AutoCADの製品ラインアップを刷新
オートデスクの販路拡大戦略に迫る
「AutoCAD/AutoCAD Plus」オートデスク
オートデスクは、ユーザーの急激な利用環境の変化に対応するため、サブスクリプションの導入など、いち早くビジネスモデルの転換を行ってきた。2020年5月には、サーバーの構築や管理が不要となる「ユーザー単位ライセンス」へと販売体系を一本化。そして2021年5月7日、国内市場向けに「AutoCAD」と「AutoCAD Plus」の提供方法を再構築した。生まれ変わったAutoCADとAutoCAD Plusの販路拡大の戦略について話を聞いた。
販売体系の見直しによって
ユーザーの利便性向上を図る
2016年2月、オートデスクは主力となる「AutoCAD」をはじめとするソフトウェア製品の提供プランを買い切り型の永久ライセンス方式から定額料金型のサブスクリプション方式へと切り替えた。ソフトウェア製品の導入コストに加え、利用する期間を絞ることでランニングコスト削減を狙ってのことだ。さらに、2020年5月には、使用するユーザーごとにアカウントを割り当てるユーザー単位ライセンスへ販売体系を一本化した。これにより、サーバーの構築や管理が不要となり、ユーザーに対する初期費用の負担だけでなく運用の手間を削減している。「常に最新版の製品が利用可能なサブスクリプション方式の導入は、セキュリティの観点からみてもユーザーに大きなメリットを提供できました」と話すのは、オートデスク 技術営業本部長 ディレクター 加藤久喜氏だ。
オートデスクの販路拡大に向けた取り組みは継続しており、2021年5月7日にはこれまで主力製品として販売してきたAutoCADシリーズの販売体系の見直しやエントリーラインである「AutoCAD LT」を「AutoCAD」に、フラッグシップラインである「AutoCAD」を「AutoCAD Plus」に製品名を変更するなどの刷新を行った。
価格やランニングコストは従来通りに抑えつつ、利用できる機能や性能を大幅にブラッシュアップし、ユーザーの利便性と快適性の向上を図った。
販売価格はそのままで
機能をブラッシュアップ
生まれ変わったAutoCADは、AutoCAD LTと同等の販売価格で旧AutoCADの機能を全て利用できるようブラッシュアップされた。AutoCAD LTは、主に2Dの図面作成や編集などの業務をサポートする機能を中心とした製品構成だった。AutoCADとしてリニューアルしたことで、3Dに対応した図面作成や編集などの機能も利用可能となる。「AutoCAD LTを利用していたお客さまから3Dでの作業を行いたいが、コストは抑えたいという要望がありました。新しくなったAutoCADによって、上位モデルに搭載されていた3D作図などの機能が利用できるようになります」(加藤氏)
作業効率を強化した点も生まれ変わったAutoCADの特長だ。例えば、コマンドを1クリックするだけで作図中の図面データを表計算ソフトなどに自動で書き出せる。データの書き出しを手作業で実施した場合と比べて、約93%の時間短縮を実現している。
AutoCADは、あらゆるプラットフォームで活用できる点も魅力だ。PCにインストールして使うデスクトップ版、スマートフォンやタブレットにインストールして使うタブレット版、インストール不要でインターネット環境さえあれば利用できるWeb版の3種類から選択できる。多様化するユーザーの利用環境に柔軟に対応しているのだ。加えて、図面データの重要度が変化していると加藤氏は指摘する。「図面データは印刷して終わりではありません。建築やデザイン事務所などの現場では、図面データ内に含まれる詳細な情報をあらゆるツールやシステムで利用する必要があります。例えば、勤務先の事務所で作成した図面データを、自宅のスマートフォンやタブレットなどで閲覧・編集したり、取引先との商談時にノートPCで図面データを閲覧・提示したりするといったケースです。このような場合には、データの連携だけでなく、正確な読み込みや保存が欠かせません。AutoCADは、『TrustedDWGテクノロジー』と呼ばれる技術を用いたDWGというファイル形式を採用しており、図面データの破損が発生しにくい設計を実現しています。文字化けや図面のラインを崩すことなく正確なデータの受け渡しや編集作業が可能です」(加藤氏)
一方、旧AutoCADから新しくなったAutoCAD Plusには業種に特化した専門性の高い機能が加えられている。「AutoCAD Plusには、建築設計(Architecture)、機械設計(Mechanical)、電気制御設計(Electrical)、設備設計(MEP)、プラント設計(Plant 3D)、地図情報(Map 3D)、ラスター画像処理(Raster Design)からなる7種類の業種別ツールセットが含まれており、必要に応じてツールを選んで利用できます。7種のツールを必要としないお客さまはAutoCADがお薦めです」と加藤氏は新しくなったAutoCADとAutoCAD Plusの違いを説明する。
ハードウェア製品と一緒に提案
離れたユーザーのシェア拡大を目指す
オートデスクでは、ユーザー同士のコミュニケーションも積極的に支援している。同社 チャネルセールス本部長 ディレクター 大岩憲三氏は「全国各地でAutoCADを利用しているユーザー同士が集い、製品の使い方や疑問などを共有したり、意見交換したりするユーザー参加型のイベント『AUG-JP Workshop』を開催しています」と話す。目的はユーザー同士の交流にほかならないが、「こうした交流会を設けることで、AutoCAD LTを使っているユーザーがAutoCAD Plusへアップセルするきっかけにもなると考えています」(大岩氏)
AutoCADシリーズの販売体系の見直しを行ったことは多くのユーザーに支持された一方で、これまでの定番製品であるAutoCAD LTに搭載されている機能が利用できなくなってしまったと勘違いしたユーザーも少なからずいたという。既存のAutoCADユーザーだけでなく、一度AutoCADから離れてしまったユーザーにも製品のメリットを訴求していく必要があるとしている。大岩氏は「生まれ変わったAutoCADは、これまでと同じ価格でより高機能な製品へと移行できるようになりました。サブスクリプション方式を導入することで、契約の更新率や継続率が上がっていることも事実です。継続的にビジネスを続けられるため販売パートナーさまにもメリットがあります。また、AutoCADを利用するにはPCやスマートフォン、タブレットなど、利用シーンに合った最適なハードウェアの提供が欠かせません。かつてAutoCADを利用していたお客さまにも、ハードウェアと一緒に提案し、販路の拡大を図っていきます」と展望を語った。