今読むべき本はコレだ! おすすめビジネスブックレビュー - 第9回
キャッシュレスの本命!? この一冊でわかる、QRコード決済の現状
『QR決済』日経FinTech、日経クロストレンド、日経 xTECH 編
昨年末以降、注目を集めているQRコード決済。高額なハードウェア要らずでキャッシュレス決済に対応できる小規模店舗向けの切り札とも言われている。その概要、主なサービス、そしてQRコード決済を取り巻く環境など、ひと通りの基礎知識が欲しいならこの本がおすすめだ。
文/成田全
近年爆発的に増えている「QRコード決済」についてのムック本
日本で初めて発行された交通系ICカードは、2001年に導入が始まったJR東日本の「Suica」だった。それから20年弱、交通系ICカードの日本国内での発行枚数は累計1億枚を突破し、首都圏での利用率は9割を超えているという。ピッと改札にタッチするだけでOKの交通系ICカードの便利さに慣れてしまうと、駅に着いたらまず路線図を見て、行先までの料金を調べ、財布から紙幣や硬貨を出して券売機に入れ、その値段のボタンを押して切符を購入し、それを手にして自動改札口へ投入し、パンチされた切符を受け取り、電車(または投入口へ小銭を入れてバス)に乗る……という昔の状態に戻りたいという人は少数派ではなかろうか。
紙幣や硬貨といった現金を使わずに支払いができる「キャッシュレス決済サービス」はとても便利なものだ。そのキャッシュレス、これまではクレジットカードや、交通系ICカードといった「電子マネー」が中心だったが、近年爆発的に増えているのが「QRコード決済」だという。2018年12月、ヤフーとソフトバンクがタッグを組んだキャッシュレス決済サービス「PayPay」が「100億円あげちゃうキャンペーン」を実施したところ、当初のキャンペーン期限であった2019年3月31日を大幅に短縮、開始からわずか10日で終了したことで話題を集めたニュースをご記憶の方もいらっしゃるだろう(PayPayは2019年2月から第2弾キャンペーンを実施した)。
この「QRコード決済」の話題にフォーカスしたのが『日経BPムック QR決済』だ。本書はこれまでに『日経クロストレンド』『日経FinTech』などに掲載された記事と、新たに最新の情報を書き下ろしたものを一冊にまとめたムック本で、QRコードによる決済とはどういうものなのか、現在の状況や各社のサービスにはどんなものがあるのか、今後の見通しはどうなっていくのかの考察までを網羅している。
これまでのキャッシュレス決済との違いは?
これまでのキャッシュレスの主流であったキャッシュカードや電子マネーとQRコード決済との最大の違いは、物理的なプラスチック製のカードやスマートフォンに内蔵されたシステムを使うことに代わり、スマートフォンの画面にQRコードを表示してスキャンをしてもらう、もしくは店頭のQRコードをスマートフォンのカメラでスキャンすることで決済できる点にある。また店側にもメリットがある。それはキャッシュカードや電子マネーのための高価な読み取り機の導入なしでキャッシュレス決済に対応できることだ。機器の設置が難しい屋外でのサービスや、導入を躊躇する零細な店舗などでもキャッシュレス化が可能になる。
日本では銀行やコンビニのATMで現金を下ろし、紙幣や硬貨で支払いをしている人が圧倒的に多く、キャッシュレスの普及率は諸外国に比べとても低い。本書によると、日本のキャッシュレスの比率は18.4%しかないそうだ(2015年)。それに比べ、韓国は89.1%、中国は60%に達しており、55.4%のカナダ、55%のイギリスなど、キャッシュレス化は世界中で進んでいる。
これほどスマートフォンが普及した日本でキャッシュレス化が進まないのは「使い方や仕組みがよくわからない」「クレジットカードや銀行口座との連携が面倒」「選択肢が多すぎて何を選んだらいいのか決められない」ということにあるのではないだろうか。また「物理的な現金やカードのほうが安心する」という方もいらっしゃるかもしれない。しかし本書で現金を使い続けることで生じるデメリットを知り、LINE Payや楽天ペイといった各社の取り組みについての知識を得れば、キャッシュレスサービスを選ぶ基準がわかるはずだ。
どのサービスを利用すべきかの参考に
さらに本書には「Alipay」「WeChat Pay」といったキャッシュレス決済サービス大国である中国での無人店舗やシェアバイクを始めとしたキャッシュレス化した現場の取材、中国のネット企業「阿里巴巴集団(アリババグループ)」の秘密に迫るレポートなどもあり、これからのビジネスの参考になるだろう。
また1994年にデンソーウェーブによって開発されたQRコードについての記事もある。開発に至るまでの歴史や、QRコードはどのようにデータを格納(バーコードの200倍の情報量を格納できる)しているのか、一瞬にして読み取る高度な技術(QRコードに汚れがあったり一部が破損していても読み込めるという)についてなどを「生みの親」が説明してくれる記事は非常に興味深い。そして誰もが一度は考えたことがあるだろう「停電時や災害時にはどうなってしまうのか?」といった疑問を考察する企画、また識者が語るキャッシュレスの未来像まで取り上げられている。
大手IT系、ITベンチャー系、銀行系各社によるQRコード決済の覇権争い、そして電子マネー、クレジットカード、デビットカードなども加えたキャッシュレス決済サービスの競争は、今後ますます激しくなっていくことが予想される。新たな企業の参加、提携なども含め、どのサービスを利用すべきか、自分に合っているものはどれか、ビジネスとして考えるのであれば最適な営業先はどこなのか、本書を熟読してぜひ参考にしてもらいたい。しかしどのサービスが抜きん出るか、ということばかりを考えているだけではいけない。すでに先進の企業では、顔認証による決済も研究されているという。冷静に先を見通し、最適なサービスを選びたいものだ。
まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック
次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!
『ザ・トヨタウェイ サービス業のリーン改革 上下』(ジェフリー・ライカー、カーリン・ロス 著、稲垣公夫、成沢俊子 訳/日経BP社)
本書は、トヨタ生産システムの全体像を描いて世界的なベストセラーとなった『ザ・トヨタウェイ』の著者であるミシガン大学のジェフリー・K・ライカー教授が、リーンコンサルタントのカーリン・ロスと共同で、トヨタ生産システムのサービス業界への移植の試みを取り上げたものだ。以下は、ライカー教授の日本語版への序文から。「テクノロジーとは異なり、人材はコピーできない! 社員の創造性や創意工夫は継続的に育成すれば(トヨタウェイでの人間性尊重)、それは顧客や会社が今直面している問題を解決し、将来のためによりよい働き方を工夫し、個々の、生身の顧客を会社に永久につなげてくれる、真の差別化要因になる」(Amazon内容紹介より)
『THE MODEL マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』(福田康隆 著/翔泳社)
本書は、日米のオラクル、セールスフォース・ドットコムでSaaS(サース/サーズ)ビジネスの急成長に立ち合い、マルケト日本法人代表として自ら変革を実践してきた著者が「科学的アプロ―チ」「再現性」「ビジネスの成長」を重視して新たなレベニューモデルを提案します。SaaSの世界で注目を集める「The Model」を踏まえて、さらに現状に適した「マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセス」によるプロセスを紹介。これら4つの部門の「分業」から「共業」への道、さらにその先にあるビジネスのかたち「レベニューモデル」を明らかにします。(Amazon内容紹介より)
『新装版 問題解決のためのデータ分析』(齋藤健太 著/インプレス)
本書は、コンサルタントが使っている問題解決の手法と、そのために必要なデータ分析について、豊富な実例を交えて解説する一冊です。営業や企画に限らず、どんな仕事をしている人でも、上司から「数字で示して」と求められることが増えているのではないでしょうか。その理由は、「数字は嘘をつかない指標であり、ビジネスのあらゆる問題解決に有用」だから。そして、数ある問題を解決するために、「データ分析」ほど威力を発揮するものはありません。本書では、問題解決の糸口をつかむ考え方や方法を、著者がコンサルティング現場で実践しているフレームワークを用いながら解説。また問題解決とは切っても切り離せないデータ分析について、さまざまな事例を具体的に紹介しながら説明します。(Amazon内容紹介より)
『LINEとメルカリでわかるキャッシュレス経済圏のビジネスモデル』(安岡孝司 著/日経BP社)
スマホ決済から、仮想通貨ゲームまで。「お金」でつながる新しいビジネスの仕組み・法律・リスクをすっきり解説。LINEやメルカリのサービスを調べると、お金がらみの新しいビジネスモデルが生まれていることがわかります。私たちはフィンテックや仮想通貨のハードルの高さを感じることなく、新しい形のサービスをLINEやメルカリで利用しているのです。本書はLINEとメルカリを例に、フィンテック関連の新しいビジネスの動きを紹介します。この動きをキャッシュレス社会やシェアリングエコノミーとの関係で考えると、大きな流れと未来図がみえてきます。(Amazon内容紹介より)
『予測マシンの世紀――AIが駆動する新たな経済』(アジェイ・アグラワル、ジョシュア・ガンズ、アヴィ・ゴールドファーブ 著、小坂恵理 訳/早川書房)
製造、流通、マーケティング、人事、金融、医療、翻訳、司法、戦争……あらゆるビジネス領域にAI(人工知能)が組み込まれ、経済の地殻変動が起きている。この激変期を勝ち抜くための競争戦略とは? AIビジネスを創出するプラットホーム、トロント大学「創造的破壊ラボ」の中核を担い、総計2300億円超の株式価値を参加企業にもたらしてきた3人の経済学者が、私たちの意思決定プロセスやワークフローを可視化し、AI=かつてない「予測マシン」の真のインパクトを解明する。未来を知るのに熱狂はいらない。経済学者の目で、世界を見つめればいいのだ。(Amazon内容紹介より)
筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)
1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。文学、漫画、映画、ドラマ、テレビ、芸能、お笑い、事件、自然科学、音楽、美術、地理、歴史、食、酒、社会、雑学など幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1500人以上を取材。