ITを活用して健康に対する意識を高める「生活習慣改善プログラムを活用した実証実験」

食生活の乱れ、運動不足、喫煙、過度の飲酒といった不摂生な生活習慣は「高血圧」「脂質異常症」「心筋梗塞」「糖尿病」などの疾患を引き起こすリスクを高める。これらの疾患は「生活習慣病」と呼ばれ、健康寿命の阻害要因として問題視されている。昨今では、地域住民の健康寿命の延伸や医療費の適正化を図るための施策の一環として、生活習慣病の予防に向けた取り組みに力を入れる自治体も増えてきた。今回は、沖縄県那覇市と読谷村がissinと共に行った「生活習慣改善プログラムを活用した実証実験」を取材した。

沖縄県那覇市/読谷村

那覇市は沖縄本島の南部に位置する人口約31万人(2024年5月末時点)の中核市。緩やかに傾斜した平野部を背景に、古くから港が整備されるなど海外との交流拠点として、「琉球王国」文化が華開いた街。
読谷村は沖縄本島の西部に位置する人口約4万人(2024年5月末時点)の村。「慶良間諸島」を一望できる「残波岬」や世界遺産に登録された「座喜味城跡」など、自然の美しさと歴史の深さを感じられる。

生活習慣病の増加を危惧

 沖縄県が公表した「2021年度沖縄県民健康・栄養調査」によると、20歳以上の肥満者(BMI25以上)の割合は、男性41.6%、女性24.8%であり、全国平均(男性33.0%、女性22.3%)を上回る結果となった。沖縄県では、肥満および肥満に起因する生活習慣病の増大が問題視されており、市町村をはじめ各機関では、肥満予防ならびに食生活、運動習慣改善に関する普及啓発の取り組みが進められている。

 こうした背景を受け、ヘルスケア機器・サービスを開発、提供するissinと連携協定を締結し、実証実験を行ったのが、沖縄県那覇市と沖縄県読谷村だ。実証実験を行った那覇市と読谷村は、在住・在勤者のメタボリックシンドロームの該当者や予備軍の割合が高く、生活習慣の改善による生活習慣病の予防が重要課題として挙げられていた。この課題に対応するべく、両者はissinと共に「生活習慣改善プログラムを活用した実証実験」を行った。

 実証実験は、issinが提供する生活習慣改善プログラム「Smart Daily」を用いて、特定保健指導対象者やメタボリックシンドローム該当者(予備軍を含む)に対して、減量および生活習慣の改善を図るというものだ。

生活習慣の改善を図る

 実証実験で使用されたSmart Dailyは、管理栄養士・保健師・薬剤師・健康運動指導士・理学療法士などの専門家チームがAIと協働し、最適な健康アクションの提案や生活習慣の定着までをサポートする生活習慣改善プログラムだ。そこで用いられるのが、体重測定できるIoT体重計「スマートバスマット」だ。見た目はシンプルなバスマットだが、体重計と一体となっており、乗るだけで体重管理が行える。スマートバスマットは、Wi-Fiでスマートフォンアプリと自動連携が可能で、計測した体重のほか、「体重の増減」や「BMIの変化」などが記録されていく。体重計測は意識的に行わなければ忘れがちになるが、風呂上がりに乗るだけという普段の生活導線に溶け込むスマートバスマットであれば、無意識に健康管理、ヘルスケアが可能となる。スマートバスマットによって身体の小さな変化を日々意識できるようになり、将来起こり得るさまざまな健康上のリスクの回避にもつながっていく。

「『生活習慣を改善する』『生活習慣病を予防していく』といった取り組みを行う際の最大の課題が、いかに継続してできるかというところです。取り組みに対する意識が高くなければ、途中で諦めてやめてしまうケースが多いでしょう。Smart Dailyは専門家のサポートの下、ユーザーと共に健康管理を進めていけるようなプロダクトになっています」とissinの担当者は話す。

健康意識の向上を実感

 実証実験は、読谷村と那覇市のそれぞれで以下の条件や流れで実施された。

【読谷村】
・2023年5〜9月に実施(第1期/第2期グループがあり、それぞれで実施)
・特定保健指導対象者を含む在住・在勤者26名
・平均年齢53歳、平均BMI28.5
・Smart Dailyを3カ月間使用

【那覇市】
・2023年9〜11月に実施
・30代以下の若年層を含む在住・在勤者55名
・平均年齢42歳、平均BMI28.7
・Smart Dailyを3カ月間使用

【プログラムの流れ(共通)】
1.約70問のWebアンケートから、ライフスタイルと傾向を分析。
2.1〜2週に1回の頻度で専属コーチとオンライン面談を実施し、ライフスタイルの深堀りと健康アクションのチューニングを行う。
3.専属コーチとAIが健康アクションを提案する。LINEで健康アクションの実行時間がリマインドされ、ボタンのタップにより記録する。
4.スマートバスマットで計測した体重は自動的にコーチに共有され、体重変化もLINEで通知が届く。
5.LINEで減量や健康に関する相談を24時間受付。同時に、専属コーチから目標や健康アクションにひも付く情報が届く。

 実証実験の結果は、読谷村では平均体重変化が-3.3kg、最大減量数は-11.8kg、減量成功率は96%、意識向上率は96%だった。那覇市では、平均体重変化が-3.2kg、最大減量数が-14.7kg、減量成功率が94%、意識向上率が100%という結果が出ている。生活習慣の改善に対する参加者からの期待の声も高かったという。「Smart Dailyによって、参加者の健康意識を変えるという『行動変容』に対する効果を実感しました。住民の健康意識は、高い層と低い層で格差があるのが実情です。それをどのように埋めていくかが課題となりますが、Smart Dailyをはじめ、デジタル技術の活用によって、解決していきたいと考えています」と那覇市の担当者は語った。