あの人のスマートワークが知りたい! − 第14回

2018年、日本のRPAは本格的な利用が始まる



ホワイトカラーを作業とストレスから解放するために

2017年、働き方改革の推進の切り札と呼ばれるRPAが大きく注目されています。従来工場で活躍してきた産業用ロボットとは異なり、人の操作をレコーディングして簡単に作れるソフトウェアロボットで、ホワイトカラーの作業を代替していくRPAの現在と今後の可能性を日本RPA協会代表理事の大角暢之氏に伺いました。

文/狐塚 淳


大角暢之
一般社団法人日本RPA協会代表理事。RPAテクノロジーズ株式会社代表取締役社長。早稲田大学卒。アンダーセンコンサルティング株式会社(現アクセンチュア株式会社)を経て、2000年オープンアソシエイツ株式会社を設立し取締役に就任。2013年ビズロボジャパン株式会社(現RPAテクノロジーズ株式会社)を設立し代表取締役社長に就任。2016年7月一般社団法人日本RPA協会を設立し代表理事に就任。著書に『RPA革命の衝撃』(東洋経済新聞社)がある。

なぜRPAは日本でブームなのか?

—— 2017年はRPA(Robotic Process Automation)の一大ブームが沸き起こりましたが、どういう背景からなのでしょう?

大角 RPAは最新のテクノロジーというわけではありません。私は10年位前から、ソフトウェアをデジタルな労働者、デジタルレイバーとして企業に派遣するというビジネスにプロジェクトベースで取り組んで、主にBPO(Business Process Outsourcing)市場で利用されてきました。提供するのはテクノロジーではなくサイバー上の労働者であり、人間の100倍以上のスピードで、ミスすることなく、365日24時間働き続けられるという存在です。最初のうち、利用はイーコマースなどの事務系のBPOでの利用が多かったのですが、大企業のバックオフィスなどに人事の観点からの利用が増加してきました。こうしたデジタルレイバーをRPAと呼ぶのはアメリカで生まれた造語で、数年前、全米BPO協会が全米RPA協会に改名したことで広まりました。監査法人系のコンサル会社が欧米でのRPA事例を日本に持ち込んできたのがきっかけで、2016年初頭からRPAというバズワードが国内を席捲したのです。現在は大企業から中小企業まで爆発的な導入気運が高まっています。しかし、現状利用は上場企業の1割未満で、経営組織を含めた本格的な利用は2018年からになると考えています。

—— RPAは現在、日本でなぜこれほど話題になっているのでしょう?

大角 国によって、RPAはスタイルも普及の仕方も異なります。日本のRPA市場はいま世界でも一番進んでいます。RPAのロボットの数は圧倒的でしょう。その背景の一つは高齢化と労働人口の減少が進行していることです。国策的にもこの問題の解決を図りたいでしょうし、一方では電通やNHKの問題など長時間労働の改善が必要という認識が生まれ、働き方改革の気運が高まってきたこともあります。こうした課題に対し、RPAなら直接的に解決が可能だということで2016年7月に日本RPA協会を設立しました。10年前だったら、労働組合が人間の仕事を奪うのかとRPAに文句をいったところですが、今は時代が後押ししています。RPAはAIやネットアプリなどに比べるときわめて導入の敷居が低く、プログラミングをする必要がないという特徴があるため、誰でもRPAのロボットを作成できます。

―― 日本型のRPAの特徴はどんなところにあるのでしょう?

大角 日本人のDNAはRPAのような自動化が得意です。日本が戦後急速な経済復興を遂げられた理由はFA(Factory Automation)でした。ブルーカラーの職人技術を代行するロボットを導入し、ブルーカラー、FA、機械という3層のリソースで革命的な生産性を実現したのです。しかし、このとき機械による自動化が進んだのは生産部門だけでした。直接部門ではFAを大いに活用しているトヨタでも、間接部門にはたくさんの人がいて、そこでの仕事は、ホワイトカラーとITという2層のリソースで動いています。ここで、自動化による作業代行を実現するのがRPAです。どんな業務、どんな業種でも汎用的に利用可能です。直接部門で人とロボットと製造ラインの組み合わせで得た成功体験を、間接部門で人と情報システムとロボットの3層の組み合わせで実現できるというフレームワークの理解は容易です。また、日本の企業では属人的な働き方を良しとする伝統があります。職務と人が密接に結びついているわけではなくチームで仕事をこなすため、人材派遣やBPOを違和感なく利用できます。このため、人の仕事を代行するソフトウェアロボットも受け入れやすいのです。ITなどはすべて標準化を良しとして、属人性はネガティブに捉えていますが、日本人は属人性を受け入れます。

RPAがもたらす2段階のメリット

―― RPAを導入するとどんなメリットがあるのですか?

大角 まず時間的ストレスからの解放、品質ストレスからの解放、そして作業からの解放が可能です。毎朝決まった時間に10件だけ処理しなくてはならない作業や、一日の部下からの報告を夕方受けて夜8時に1件だけ登録しなくてはならないデータなど、人間のエネルギーを浪費させるような作業から自由になれる、マイナスがゼロになるのが、RPA導入の第1段階のメリットです。そして次の段階として業務改善に利用していくことができます。直感的にこうすればよくなるのではないかということをRPAで試してみて検証し仕事を改善していけます。また、自治体の給付金処理とかこれまでは繁忙期に作業が集中し、必要な人手を集めるのが難しかった仕事も、同じロボットを100個同時に走らせることで可能になります。

―― RPAを活用するために必要なことは?

大角 組織としてRPAをどう使いこなしていくか、そのための体制をどうするかを考えていかなくてはなりません。現場社員が羊飼いのようにRPAをマネジメントしていく必要があります。たとえば、経理部門では決算期に仕事のルールが変わるケースがありますが、そこで管理者は人間にルール変更を伝えるようにロボットにも伝えて業務を追行しなくてはなりません。そのためには、現場の人間はロボットが何を言っているのかを分からなくてはいけないのですが、このマネジメントは短期間の勉強で習得できます。誰がマネジメントの役割を負うかは会社によって異なります。ある地方銀行では、情報システム系の子会社に2人担当がいれば回せましたし、ある家電メーカーではExcelのマクロを作っていた3人が受け持つことで成功しています。

―― RPAに短所はありますか?

大角 事前にITレベルの完全なテストはできないことです。ある程度のテストはできますが、本番環境にいきなり触ることになるという点では派遣社員と一緒です。こうした人との類似性が利用の容易さであると同時に、課題でもあるのです。

―― 現在のRPAブームは今後どうなっていくとお考えですか?

大角 RPAという言葉が独り歩きしています。ガートナージャパンが、2017年10月に発表したハイプ・サイクルではRPAは今年サイクルの頂点にいて、一般化は2年後だそうです。便乗サービスでRPAと言っているものも多いですし、日本RPA協会としては、できれば世間にはRPAという言葉は忘れてほしいくらいですが、このブームでかき消されています。Robotic Process Automation という言葉自体間違っていて、「プロセス」よりも小さな単位の「操作」を「自動化」するのではなく「代行」するのです。現在RPAツールは40~50種くらい出回っていますが、どれももともとRPAを目指して作られた技術ではありません。テストの自動化であったり、マッシュアップであったり、マクロであったりという技術を使い、応用してRPAを実現しています。ですから、RPAツールの導入に意味があるのではなく、ソフトウェアロボット、デジタルレイバーを企業に採用して使っていくことが重要なのです。同じ作業をする多数のロボットを走らせたり、異なる作業を担当するいくつものロボットをそろえたりなど、ロボットの数を増やすことで効果が一層上がるため、社員一人に対し、デジタルレイバー30を入れて、社員がそれをマネジメントしていくことが重要です。ロボットのマネジメントは2日で学べるので、使いこなせる人、体制を作ることが必要です。

―― 社内に体制が必要ということは、導入よりも運用が大切なのですね?

大角 RPAツールを導入しようというプロジェクトは多いですが、入れて終わりではだめです。操作の代行ですから、業務遷移が変われば論理エラーが出てしまいます。派遣社員なら想定外の画面が出てくると質問して対応するでしょうが、ロボットに対してはそこを運用で解決していかないと動かなくなってしまった野良ロボットだらけになってしまいます。ロボットの圧倒的な効果に依存していたのにそれが動かなくなったら大変ですから、再び動くようにするためには何を教えればいいのかを理解している人間が企業にいなくてはなりません。ですから、RPAツールの導入やプロジェクトに投資するのではなく、会社の中でロボットを使う環境を作るために投資をしなくてはなりません。ロボットに対する教育を実現できるようにしなくてはならないのです。そうすれば効果は確実に出るのですが、これを助ける経験値のあるサービス会社が日本ではほとんどないことも問題です。RPA協会では、RPAサミットやクリニックで、すでに経験値のある企業の方を呼んで、こうした点に注意するよう啓蒙を行っています。

ロボット導入の計画の立て方

―― ロボットをたくさん作っていく場合、順番、計画も必要になりますね?

大角 はい。まずどこに適用していくかという議論が必要です。業務の分析をして投資対効果を考えるIT的なアプローチではいけません。なぜかというと、投資対効果が予測できるような課題にはITを使った方がいいのです。ITでは解決できない現場の課題、少量多品種の業務課題がRPAの適用対象です。経営レベルでこの考え方を打ち出している銀行が1行あって、そこでは投資対効果レベルの検討をしません。手を挙げた人から順番に業務をロボット化するのです。投資対効果の議論をするとスピード感がそがれるから、デジタライゼーションを片端から実行していくのです。他には企業のグループの中で一番インパクトのある所から進めていくというアプローチもあるでしょう。かなり自由にアプローチは考えられるのですが、全体の計画は目標を含めてしっかりと立ててほしいですね。

地方への拡大を後押しするRPA協会

―― 現在、日本RPA協会はどのくらいの参加企業がいて、どんな活動をしているのですか?

大角 協会は非営利のボランタリーの団体です。参加メンバーは50社ほどです。新規事業開発のお手伝いと啓蒙がメインで、半年前からまだRPAの情報が行き渡っていない地方への講演活動に力を入れています。首都圏ではRPAに取り組まない大手企業はありませんが、地方への普及はこれからです。地方は労働人口の減少が顕著なので、RPAのメリットを知ってもらうことが重要になります。地域の小さい企業のオーダーにも有効であることなどを説明しています。協会とは別に情報提供、活動支援のための会員制プラットフォーム型メディアのRPA BANKを立ち上げ、両輪で動いています。

―― 地方での普及の条件は何ですか?

大角 ロボットをマネジメントしていくためには、知識としての専門性が必要になります。たとえば経理のロボットを使うには経理の専門知識を持った税理士や公認会計士などが、その地方で関わりデータを地産地消する環境を作っていくことで、皆がRPAを利用できるようにしていく必要があります。すでに地方でも成功例が生まれつつあります。広島ロボットセンターは、中国電力のデーターセンターを利用したプライベートクラウドで、中国地方の中小零細企業のRPA利用推進が目的です。この仕組みはパッケージ化して全国展開も考えています。

―― 今後のRPAの発展は?

大角 RPAは本質的にはHR(Human Resources=人事部)の技術なので、今後は経営企画部と人事部の間に社内人材派遣会社的なデジタルレイバー部が、かつての情報システム部が誕生したときのように設置されていくようになると思います。これからの1年で上場企業の本格導入は、試行錯誤もあるでしょうが進むでしょう。いち早く導入効果をあげている会社では高度化のイノベーションが起こってきます。その先は業種に特化したロボットが多数生み出され、それらを多くの企業がシェアリング利用するでしょう。そして今のところ技術的には存在していない多数のRPAを管理するワークフロー、マネジメントインフラが登場してくると思います。

筆者プロフィール:狐塚淳

 スマートワーク総研編集長。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。インプレス等の雑誌記事を執筆しながら、キャリア系の週刊メールマガジン編集、外資ベンダーのプレスリリース作成、ホワイトペーパーやオウンドメディアなど幅広くICT系のコンテンツ作成に携わる。現在の中心テーマは、スマートワーク、AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど。