。
こうした戦略を支える重要な要素の一つとして、デジタル技術が挙げられる。「富山県では、先進的なデジタル技術を活用して地域課題の解決を目指す実証実験のプロジェクト『Digi-PoC TOYAMA』や、デジタル先進国であるシンガポールにおける研修を実施するなどさまざまな取り組みを行っています。今後も地域課題を解決し、ウェルビーイングを高めるまちづくりを進めていきます」(新田氏)
白井市における官民連携で進めるDX
⺠間事業者のノウハウを生かす
少子高齢化の進展に伴う人口減少、地域における担い手不足などのさまざまな問題によって、従来通りの行政手法のままでは、現在の市⺠サービスの水準を維持するのが困難になりつつある。「社会情勢の変化に対応し、市⺠サービスを維持・向上していくための課題解決方法の一つとして、官⺠連携の取り組みにより⺠間事業者のノウハウを生かした行政運営の必要性が高まっています」(千葉県白井市 市長 笠井喜久雄氏)
官民連携の取り組みを進めるに当たって、白井市ではさまざまな事業者と「包括連携協定」や「個別連携協定」を結んでいる。その中の一つに、デジタル技術を活用して地域コミュニティーの活性化や庁内業務の効率化を目指す、白井市とアデコおよびプリマジェストの3者が行う官民連携の取り組みがある。この取り組みの一環として行われたのが、AIによるコンテンツ生成のデモンストレーションおよびAIコンテンツとの関わり方について学ぶ「デジタル体験会」だ。実際に、中学生にAI技術を活用した楽曲作成や小説の執筆などを体験してもらうイベントを用意した。「楽しみながら最新技術に慣れ親しんでもらうことで、デジタル技術全般に対する興味・関心の醸成につなげていきます。こうしたデジタル技術にノウハウを持つ企業との連携によって、地域におけるデジタル技術の浸透や将来のデジタル人材の育成などに期待しています」(笠井氏)
岐阜県大垣市の防災×DX事例
デジタル技術で市民を守る
岐阜県大垣市は、デジタル技術を活用した防災対策を積極的に行っている自治体の一つだ。地域の防災力向上とデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を図るため、民間事業者と実証実験を踏まえて事業化を進める防災施策デジタル化推進事業「Urban Innovation OGAKI」に取り組んでいる。
その取り組みにおいて、防災×DXをテーマに①デジタル防災システムの開発、②防災備蓄管理システムの開発、③避難所受付支援システムの開発という三つの実証が進められている。①は、スマートフォンを通して自宅でできる防災訓練アプリを開発し、防災意識の向上や災害時の正しい避難行動につなげていくという実証。②は、庁舎や指定避難所などの備蓄倉庫の管理を防災備蓄管理システムを通して可視化し、被災者に必要な物資を迅速に支援できる体制を整えるという実証。③は、避難所の受付や混雑状況の確認をデジタル化することで、避難所受付に生じる行列、避難所の定員オーバーによる避難者のたらい回しなどを解消するための実証だ。「防災は事前対策が約8割と言われています。官民連携で防災×DXを進めていき、市民一人ひとりを守る取り組みを強化していきます」(岐阜県大垣市 生活環境部 武田良介氏)。