これから多くの人に必要となるカメラを使った遠隔見守り
誰もが手軽に導入できるサービスを提供したい
高齢者見守りサービス『みまもり おせっかいサポート』(NTTコミュニケーションズ)〜後編〜
NTTコミュニケーションズは高齢者の転倒によるけがや病気の重症化リスクを低減することを目指して開発された「みまもり おせっかいサポート」を、2023年10月30日よりサービス提供している。高齢者向けの見守りサービスには多くの競合がひしめいており、すでに利用者も多い。こうした状況の中で、なぜあえて市場に参入したのか、ビジネスの勝算をどのように立てたのか、同サービスの開発を担当したNTTコミュニケーションズの竹葉 良太郎氏に話を伺った。
転倒を見逃さないために
あえて「おせっかい」を焼く
角氏(以下、敬称略)●「みまもり おせっかいサポート」はどのような経緯で生まれたサービスなのですか。
竹葉氏(以下、敬称略)●実は2018年に私の祖母が高齢者施設内で転倒して足を骨折してしまい、寝たきりになってしまいました。これが原因となり、寝たきりのまま亡くなってしまいました。
そして2019年に私が所属している組織で、社員のアイデアから新しいサービスを生み出す取り組みをすることになり、社会課題を解決することを目的にアイデアを出し合った際に、祖母を亡くした経験から高齢者の転倒を見守るサービスを提案しました。
そのアイデアを当社の全社的なビジネスコンテストでアドバイザーを務めておられる角さんに見いだしていただき、アイデアのブラッシュアップの支援を受けながらビジネスコンテストで発表しました。
角●そしてその年の準優勝を獲得しましたね。さらに当時の副社長(現在のNTTコミュニケーションズ 代表取締役社長 社長執行役員 丸岡 亨氏)の後押しもあり、事業化が進みました。NTTコミュニケーションズのビジネスコンテストにはビジネスイノベーションチャレンジとDigiCom(デジコン)の二つがありますが、いずれも経営層の方々がコミットされていて、新しいことへの挑戦を歓迎する雰囲気があると感じています。
竹葉●ありがとうございます。私も同感で、挑戦することを応援してもらえて、それが価値を生み出す可能性があれば事業化に向けて手厚く支援してくれました。
角●ところで、サービス名の「おせっかい」という言葉が気になるのですが、何か意図があるのですか。
竹葉●実は「おせっかい」という言葉にとてもこだわっています。このサービスはAIで映像を解析して転倒を検出しているのですが、その精度は残念ながら100%ではありません。例えば転倒するような姿勢を取ると、それを転倒したと判断してしまい、実際は転倒していなくても家族や介護士などに警報を発信します。
しかしこのサービスで転倒を見過ごしてしまうと、サービスを信頼してもらえません。そのため転倒の可能性がある姿勢を検出したら、全てお知らせする仕組みを採用しています。不正確な警報も含めてお知らせの頻度が増えてしまいますが、見守る対象者の方の安全を優先して、あえて危なっかしい状況も「おせっかい」を焼いてお知らせしています。
リハビリ中の転倒にも活用できる
作業療法士の全国組織へアプローチ
角●このサービスを事業化するに当たり、ビジネスの成長性についてどのような手応えがありましたか。
竹葉●アイデアのブラッシュアップを角さんに支援していただいている時に、高齢者施設で人手不足が深刻化していることを把握したことと、実証実験で我々のサービスにさまざまな需要があることを知った時です。
このサービスの事業化に向けて2年ほど前に介護施設に導入させていただき、実証実験を現在も続けています。この実証実験を通じて我々のサービスが入所者や利用者が一人で部屋にいる際の転倒を検出してお知らせするだけではなく、転倒した際の映像を用いて家族に説明したり、転倒の原因を把握して問題の要因を改善したりすることにも活用できることが分かりました。
また病院に行かなければならないような転倒事故が起こった場合、介護施設は自治体に対して報告書を作成して提出しなければならないのですが、そこにいつ転倒したのか、なぜ転倒したのか、再発防止策は何かを確認しようとすると、転倒した本人に聞いても回答が得られないケースが多いのです。転倒を記録した映像があれば、本人に確認できなくても報告書を作成できますし、転倒した原因も映像で確認できますので、例えば机の位置を移動するなどの効果的な再発防止策を講じることが可能です。
こうしたニーズにも我々のサービスが役立つことが分かり、ビジネスを伸ばせる手応えが得られました。
最近では介護老人保健施設(老健)での需要にも注目しています。老健は病院での医療的な処置が済んだ要介護者に、自宅復帰を目的にリハビリなどのサービスを提供する施設です。例えば歩きづらい人が歩けるようになるためのトレーニングをするので、転倒してしまうのは仕方がありません。こうしたリハビリ施設でも我々のサービスが役立つことが分かりました。
さらに病院で医療的な処置は終わっても、例えばリハビリが必要な患者が認知症を患っていて、老健に行く前に病院内で勝手に歩こうとして転倒する事故もあり、問題意識を持たれている病院が結構あるようです。
角●私もリハビリ施設での需要は今後大きくなっていくとみています。例えばリハビリ施設を退院した後も、在宅で地域の整形外科医院に通院してリハビリを受ける患者も多くいるため、サービスの導入対象を広げられると思います。
そこで作業療法士の全国組織の事務局にサービスを紹介するとともに、リハビリの現場での課題や問題に対して、このサービスがどのように役立つのか、現場で役立つために足りないサービスは何かなどをヒアリングして、需要に応えていくことでビジネスを伸ばしていけるのではないでしょうか。全国組織とのコミュニケーションが密接になれば、全国のリハビリの現場に関心を持ってもらえるようになると思います。