自治体初のAI搭載アバター職員を採用
「鳥取県メタバース課」

昨今、インターネット上に構築された3次元の仮想空間「メタバース」を用いて、地方創生に力を入れる自治体が増えている。今回は、県庁内に「メタバース課」を立ち上げ、全国の自治体で初となる音声会話や感情表現が可能なAI搭載のアバター職員の採用を行った鳥取県を取り上げる。メタバース課とはどのようなことを取り組む課なのか、AIアバター職員とは一体どのような人物なのか、その内容を取材した。

鳥取県

人口約54万人(2023年5月時点)、中国地方の北東部に位置し、東西約120km、南北約20~50kmと、東西にやや細長い県。北は日本海に面し、「鳥取砂丘」をはじめとする白砂青松の海岸線が続き、南には、中国地方の最高峰「大山」や、中国山地の山々が連なっている。気候は比較的温暖。春から秋は好天が多く、冬には降雪もあるなど、四季の移り変わりを鮮やかに感じられる。
写真提供:鳥取県

県庁内に架空の組織を設立

 人口減少は全国の自治体にとって喫緊の課題だ。人口が最も少ない県である鳥取県においても、それは例外ではなく、2021年時点で戦後初めて人口が55万人を下回るという人口問題を抱えている。この問題を解決するべく鳥取県が注目したのが、インターネット上に構築された3次元の仮想空間であるメタバースだ。「人口問題に加え、新型コロナウイルス感染拡大の影響も重なり、国内外の観光客が大きく減少している状況でした。今後、鳥取県をPRしていく上で戦略の一環として、メタバースを取り入れました。そして実際に、県庁内に架空の組織『メタバース課』を設⽴し、⽇本初(鳥取県調べ)となる⾃治体オリジナルAIアバターを職員として採用しました」(鳥取県 交流人口拡大本部 東京本部 担当者)

 鳥取県は、2022年にWeb3.0型メタバース「XANA※1」(ザナ)を開発するNOBORDER.z FZE(ノーボーダーズ)、手塚プロダクション、J&J事業創造と共同で地方創生と地域経済への貢献をテーマにしたNFTプロジェクトを立ち上げている。「鳥取県は『NFTトレーディングカード※2』(以下、NFTカード)の背景となる観光地などの画像を提供するという形で協力しています。鳥取県のさまざまな観光地を背景画像に活用した『ASTROBOY 鉄腕アトム』のNFTカードを使ったカードゲームを開発しました。昨年5月の販売開始と同時に世界中から注目を集め、世界90カ国から購入エントリーを受け、ほぼ完売となる人気でした。このような経緯もあり、引き続きXANAのメタバース空間で何かできないかと話を進めていく中で、メタバース空間内にNFTカードの展示スペースとAIアバター『YAKAMIHIME』を制作することになりました。そして2023年2月にメタバース課を立ち上げました」(担当者)。


※1:NOBORDERZが、メタバース用にカスタム構築したAI主導のWeb 3.0インフラストラクチャ

※2:ブロックチェーン技術を活用したデジタルトレーディングカード

AIアバター職員とスムーズに対話

↑メタバース課で働くAIアバター職員のYAKAMIHIME。専用のWebサイトにつなぐと現れ、音声やチャットで質問すると24時間365日、応答してくれる。

 メタバース課は、⽇本初となる⾃治体オリジナルAIアバターを職員として採⽤した⿃取県庁内の架空の組織だ。具体的には、メタバースの中に先述したNFTカードを展示した空間(ルーム)がある。訪れた人はアバターを作成して、ルームの中を自由に散策できる。NFTカードをタップすることで、それぞれの背景画像の情報が表示され、鳥取県の観光地などを知ることが可能だ。

 AIアバター職員の「YAKAMIHIME」は、XANAが独自開発するAIを搭載した「XANA:Genesis」(ザナジェネシス)というNFTのキャラクターだ。「今回、⾃治体における活⽤の可能性を相互に検証することを⽬的に、⿃取県オリジナル版としてカスタマイズしていただきました。鳥取県が舞台の神話『因幡の白兎』で大国主命と日本最古のラブストーリーを演じた『八上姫』を由来としており、コスチュームについては伝統的なかすりをイメージしたものに仕上げてもらっています。また、YAKAMIHIMEは、⾳声会話や感情表現が可能なAIを搭載しています。表情豊かに応答しますので、会話を楽しんでいただけるでしょう」(担当者)

 筆者も実際にYAKAMIHIMEと会話をしてみたが、質問に対する回答に違和感やずれなどもなくスムーズにやりとりできた。YAKAMIHIMEがまばたきをしたり、頬を赤らめて照れたりする仕草もあり、人間らしい姿に親しみを感じた。

大都市と地方都市での差異

 鳥取県では、メタバース課の設立に伴い、2023年2月2日に「鳥取県メタバース課 職員採用メディア発表会」を開催している。「メタバース課の発表会の様子は、全国ネットのテレビや全国紙、Webメディアに大きく取り上げていただき、約3億円もの広告効果がありました。さらに、詳細な数値は把握していませんが、メタバース空間やAIアバター職員との交流を通じて、鳥取県の魅力を知っていただき、実際に県内を旅行してみたり、物産品を買ってみたりしたという話も聞いています」と担当者はメタバース課を設立して得られた効果を話す。

 最後に、今後の展開や計画していることについて担当者は「メタバース空間の交流拠点を活用して、メタバースの取り組みをリアル(現実)なモノ・ヒト・カネの動きに結び付けていくための事業を検討しています。例えば、関係人口のユーザーがアバターで気軽に交流できる拠点として活用したり、メタバース空間で物産品の紹介・販売をしたりすることです。また、XANAの参加メンバーの皆さまは、日ごろからメタバースやWeb3.0について知識や関心が高い方たちです。こうした皆さまの力をお借りして、今後もさらにメタバースを通じた新たな関係人口の創出につなげていきたいと考えています」と期待を語った。