「DCIにみる都道府県別のデジタル度」から全国のデジタル化における現状を探る
2021年9月に設立されたデジタル庁を中心に、「デジタル社会」の実現に向けた取り組みが積極的に推し進められている。デジタル技術の活用によって新たなサービスの創出、暮らしやすい環境の構築につながり、生活の利便性の向上などの効果が期待できる。国全体でデジタル化が進められる中、デジタル技術は実際どれくらい社会に浸透しているのだろうか。野村総合研究所(NRI)が2024年4月に公表した「DCIにみる都道府県別のデジタル度」の調査結果からデジタル化の現状が見えてきた。
デジタル活用状況を可視化
国や地方自治体がデジタル政策を立案し、その結果を評価するに当たり、「日本がどのくらいデジタル化されているのか」「何が進んでいて何が遅れているのか」「大都市圏と地方部ではデジタル化にどのくらいの差があるのか」などを可視化することが極めて重要となる。NRIでは、日本の社会がどの程度デジタル化しているのかを可視化するため、「DCI」(デジタル・ケイパビリティ・インデックス)という指数を2019年に開発し、都道府県別のデジタル度をDCIとして毎年公表している。
DCIは、次の4項目から構成される。
①市民のネット利用
②デジタル公共サービス
③コネクティビティ(端末、通信インフラ)
④人的資本(デジタルスキルの保有度やICT教育)
DCIの基になっているのが、欧州委員会が開発している「デジタル経済及び社会指数」(Digital Economy and Society Index:DESI)だ。DESIは、EU加盟国のデジタル度を複数の大項目から評価し、国別のデジタル度を0~100で示している。数字が高いほどデジタル化が進んでいることを意味する。DCIは、NRIが全国を対象に実施した「日本のデジタル活用状況調査」と公的統計を組み合わせて作成しており、DESIと同じく最終的なスコアは0~100で示される。
地域間でデジタル格差が拡大
今回の調査は、2023年7月に全国の15~69歳までを対象にオンラインで実施した。各都道府県について性年齢別割り付けを行った上で200サンプルずつを集め、日本全国で9,400サンプルを得たという。
では、実際に2023年の都道府県別DCIスコアを見ていこう。DCIスコアが最も高かったのが東京都(81.4)で、2位:愛知県(68.6)、3位:兵庫県(67.6)、4位:福岡県(67.2)、5位:神奈川県(66.1)と続いた。最も低かったのが、島根県(44.5)だった。2023年の特徴について同社は、大都市部のデジタル度が再び上位に浮上したことを挙げている。特に東京都が頭一つ抜け出した形となっており、2020年に見られた傾向と似ているという。その後、2021〜2022年とコロナ禍を通して地方部、特に北陸のデジタル度が上昇し、全国のデジタル格差は縮小したように見られたが、2023年のスコアを見ると、再び大都市部と地方部の格差が開き始めていると同社は分析している。
次に、市民のネット利用、デジタル公共サービス、コネクティビティ、人的資本の四つの構成要素別にスコアの高い都道府県を見ていく。市民のネット利用の数値が最も高いのは沖縄県(19.6)で、福岡県(19.0)、埼玉県(18.9)、京都府(18.5)、千葉県(18.3)と続いた。SNS、メール、オンラインバンキング、インターネットショッピング、無料動画視聴など、さまざまな用途でインターネットが利用されていることが分かった。
デジタル公共サービスの数値が最も高いのは東京都(22.3)で、山梨県(19.5)、兵庫県(18.1)、埼玉県(17.5)、徳島県(17.4)と続く。デジタル公共サービスのスコアは、マイナンバーの取得率や、多様なオンライン行政サービスの整備状況(県レベル/市町村レベル)、そして市民がオンライン行政サービスを「利用しているか」についても考慮した結果となっている。
コネクティビティの数値が最も高いのは、東京都(25.3)で、千葉県(19.0)、愛知県(18.9)、神奈川県(18.6)、新潟県(18.6)など大都市圏が続く。上位の地域ほど、PC/スマートフォン/タブレットなどの世帯保有率、有線・無線通信インフラの整備率が高いことが分かる。人的資本については、東京都と兵庫県(16.8)が最も高く、愛知県(15.4)、福岡県(15.2)、長野県(15.1)とこちらも大都市圏が続いた。
地方の課題にデジタル技術を生かす
2023年は東京をはじめとした大都市部のデジタル化が進んだ一方、地方部のデジタル化は相対的に遅れ、日本全体のデジタル格差は2022年よりも広がったと同社は調査結果についてまとめている。
大都市部と地方のデジタル格差を埋め、地方のデジタル化を促進させるためにはどうすれば良いのだろうか。NRI 未来創発センター デジタル社会・経済研究室 森 健氏は次のようにコメントした。「地方におけるデジタル活用のポテンシャルは大きいと考えています。地方でより先鋭化している人口減少や高齢化、インフラ老朽化などの課題に対してデジタル技術の積極的な活用が鍵を握るでしょう。例えば、ドローンが荷物を配送したり、自動運転車が街中を走りながらインフラの老朽化をチェックしたり、AIが行政と医療サービスの一部を担うなど地域課題を解決に導くようなさまざまな活用が可能です。AR(拡張現実)を取り入れたまちづくりを行い、来訪客を増やすなど、デジタル化とともに地域活性化につなげる取り組みも有効な手段だと考えています」