Windows 11需要に備えよ!
法人市場への攻め口

Windowsに「10」という名称が付けられた時点で、次もあると考えていたのかもしれない。その「次」が姿を現した。Windows 11である。デスクトップのデザインがモダン化され、スタートメニューがセンターに配置されたことが目を引く。しかし下馬評では「Windows 10のフィーチャーアップデート版で、代わり映えしない」といった声も聞こえてくる。ではユーザーにとって、プレーヤーにとって、Windows 11は必要な存在なのだろうか。Windows 11の真価を見極め、そのビジネスチャンスを探る。

Windows 10サポート終了の特需はない
移行は3〜4年かけて平準化される

Introduction:Windows OS

Windows 10が発売されたのは2015年7月、今から6年以上も前のことだ。意外にもWindows 10は長らく市場で活躍してきたわけだ。しかし法人ユーザーの多くがWindows 10に移行したのは、Windows 7の延長サポートが終了した2020年1月の直前だった。つまり多くの企業にとってWindows 10を導入してから約2年がたった今、Windows 11が登場したことになる。Windows 10への移行が落ち着いてほっとしている情報システム担当者にとって、Windows 11の発売は新たな仕事を与えることになる。Windows 10のサポート終了が2025年10月と言われており、いずれはWindows 11へ移行しなければならない。Windows 11への移行に向けた取り組みと、その意義について日本マイクロソフトに話を聞いた。

Windows 11への進化の理由は
ハイブリッドワークでの生産性向上

日本マイクロソフト
モダンワーク&セキュリティビジネス本部
エグゼクティブプロダクトマーケティング
マネージャー
春日井良隆 氏

 Windows 10を発表した際、「最後のバージョン」という言葉が聞かれ、その後の進化はWindows as a Service(WaaS)当該年でアップデートを続けていくということだった。ところがWindowsは「11」という新しいバージョンへと進化したことはご存じの通りだ。

 もちろん、Windowsの進化に異論を唱える人はいないだろう。PCの利用環境の劇的な変化やセキュリティへの脅威の深刻化など、OSに求められる要求は高度化しており、進化は必然なのだから。しかしWindows 10をフィーチャーアップデートで進化させることもできないわけではなかっただろう。

 話を聞いた日本マイクロソフト モダンワーク&セキュリティビジネス本部 エグゼクティブプロダクトマーケティングマネージャー 春日井良隆氏はWindows 11へ進化した理由について、PCの利用環境が「ハイブリッドワーク」になったことと、「セキュリティ」への脅威への防御の二つを挙げて説明する。

 春日井氏は「コロナ禍によって世界中の全ての人々が在宅勤務とオフィスワークを両立しなければならなくなり、顧客への対応もリモートが基本となりました。こうした大きな変化によってPCを利用する時間が大幅に増え、PCの役割が広がり、重要性が高まりました。こうした変化に対応するために必要な機能や仕組みをWindowsに組み込むために、Windows 11が開発されました」と説明する。

 マイクロソフトではコロナ禍以前からテレワークやリモート会議を日常的に実施してきたことは広く知られており、そこで得た知見やノウハウもWindows 11の新しい機能や強化された機能に生かされていることだろう。

古いハードウェアではOSを守れない
デバイスにスペック要件を要求

 そしてもう一つ重要なのがセキュリティだ。春日井氏は「サイバー攻撃の対象がBIOSなどのシステムファームウェアへとレイヤーが下がっており、ハードウェアレベルでの防御が必要になってきています。そのためWindows 11ではインストールできるデバイスのスペック要件を提示しています」と説明する。

 Windows 11が要求するハードウェアのスペック要件ではTPM(Trusted Platform Module)2.0への対応などを指定している。TPMとはPCの電子回路基板(マザーボード)上に実装されるセキュリティに関するさまざまな機能を備えたモジュール(半導体)だ。

 さらにシステムファームウェアのUEFI(Unified Extensible Firmware Interface)やセキュアブートの対応も求められる。これらの要件を満たすハードウェアとWindows 11が連携して相互補完することで、ハードウェアレベルの攻撃を受けた際にOSを防御できる、すなわちもはや古いハードウェアではOSを守れないというわけだ。

 Windows 11で要求されるハードウェアのスペック要件は、セキュリティ向上を主な目的としたものと言える。ただしリモート会議でリアルタイムの映像や音声をやりとりする際や、Windows 11に搭載されるRPA機能、さらにはAIなどの新しいテクノロジーを利用する場合はグラフィックス機能にパフォーマンスが求められるほか、ハイブリッドワークでは在宅とオフィスなどさまざまなシーンにおいて1台のPCで仕事をすることになるため、CPUはもちろんメモリーやストレージにもそれなりのスペックを備えていなければ生産性を維持、向上することはできない。

 このあたりを考慮すると、Windows 11で要求するハードウェアのスペック要件を満たすことで導入するPCのコストは上がるものの、生産性やセキュリティの向上を対比させると、総合的にユーザー企業にメリットをもたらすことになるだろう。

変化の影響を抑えて移行を促進
Windows 10と11の混在運用も可能

 Windows 11では生産性やコラボレーション、安全性などが新しい価値としてアピールされているが、その中で強いメッセージを発信しているのが「一貫性」だ。これはWindows 10からの移行を促すことにおいて、重要な特長となる。

 マイクロソフトではこの一貫性について「Windows 10で動作するアプリケーションの互換性」や「互換性を支援するApp Assureプログラム」、クラウドから移行と導入を支援する「Microsoft エンドポイントマネージャー」、Windows Autopilotによる「ゼロタッチ展開」などを提供する。

 Windows 11への移行について春日井氏は「Windows 10と11を混在させて運用することもできるので、Windows 10への移行を進めながら運用中のWindows 10を11に入れ替えるというふうに段階的に移行することができます」と説明する。

 企業におけるWindows 11への移行の見通しについて春日井氏は「日本の商習慣的に春が年度末となるため、最初は2022年2月あたりにWindows 11搭載PCの導入が始まり、第二波として2022年度の予算で夏から秋、さらに2023年春、さらに2025年のWindows 10のサポート終了に向けて2024年春という流れで、3〜4年かけて導入が進むと見ています」と見立てている。以前のような駆け込み需要による急激な導入増加はなく、需要が平準化されると見られ、昨今の半導体不足による製品の供給遅延にも都合が良さそうだ。

 なお、2021年末から2022年上期にかけて、Windows 11には法人向けの新たな機能提供が予定されているという。