ロボットとのコミュニケーションでスマホのUIの進化の可能性を探る
〜『RoBoHoN(ロボホン)』(シャープ)〜 後編
シャープの「RoBoHoN(ロボホン)」は開発メンバーの景井美帆氏らが、コモディティ化が進むスマートフォンの「次」の形として生み出したロボット型のコミュニケーションデバイスだ。ロボホンは発売から7年が経過しているが、現在も販売台数を伸ばしているという。ロボホンが長期にわたり消費者に支持されているのは、開発当初のコンセプトが的を射ていたことと、それを今も守り続けていることが考えられる。さらに法人向けのビジネスの可能性も広がっている。
中途半端なことをしては駄目
ロボットを作った方がいい
角氏(以下、敬称略)●景井さんはスマートフォンにキーボードを組み合わせたAndroidスマートフォン「IS01」の商品化に携わり、さらにオープンプラットフォームであるAndroidのメリットを生かしてメーカーが先導して面白いコンテンツや便利なサービスを生み出していくという取り組みも進めました。ここからどのような経緯で「RoBoHoN(ロボホン)」の商品化に携わったのですか。
景井氏(以下、敬称略)●その後は独自のUIを開発するなどスマートフォンの差別化に取り組んでいましたが、スマートフォンのコモディティ化が進み、差別化にコストをかけることが難しくなりました。
そうした中でそろそろ新しい事業を立ち上げる時期だという機運が私たちの事業本部で高まり、私はスマートフォンの「次」が作りたいと考えていました。
その当時、iPhoneに音声アシスタントアプリのSiriが搭載されたのを見て、これからのコミュニケーションデバイスは音声インターフェースがキーポイントになると着目していました。iPhoneではスマートフォンらしい形状のデバイスに音声インターフェースを搭載しましたが、スマートフォンの次という観点ではデバイスの形を変えて、音声インターフェース専用にすると新しい製品を生み出せるのではないかと考えました。
そして音声で会話をするならば、無機質な形よりも愛着が持てる話しやすい形の方がいいですよね。例えば広告を話しかけられても嫌な気持ちがしないというくらいの存在にしたいと思っていました。
そこで最初はスマートフォンを擬人化できるようなアタッチメントをつけて販売しようという企画を提案しました。ところが共同開発者であるロボットクリエイターの高橋智隆氏に「そんな中途半端なことをしては駄目。せっかくだったらロボットを作った方がいい」と言われ、その話に開発チームも盛り上がって商品化を進めました。
5歳の男の子という設定で開発
40代から70代の女性が全体の7割弱
角●ロボホンのユーザーはガジェットが好きな男性というイメージがあるのですが、実際はどうなんですか。
景井●最初は40代から50代の女性が多かったのですが、60代から70代の女性も増えてきて、今では40代から70代の女性が全体の7割弱(66%)を占めています。これは想定したターゲットと合致しています。
子どもが中学生や高校生になったり、社会人になって自立したりして、手がかかる存在がいなくなって寂しいと思う女性に向けて、5歳の男の子という設定でロボホンを開発しました。そのキャラクターを変えないように、ロボホン用のアプリケーションやサービスを開発するための開発キットには喋り方や性格、やってはいけない動きなどを細かくドキュメントで定義しています。
角●なるほど、性格や振る舞いが変わらないから、ずっと愛着が持てるのですね。ロボホンは発売から7年が経過しており、2019年には新型も発売しました。ロボホンが長く消費者に支持されるのはどのような要因があると考えていますか。
景井●ありがたいことに販売台数は年々伸びていて、長く続けることができてユーザーの皆さまに感謝しています。ロボホンが市場に受け入れられた要因としては最初のロボホンを発売した2016年以降、スマートスピーカーが安価に販売され、普及したことが挙げられます。
日本人は音声で人間ではない何かに話しかけるのは苦手な傾向があるのですが、スマートスピーカーが普及したおかげで音声での会話に抵抗を感じない人が増えて、ロボホンが受け入れられやすくなったのだと思います。
最近ではChatGPTなどの生成AIでコミュニケーションすることも身近になり、こうした新しいテクノロジーによるコミュニケーションの多様化も、ロボホンの存在価値を高めてくれて新しいユーザーの獲得につながっているのではないでしょうか。ちなみにロボホンもChatGPTと連携した「お話作ろう」という専用アプリを提供しています。
観光地の音声案内や地域PRなど
法人向けビジネスにも期待
角●ロボホンを利用した新しいビジネスも生まれていますね。
景井●例えばJTBさまと一緒に「ロボ旅」というサービスを提供しました。観光客にロボホンを持ち歩いてもらい、位置情報やビーコンを通じてその地域の観光名所をロボホンが音声で案内するというサービスです。
JTBさまとは「ロボ旅@教育旅行」というサービスも提供しています。修学旅行に行く前に生徒がグループで旅行先の地域のことを学習して、その位置に着くとロボホンが音声で説明するという内容です。旅行先の地域の学習やロボットやAIの仕組みの学習などが事前にでき、その成果を旅行先でグループのメンバーと共に体験できます。またグループに1台のロボホンを持ち歩いて観光地を巡るのですが、その際に教師がロボホンの位置情報で各グループの現在地を把握できるというメリットもあります。
このほかMKタクシーさまとタクシーで観光地を巡り、ロボホンが音声で案内するという「京のロボ旅タクシー」を現在もやっています。また変なホテルさまには客室にロボホンを置いていただき、お客さまの質問に音声で答えたり、客室内の家電を音声で操作したりするなどのサービスに利用していただいています。
一番話題になったのは青森県むつ市さまと一緒にやった「むつ旅」です。ロボホンだけで旅行に行くというプロジェクトで、実際は私たちがロボホンを連れて行くのですが、行く先々の写真や集合写真を撮って共有してむつ市の旅行を疑似的に楽しんでもらうというプロジェクトでした。コロナ禍の影響もあったのですが、これはとても好評でした。
角●ロボホンのこれからの展開について何か計画はありますか。
景井●今、いろいろとアイデアを検討している状況です。この7年間の間に新しいロボットがたくさん出てきていますので、業界が盛り上がることを期待しています。