これから多くの人に必要となるカメラを使った遠隔見守り
誰もが手軽に導入できるサービスを提供したい

高齢者見守りサービス『みまもり おせっかいサポート』(NTTコミュニケーションズ)〜前編〜

NTTコミュニケーションズは高齢者の転倒によるけがや病気の重症化リスクを低減することを目指して開発された「みまもり おせっかいサポート」を、2023年10月30日よりサービス提供している。高齢者向けの見守りサービスには多くの競合がひしめいており、すでに利用者も多い。こうした状況の中で、なぜあえて市場に参入したのか、ビジネスの勝算をどのように立てたのか、同サービスの開発を担当したNTTコミュニケーションズの竹葉 良太郎氏に話を伺った。

カメラを活用した見守りサービス
7割の高齢者施設が未導入

角氏(以下、敬称略)●サービスの名称に「おせっかい」という面白い言葉が使われていますが、何がおせっかいなのか非常に興味を掻き立てられます。このネーミングで第一印象は合格ですね。

竹葉氏(以下、敬称略)●ありがとうございます。「おせっかい」という言葉は、このサービスの発想や価値を表現する核心的な意味が込められています。なぜ「おせっかい」なのかへの回答は後ほどお話しするとして、まずは「みまもり おせっかいサポート」のサービス内容を紹介させてください。

 このサービスはスマートフォンに搭載されるカメラを活用して、高齢者が1人でいるときに転倒した際に家族や介護スタッフに知らせるサービスです。例えば高齢者の方が1人で過ごす部屋にスマートフォンを設置して、スマートフォンのカメラで常時撮影します。そして映像からAIが転倒を検出して知らせるという仕組みです。

 このサービスは主に高齢者施設での利用を想定しています。ただし一つの部屋に複数のベッドがある施設ではなく、個室型の高齢者施設に提案しています。最近はプライバシーを考慮して個室型の高齢者施設が増えているのですが、そのような施設では部屋のドアを閉めることでプライバシーが保てる半面、部屋の中で何が起こっているのかをスタッフが把握できないという課題があります。

 このサービスを開発するに当たり、いくつかの介護施設の施設長の方々とお話をさせていただいたのですが、利用者の安全のために見守りが欠かせない半面、利用者のプライバシーも守らなければならないことに、バランスをどう取るべきなのか非常に悩まれていました。

 厚生労働省が2022年度に約1,000施設を対象にアンケート調査をした結果によると、調査対象の3割がすでにカメラを活用した見守りサービスを施設内に導入していました。その一方で残りの7割はカメラを使っていないという実態も明らかになりました。見守りにカメラを使わない理由は大きく二つあって、一つはプライバシーの問題で導入できないこと、そしてもう一つはカメラの価格が高すぎて導入できないということでした。

 コロナ禍によって経営が非常に厳しくなった介護施設の事業体が増え、見守り用に高価な設備を導入できないのが実情です。そのためカメラを活用した見守りサービスを全国の高齢者施設に導入してもらうには、サービスの利用に必要となる設備を安価に提供できなければなりません。

●高齢者施設には介護保険の対象になる施設と、いわゆる「サ高住」と呼ばれるサービス付き高齢者住宅がありますが、特に前者はプライバシーの問題だけではなく、予算が確保できないという問題もあります。

 しかし低コストで手軽に導入・利用できるカメラを活用した見守りサービスを提供すれば、介護保険で利用できる高齢者施設の需要が見込めるというわけですね。ただしプライバシーの保護と、どのようにして両立するかが課題です。

みまもり おせっかいサポートでは、転倒時の映像を画面のようにぼかし加工してプライバシーを保護している。さらに撮影した映像は転倒時の映像以外、全て削除される。

コストとプライバシーの問題を
どのようにして解決したのか

竹葉●設備の低コスト化と設置の簡便さ、そしてプライバシーの保護について、実際の利用イメージに沿って説明しましょう。まずサービスの利用に必要な機器はiPhoneだけです。サービス利用時の初期費用に「初期設定費用」と「固定金具セット」が含まれているのですが、その固定金具セットでiPhoneを部屋に設置します。

 この固定金具セットに同梱される、いわゆる「突っ張り棒」を部屋の天井と床に渡して縦に固定し、専用のホルダーにiPhoneを設置します。そしてiPhoneに専用のアプリをインストールして起動するだけで利用できます。なおiPhoneはWi-Fiか携帯電話の回線に接続されていることと、見守り用のiPhoneのほかに、転倒の通知を受け取るスマートフォンが別に必要になります。

●ネットワークに接続可能なiPhone 1台だけでサービスが利用できることと、DIYで簡単に設置できること。この2点でコストと手間に関する導入の障壁がぐっと低くなりましたね。

竹葉●iPhoneに搭載可能なiOSのバージョンに制限はありますが、使っていない古いiPhoneがあればそれを利用することも可能です。またiPhoneがない場合は、iPhoneを含めて提供することもできます。

 プライバシーに関しては、二つの仕組みで保護しています。iPhoneにインストールする専用アプリにAI機能が搭載されており、見守り対象の方が転倒したことを検知すると、その転倒したと判断した映像を家族や介護スタッフなどに転送します。転送される映像はぼかし加工がされているため、その映像を見ても個人が特定できないようになっています。

 またiPhoneのカメラで見守り対象者を常に撮影していますが、必要な映像以外は次々と削除され、転倒を感知した映像のみクラウドに保存して、家族や介護スタッフに通知する仕組みです。映像を配信したiPhoneの本体にも、映像は保存されません。

 全ての映像を保存する仕組みだとiPhoneだけでは映像を保存できませんし、クラウドのストレージに保存するには通信コストやサービスの利用コストがかさみます。そもそも監視カメラのような仕組みだと、プライバシーが保護されていると納得してもらえません。

みまもり おせっかいサポートはネットワークに接続されたiPhoneだけで利用できる。写真のように設置はDIYで簡単に行える。
(左)フィラメント代表取締役CEO 角 勝 氏 
(右)NTTコミュニケーションズ プラットフォームサービス本部コミュニケーション&アプリケーションサービス部 第二サービス部門 主査 竹葉 良太郎


 次回の後編ではサービスの発想から事業化への経緯などについて話を伺うとともに、事業拡大に向けた展開のアイデアを検討する。