x86 Architecture
インテルとAMDがx86エコシステムの拡大に向けて連携
IT業界のグローバルリーダー各社が参画
x86プロセッサーを提供するインテルとAMDの2社が、x86アーキテクチャのエコシステムの拡大に向けて手を組んだ。インテルとAMDは10月15日(米国現地時間)、IT業界のグローバルリーダー10社および、Linuxカーネルの開発者であるリーナス・トーバルズ氏とエピックゲームズの創設者兼CEOであるティム・スウィーニー氏を創立メンバーに迎えて「x86エコシステム・アドバイザリー・グループ」を発足した。
インテルとAMDがエコシステム拡大に向け連携
インテルとAMDがx86エコシステムの拡大に向けて提携し、業界リーダーと共に「x86エコシステム・アドバイザリー・グループ」を発足した。x86製品においてライバル関係にある両社が連携する背景には、互換性や一貫性を強化し、あらゆる分野でx86アーキテクチャの実装を広げていく狙いがある。
インテルとAMDはパートナーでもある
x86の発展に向けて連携する
x86アーキテクチャとはインテルが開発したCPU「8086」とその命令セットおよびそれと互換性のある命令セットを持つプロセッサーの総称だ。後にx86アーキテクチャはAMDによって64ビットに拡張され、「x86(x86-64)」に進化して普及している。つまりx86アーキテクチャの開発者はインテルとAMDの2社ということになる。
ご存じの通りインテルとAMDはPCやサーバーのx86製品においてライバル関係にある。しかし両社は「x86エコシステムにおけるプラットフォームレベルの進歩や標準規格の導入、セキュリティの脆弱性の低減では、業界でのコラボレーションの歴史を共有している」と説明している。
その両社共同の取り組みとしてPCI、PCIe、ACPI(Advanced Configuration and Power Interface)などの主要技術の実現などを挙げている。また両社はUSBの開発においても極めて重要な役割を果たしたという。今回発足させた「x86エコシステム・アドバイザリー・グループ」は、両社のこれまでの業界でのコラボレーションの延長線上にあり、「次のレベルに引き上げる」というように、より密接な取り組みを推進していくとみられる。
x86エコシステム・アドバイザリー・グループの発足についてインテル コーポレーション CEO(最高経営責任者) パット・ゲルシンガー氏は「私たちは現在、そして将来の顧客ニーズに応える新たなレベルのカスタマイズ性や互換性、拡張性を追求すべく、x86アーキテクチャとエコシステムにおいて、過去数十年で最も重要な転換期を迎えています。インテルはAMDやこのアドバイザリー・グループの創設メンバーと共に、コンピューティングの未来に向けた取り組みを活性化できることを誇りに思うとともに、多くの業界リーダーの支援に深く感謝しています」と述べている。
またAMD 会長 兼 CEO リサ・スー氏は「x86エコシステム・アドバイザリー・グループの発足により、x86アーキテクチャが開発者と顧客企業の両方に選ばれるコンピュート・プラットフォームとして進化し続けることが保証されます。将来のアーキテクチャ強化の方向性を示し、x86の素晴らしい成功を今後数十年にわたって拡大するために、業界を結集できることをうれしく思います」と述べている。
あらゆる分野でx86製品を実装
非x86領域の取り込みももくろむ
x86エコシステム・アドバイザリー・グループはどのような役割を担っていくのだろうか。発表では「このイニシアチブを通じてx86製品全体にわたり互換性、予測可能性、一貫性を強化します。同グループはこの実現に向けx86のハードウェア/ソフトウェア・コミュニティーから必須とされる機能や特長について技術的な意見を募ります」と説明している。
こうした取り組みを通じて、主に三つの成果を目指すという。一つ目は「ハードウェアとソフトウェアにおける顧客企業の選択肢と互換性を高めると同時に、顧客企業が最先端の新機能のメリットを享受できる機会を加速化する」こと。
二つ目は「アーキテクチャガイドラインを簡素化し、インテルとAMDが提供するx86製品全体におけるソフトウェアの一貫性とインターフェースを強化する」こと。三つ目は「オペレーティングシステム、フレームワーク、アプリケーションへの新機能の統合を、より効率的に実現する」こと。
これらの成果によってデータセンターやクラウド、クライアント、エッジ、組み込みデバイスなど、あらゆる分野でx86アーキテクチャの実装が広がり、最終的に顧客企業がそのメリットを享受できると説明している。クラウドの規模拡大やAIの普及などにより、x86以外のアーキテクチャの活用も広がっており、x86にとって「過去数十年で最も重要な転換期」を迎えていることは間違いなさそうだ。
Generative AI
生成AIによって深刻化する偽情報の脅威に対して
オールジャパン体制で世界初の対策基盤の構築を開始
富士通は偽情報検知と評価における国内屈指の大学や研究機関、企業を再委託先に選定して、オールジャパン体制で世界初の偽情報対策プラットフォームの構築を開始することを10月16日に発表した。この偽情報対策プラットフォームは偽情報の検知から根拠収集、分析、評価までを統合的に行う点で世界初の試みとなる。2025年度末までの構築を目指して、再委託先の大学や研究機関、企業との共同研究開発を10月より開始する。
生成AIによる偽情報の検知から判定を行う基盤開発
富士通は国内の大学や企業と協力し、世界初の偽情報対策プラットフォームの構築に着手した。生成AIによる偽情報の検知から判定までを行える技術開発を進め、2025年度末までの構築を目指す計画だという。人間の目には見抜けないディープフェイクを判定できるその技術開発に向けた取り組みを紹介する。
もはや人間には見抜けない
ディープフェイクの偽情報
今年7月、富士通は内閣府や経済産業省などが経済安全保障の強化、推進に向けて創設した「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)」の下、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「偽情報分析に係る技術の開発」の実施予定先として採択された。
それを受けて富士通と再委託先となる国立情報学研究所(NII)、NEC、慶應義塾大学SFC研究所、東京科学大学(採択時は東京工業大学)、東京大学、会津大学、名古屋工業大学、大阪大学の9者によるオールジャパン体制で偽情報の検知から根拠収集、分析、評価までを統合的に行う世界初の偽情報対策プラットフォームを2025年度末までに構築することを目指し、今年10月より共同研究開発を開始する。
偽情報対策プラットフォームを構築する背景として富士通のデータ&セキュリティ研究所でリサーチディレクターを務める山本 大氏は「生成AIの普及によって偽情報が容易に作成でき、その品質が向上していること、またコミュニケーションツールの発展によって偽情報が拡散しやすくなっていること」を指摘する。その結果として「自然災害や医療、政治、経済などさまざまな分野において偽情報の影響が深刻化している」と説明する。
またNIIのコンテンツ科学研究系 教授 山岸順一氏は「海外の最新研究によると、最新の生成AIによる顔画像の一部は本当の人間の顔画像よりもより人間らしいと被験者が誤判断する割合が高い。それにもかかわらず多くの被験者は自分の判断結果に自信があると報告している」と説明し、最新のディープフェイク(本物のように合成された偽画像や偽音声、偽映像)は人間には見抜けないと指摘する。
偽情報対策に特化した日本語LLMも開発
公共・企業から一般ユーザーに提供拡大
偽情報対策プラットフォームは四つの技術で構成される。まずプラットフォームに真偽を判定するために入力する偽情報や、根拠に必要となるファクト情報を「生成元分析」でテキスト、画像、動画、音声などのメディアごとに情報を分析する。この機能の実現に必要な技術はNIIとNECが開発を担当する。
次にファクト情報などから「根拠収集」してさまざまな根拠の関係性を「エンドースメントグラフ※」で統合管理する。この技術は慶應義塾大学SFC研究所と大阪大学、そして富士通が開発する。
「統合分析」において情報の真偽を判定するために必要な矛盾検証や根拠分析の技術を富士通が、拡散規模や社会的影響を評価するための技術を東京科学大学、東京大学、会津大学がそれぞれ開発を担当する。そして真偽判定、影響評価、理由説明といった判定結果を示すために必要な技術を名古屋工業大学と富士通が開発を担当する。
「判定結果」については真偽を示すだけではなく、真偽を判断した理由を文章で示す点が特徴となっている。またスーパーコンピューター「富岳」で学習した大規模言語モデル「Fugaku-LLM」や、高い日本語性能を誇る企業向け大規模言語モデル「Takane」の開発で培った技術を生かして偽情報対策に特化した日本語LLMを富士通が開発する。
今後の展開について富士通の山本氏は「当初は自治体などの公的機関での災害時のファクトチェックへの活用や民間企業でのファクトチェックの自動化などの活用を通じて、ユースケースの分析と機能要件の抽出を行うとともに各技術の研究開発を進めて、2025年度末までに四つの技術を統合した偽情報対策プラットフォームを構築する計画です。将来的には一般ユーザーにも提供を拡大する予定です」と説明する。
※ インターネット上のデータの発信者に関する情報や、そのデータおよび発信者に対する第三者に関する情報をメタデータとして共有する仕組み。
Computing Infrastructure
AI・HPCコンピューティング基盤の実現に向け
富士通とAMDは戦略的協業を開始
11月1日、富士通と米AMDは、技術開発から事業にわたる戦略的協業に関する覚書を締結した。今回の協業では、オープンかつ低電力なAI・HPC向けのコンピューティング基盤を共同で開発することが発表された。今回の記事では、AI・HPC向けのコンピューティング基盤の開発に当たり、富士通・AMD両社が持ち寄るCPUとGPUの技術と、AIのオープン化に向けた取り組みについて紹介する。
協業で省電力AIコンピューティング基盤を開発
富士通とAMDが共同で実施した記者会見では、技術開発から事業にわたる戦略的協業に関する覚書が締結され、富士通のCPUとAMDのGPUの技術融合をはじめとした協業内容が語られた。
富士通のCPUとAMDのGPUの技術を融合し
消費電力量の低減につなげる
協業の背景について富士通 執行役員副社長 CTO、CPO システムプラットフォーム担当 ヴィヴェック・マハジャン氏は以下のように語る。「AI需要が高まる一方で、企業ではAI利用に伴うTCOやデータセンターにおける電力消費量の増加が課題となっています。その結果、企業のAIシステム導入に大きな障壁が生まれてしまっています。そこで当社は、電力消費量の低減とAIのオープン化を促進するために、AMDさまとの協業を開始しました。今回の協業は技術の発展だけでなく、事業やビジネスの発展も目的としています」
具体的な内容として、富士通のCPU技術とAMDのGPU技術を互いに持ち寄り、「エンジニアリング協業」「エコシステム協業」「ビジネス協業」の三つの領域で協業を行う。これら三つの領域における協業を通じ、AI・HPC向けのコンピューティング基盤の共同開発に取り組み、2027年までの提供を目指す。それでは、協業の内容をそれぞれ見ていこう。
エンジニアリング協業の領域では、富士通の次世代CPU「FUJITSU-MONAKA」と、AMDのGPU「AMD Instinct アクセラレータ」のハードウェア・ソフトウェアの連携を強化する。両社の技術を融合することで、データセンターの電力消費量を抑え、より多くの企業がAIを活用できる環境を構築していくという。
FUJITSU-MONAKAとは、2ナノメートルテクノロジーを採用したArmベースのCPUだ。スーパーコンピューター「京」「富岳」で培ったマイクロアーキテクチャや富士通の独自技術を基に、2027年のリリースに向けて開発が進められている。FUJITSU-MONAKAの特長として、富士通独自の144コアの2ソケット構成を採用したことによる高い処理性能と低電圧技術を活用した高い電力効率。そして、Armの最新プロセッサアーキテクチャ「Armv9-A」で導入された新しいセキュリティ機能「CCA」を用いた、処理中のデータを保護する機能「コンフィデンシャルコンピューティング」による高いセキュリティ性能も備えている。これらの特長を生かし、データセンターをはじめ、AIやHPCといったさまざまなワークロードにおいて活用可能なCPUだ。
AMD Instinct アクセラレータとは、シングルサーバーからエクサスケールコンピューターまで、あらゆる規模のデータセンターでの活用を想定したGPUシリーズだ。高い電力効率と計算性能を持つ「CDNAアーキテクチャ」上に構築されており、AIやHPCのワークロードの高速化を実現している。さらに、高効率のINT8やFP8、HPC向けのFP64まで、幅広い数値データ形式をサポート可能だ。
両社のソフトウェア資産を基盤に
OSSベースのソフトウェア開発を推進
エコシステム協業の領域では、両社のソフトウェア資産を基盤としたオープンソースエコシステムの成長を目指す。オープンソースソフトウェア(以下、OSS)コミュニティや団体との連携を強化し、両社が共同開発を行うAI・HPC向けのコンピューティング基盤に最適化したOSSベースのAI向けソフトウェアの開発を推進していく。
AI向けのソフトウェアの開発に当たり、OSSベースとしているのはなぜだろうか。その理由として、クラウドサービスプロバイダーやエンドユーザーから最適な価格と電力性能でさまざまなAIワークロードに対応するアーキテクチャが求められていることが挙げられる。
富士通の基盤となっているソフトウェア資産は、FUJITSU-MONAKA向けのソフトウェアだ。2027年に予定されているリリースと同時に顧客が使えるように、FUJITSU-MONAKA向けのソフトウェアはすでに開発が進んでおり、機械学習や深層学習、ビッグデータアナリティクス、データセキュリティといったAIやHPCを中心とした幅広い領域をカバーする予定となっている。FUJITSU-MONAKAは富岳のCPU「A64FX」のオープンソース開発の流れを踏襲しており、ArmエコシステムのOSSとISV製品を利用できる。さらに富士通は、顧客がFUJITSU-MONAKAを含めたさまざまなCPUやAIアクセラレーターを単一のソースコードで実行できるようにするために、「Unified Acceleration Foundation」(UXL)に参画している。UXLとは、さまざまなCPUやAIアクセラレーターを単一のソースコードで動作させる「Unified Acceleration技術」の実現を目指すOSSコミュニティだ。さまざまなCPUやAIアクセラレーターを単一のソースコードで実現できれば、環境移行コストの低減を実現するとともに顧客は自身に最適なハードウェアを選択可能になる。FUJITSU-MONAKAの開発にUnified Acceleration技術を活用することで、顧客はAI性能を手軽に、最大限利用できるのだ。
AMDの基盤となっているソフトウェア資産は、ソフトウェアスタック「AMD ROCm ソフトウェア」だ。AMD ROCm ソフトウェアは、生成AIおよびHPCアプリケーションに対して最適化されたオープンソースのソフトウェアスタックだ。AMD エグゼクティブ バイス プレジデント兼チーフコマーシャルオフィサー フィル グイド氏は、AMD ROCm ソフトウェアのメリットについて以下のように語る。「AMD ROCm ソフトウェアは、オープンソースエコシステムを通して、AIモデル向けのプログラミングモデルやツール、コンパイラ、ライブラリ、ランタイムといった幅広いセットを提供できます。そのため多様な選択肢をお客さまに提示し、多くのお客さまのイノベーションに貢献することが可能です」
グローバル展開を加速するために
マーケティング活動を共同で実施
ビジネス協業の領域では、共同開発を行うAI・HPC向けのコンピューティング基盤のグローバル提供に向け、マーケティング活動や顧客との共創活動を両社共同で実施する。さらに、企業におけるAIのユースケースを広げ、共同でカスタマーセンターを開設することにも取り組むという。
本協業のメリットについて、グイド氏はこう語る。「当社と富士通さまが持つ技術を組み合わせ、高性能かつ低電力、そして柔軟性の高いAI・HPC向けのコンピューティング基盤を構築していきます。AIを活用するに当たり、データセンターのスペースや電力消費量の増加が課題となっているお客さまにAI・HPC向けのコンピューティング基盤を提案することで、お客さまがAIを不自由なく使えるようにしていきます。こうした提案を行うことで、当社は重要な市場である日本に対して、TCOのメリットだけでなく日本のエネルギー事情に対応した提案も可能になります」
最後にマハジャン氏は、「当社とAMDさまは、この戦略的協業を通じてAIのオープン化を加速し、サステナブルなコンピューティング基盤を実現するというビジョンを共有しています。この協業は、持続可能な社会の実現に向けた当社の取り組みを加速させる重要な一歩となるでしょう」と締めくくった。
AI Use case
日本マイクロソフトとパートナー企業が紹介する
企業の生成AI活用を促すユースケース
生成AIの活用が進まない企業は、ノウハウやユースケースの不足が課題となっていることが多い。そうした企業に向けて、日本マイクロソフトは10月16日に「Gen AI Partner Day」を実施した。同会見では、日本企業における生成AIの現状と課題を解説するとともに、日本マイクロソフトのパートナー企業である日立製作所とギブリーのユースケースが発表された。今回はこうした各社の生成AI活用に向けた取り組みを紹介していく。
日本企業における生成AIの活用を促進
日本マイクロソフトが開催したパートナー企業による生成AI活用支援の取り組みを紹介する「Gen AI Partner Day」をリポートする。記事では、日本企業における生成AIの現状と課題と共に、日立製作所とギブリーのユースケースを紹介する。
生成AIの活用を進めるためには
目的と計画とリソースが必要
生成AIが急速に普及している。マイクロソフトの調査によると、グローバルのナレッジワーカーのうち75%が職場で生成AIを活用している。そうしたグローバルでの高い普及率に比較して、日本での生成AIの個人利用率は低い。総務省が作成した「令和6年版 情報通信白書」によると、日本での個人利用率は9%となっている。生成AI利用の初動は早かったが、定着にまで至らなかったのだ。その理由として、生成AIの活用効果が期待を大きく上回っていると回答した人の割合が9%であることが挙げられる。さらに日本企業は生成AIを活用する際「必要なスキルを持った人材がいない」(64%)、「ノウハウがなく、どのように進めればよいか、進め方が分からない」(49%)、「活用のアイデアやユースケースがない」(45%)といった課題に直面している。こうした背景を受け、日本マイクロソフト 執行役員 常務 パートナー事業本部長 浅野 智氏は「日本企業が生成AIを効果的に活用するためには、具体的なユースケースやノウハウを企業に蓄積することに加え、サイロ化されているデータをセキュアに一元化する必要があります。さらにAI活用の目的を明確にし、データ戦略を整え、利活用推進計画とリソースを確保することも重要です」と語る。
マイクロソフトはパートナー企業と連携し、生成AI利用の拡大や活性化させることを目的としたプログラム「生成AI事業化支援プログラム」を2023年10月より行っている。生成AI事業化支援プログラム第1期の成果として、約160社のパートナー企業が参画し、4,000人以上がAIスキルを習得した。さらに250以上の生成AI活用事例が生まれている。第2期の目標について浅野氏は「パートナー企業の参画数を160社から250社に、AIスキルを習得したトレーナーを4,000人から1万人に、そして生成AI活用事例を250件から300件に増やすことが目標です。そうすることで、ユースケースやノウハウを増やし、日本全体のAIスキル底上げを図ります」と語った。
人材不足の解決を目指す
日立製作所のユースケース
マイクロソフトでは、生成AIを活用する方向性として「創るAI」と「使うAI」の二つを挙げている。
同会見ではまず創るAIの取り組みとして、日立製作所(以下、日立)のユースケースが紹介された。既報の通り、日立は生成AIを活用することで、グローバル全体で社会課題となっている人材不足を解決するという目標を掲げている。その実現のために、日立グループの全従業員27万人が生成AIを用いたナレッジをCenter of Excellence(CoE)である「Generative AIセンター」に一元的に収集し、顧客向けサービスに役立てているのだ。さらに日立では、顧客の生成AIの活用を推し進めるには具体的なユースケースが重要であるとして、社内外を含めて1,000件以上のユースケースを創出している。
まずは社内ユースケースとして、コールセンターでの事例が紹介された。ミッションクリティカルなシステムに対する日立のサポートサービス「日立サポート360」において、LLMに外部知識を拡張し、生成結果の信頼性と安定性を向上させる技術「Retrieval-Augmented Generation」(RAG)が活用されている。オペレーターの回答支援や過去事例の特定、報告書の作成といったプロセスにRAGを適用することで、75%の時間短縮を実現している。
続いて社外ユースケースとして、製造業の作業工程に関する仕様回答や見積作成の効率化の事例が紹介された。これらの作業は以前、熟練者が自分の知識をベースに行っており、属人化が課題となっていた。「Azure OpenAI」やマイクロソフトの情報検索プラットフォーム「Azure AI Search」を活用することで、過去情報を活用した仕様書の回答案、見積根拠の出力が可能となり、熟練者に依存しない体制を構築できた。
こうしたユースケースの作成を加速させるために、日立では人材育成を進めている。人材育成のプログラムにマイクロソフトが提供する研修を組み込み、高度な生成AIスキルを持つ「GenAI Professional人財」を、2027年までに5万人以上育成することを目標に掲げている。
最後に日立 Generative AIセンター センター長 吉田 順氏は、今後の展望について「2024年以降はユースケースの作成に加え、業務全体のDXを推進していきます。そうすることで、人材不足といった課題の解決をマイクロソフトさまと共に取り組んでいきます」と語った。
業務にフィットしたプロンプトで
現場の生成AI活用を促進する
続いて使うAIの取り組みとして、ギブリーのユースケースが紹介された。ギブリーは、自社プロダクトの提供と併せて、生成AI活用のためのリスキリングやBPOなどを手掛け、これまで500社以上の導入支援を行っている企業だ。
ギブリー 取締役 Operation DX部門長 山川雄志氏は、生成AI活用の課題についてこう語る。「生成AIはRPAといった従来のDXソリューションと比べ、利用の強制力が働きづらいという特有の課題を抱えています。生成AIは利用せずとも従来通りの業務ができるのに加え、単純に生成AIツールを導入するだけでは、入力に対して適切な出力が得られず、時間がかかってしまうことから、現場の工夫なしには浸透が進みにくいです」
現場の工夫をギブリーが支援したユースケースとして、住友商事の支援事例が紹介された。住友商事は従業員9,000人にMicrosoft Copilotのライセンスを導入していたが、導入当初は利用率が上がらず、反対に業務時間が増加してしまうケースもあった。利用率を向上させるためにギブリーは、業務にフィットしたプロンプト「ゴールデンプロンプト集」の作成と配布を行ったという。具体的には、発言録・議事録の作成に当たり、Teams会議の文字起こしデータをCopilotで加工し、Wordで成形、Outlookで社内展開するという複数ツールを組み合わせたワークフローを確立。当ワークフローを利用することで、発言録・議事録の作成にかかっていた時間を4時間から2時間に短縮した。
ギブリーは企業に生成AIが定着する手法として、「生成AI活用の定着に向けたサイクル」を推奨している。同サイクルではまず、DX推進チームと現場が一体となってゴールデンプロンプト集を作成し、ゴールデンプロンプト集を現場で活用することで成果を創出する。そして創出した成果を社内にノウハウとして共有しながら、それをまた新たなユースケースとしてナレッジ化していくことで、生成AI活用の定着を図る。「定着を図る上で重要となるのが、経営レベルのコミットメントです。現場の工夫が生成AIの定着において必要不可欠ですので、経営者は工数の確保や生産性向上を実現した社員への適切な評価といった具体的な支援を行うことが重要です」と山川氏は強調した。
Business Note PC
シン・モバイルワーク時代に訴求する
VAIOの最上位モデルのモバイルPC
VAIOは、10月31日に1kgを切る軽量のモバイルノートPCの新モデル「VAIO SX14-R」(個人向け)と、「VAIO Pro PK-R」(法人向け)を発表した。同日の10時から受注を開始し、11月8日から発売する。2024年7月に設立10周年を迎えた同社が“シン・モバイルワーク時代”に訴求する最上位モデルのこだわりを、報道関係者向け新製品内覧会の様子からリポートしていく。
シン・モバイルワーク時代に訴求するノートPC
VAIOは1kgを切る軽量のモバイルノートPC「VAIO SX14-R」(個人向け)と、「VAIO Pro PK-R」(法人向け)を発表した。同社が提唱する“シン・モバイルワーク時代”に最適化されたPC開発のこだわりを解説していく。
働く環境の中心となるPCに
生産性を高める工夫を集約
「IDCによる市場調査データを見ると、法人向けノートPC市場全体が減少、もしくは低成長が続いています。一方で、VAIOはコロナ禍の中盤を境に、大幅に販売台数を伸ばしており、直近2年で約2倍の売り上げを達成しています。この成長を支えているのが法人向けPCです」と語るのは、VAIO 取締役執行役員 開発本部長 林 薫氏。このような大幅な販売台数の伸長の背景には、コロナ禍で多くのビジネスパーソンが在宅勤務にシフトしたことが挙げられた。それに伴い「PCは働く環境の中心であり、生産性を向上させるためにより快適な環境を提供するべきだ」という方向に、考え方がシフトしたのだ。それはPC購入の意思決定者も同様であり、コロナ禍を契機にPCへの投資意識が変化し、生産性高く働けるVAIOのノートPCが選択されるようになったのだという。
VAIOのPCがビジネスの現場で選ばれる理由について、前述した「生産性が上がる」ことのほか、「モチベーションが上がる」「信頼できる」といったポイントも挙げられた。そして、今回開発したVAIO SX14-RとVAIO Pro PK-Rではこれらのポイントにもう一歩踏み込むアプローチを取り入れ、これまでよりも長い開発期間を経て製品化されている。
林氏は「具体的には、これまでよりも試作のプロセスをもう一つ増やしました。量産の手前でもう一度試作を行うことで、品質の一段引き上げ、これまで以上の高みを目指しました。この取り組みには非常に強い手応えを感じております」と語る。
そうしたこだわりが詰まった今回のビジネスノートPCの開発経緯について、商品企画を担当した同社の開発本部 プロダクトセンター プロダクトマネージャー 柴田雄紀氏は「コロナ禍を経て我々が働く環境は大きく変化しました。当社は長くモバイルワークを提案してきましたが、コロナ禍前である2017年度にテレワークを採用していた企業は全体の14%ほどでした。しかしコロナ禍以降となる2020年には、テレワークを実施している企業数は一気に増加し全体の47%になりました。その後、コロナ禍が落ち着きオフィス回帰が進んでいますが、コロナ禍の非常時対応で進んだテレワークは、本来の意味で働き方をより良くしていくためのモバイルワークとして、再度進化しています。当社では2023年以降の働き方を“シン・モバイルワーク時代”と名付け、それを実現する要素を今回のVAIO SX14-RとVAIO Pro PK-Rに詰め込みました」と語る。
質の高いWeb会議を実現する
音や画質にとことんこだわる
シン・モバイルワークを実現する五つの強化ポイントを見ていこう。一つ目は、モバイルPCとしての基本性能の進化だ。画面サイズは14インチワイドと大型ながら、本体重量は約948g〜(最軽量構成時)と1kgを切る。また天板と底面には新設計のカーボンファイバープレートを採用し、強靱性と軽量性を両立させた。
「コロナ禍の在宅/ハイブリッドワーク時代では画面サイズの大きさが重視されていました。しかし、シン・モバイルワーク時代では再びポータビリティ性が求められています。そこで、大画面でありながら軽くて丈夫で安心して持ち運べるモバイルPCに仕上げました」と柴田氏。
またコロナ禍以前のモバイルワーク時代(2017〜2020年)と現在のシン・モバイルワーク時代を比較して、Web会議の重要性が大きく高まったことを指摘。どのようなシチュエーションでも質の高いWeb会議が行えるよう、多様なポイントで機能強化が図られている。
まずは音だ。従来製品よりもさらに精度の高いAIノイズキャンセリング機能を実装したことで、快適なコミュニケーションを可能にしている。加えて、会議のシチュエーションに合わせて選べる「プライバシーモード」「会議室モード」「プライベートモード」「標準モード」といった四つのモードを用意した。例えばプライバシーモードを使うと、マイクの集音範囲を左右約+20度程度に制限することに加え、カメラ画角もその範囲に合わせて自動的に最適化する。会議室モードを使えば6〜8人ほどの会議室でも遠くの人の声を自動的に調整し、通話相手に聞こえやすくする。また反響音も抑制し、PC1台で会議室でのオンライン会議を円滑に進められるようになる。これらのモード設定は、キーボード上部に搭載された「オンライン会話設定キー」を押すことでポップアップされる「VAIOオンライン会話設定」から行える。本設定では、小声でも意思疎通ができる「小声モード」や聞き取りやすい音声を届ける「反響抑制」といった、マイクやスピーカーの設定も簡単に切り替えられる。
柴田氏は「皆さんがオンライン会議をする際、カメラ映像をオフにすることも多いと思います。しかし当社ではオンライン会議を実施する上では、カメラをオンにして顔を見せた方がコミュニケーションの質が上がると考えています。そこで本製品では、より高画質な9.2MPカメラを選択できることに加え、HDR明るさ補正によって、逆光や暗所環境での映像の白飛びや黒つぶれを自動的に軽減することで、遠隔でもリアルなコミュニケーションを実現します。またカメラをオンにしやすいよう、少し席を外した場合に画面を一時停止する機能や、カメラのフレーミング範囲を制限できるプライバシーフレーミング機能を搭載し、プライバシーに配慮しながら顔を見てオンラインコミュニケーションが実現できるのです」と語る。
こうした場所を選ばない働き方や、Web会議によるコミュニケーションを円滑に進めるためには、デバイスのバッテリー駆動時間も重要なポイントになる。今回のVAIO SX14-RとVAIO Pro PK-Rでは、標準バッテリーに加え、長時間駆動バッテリーが選択できる。長時間駆動バッテリーでは動画再生時間最大約16時間、アイドル時間は最大38時間と、長時間電源が取れない環境でも安心して利用できるだろう。また省電力機能も充実しており、画面を見ていない時は輝度を下げる「ノールック節電」や、独自チューニングによってシステムの電力消費を制御する機能、バッテリーの充電量を80%や90%に抑制して劣化対策を行える「いたわり節電モード」などを搭載する。
働く意欲も高まる
使い勝手やデザインの工夫
“ハタラク気持ちを高めるこだわり”として、使い勝手やデザイン性の高さにもこだわっている。手になじむ持ち運びのしやすさや、片手での開閉のしやすさといった快適性も実現した。
また、キーボード部分はタイピング時の手首の疲れを軽減するチルトアップヒンジ構造と、ヒンジ部からキーボード手前側にかけて薄くなるくさび形フォルムを採用。手のひらや手首にかかる負担を大幅に低減しているという。キーボード構造の見直しも実施し、打鍵感やクリック感を損なわず、キーボードタッチ操作と2ボタンのクリック時の静音化も実現した。
通信の安定性も向上させている。トップベゼルの狭額縁を実現しながらも、そこに新設計した無線LANと無線WANのコンボアンテナを搭載し、通信の安定性を図っている。デザイン性とともに、本質的な使いやすさも追求しているのだ。
カラーバリエーションはアーバンブロンズ、ファインブラック、ブライトシルバーに、新色のディープエメラルドを加えた4色を展開するほか、VAIO SX14-RにはプレミアムエディションとしてALL BLACK EDITIONを用意。設立10周年を記念し、特別仕様モデルとして濃く深い藍色の勝色特別仕様も数量限定で提供する。
内覧会ではシン・モバイルワーク体験として、VAIOオンライン会話設定機能を活用したWeb会議シーンのデモンストレーションが実施された。シーンを切り替えると一瞬で会議シーンに適したクリアな音声が伝わり、その性能の高さに驚かされた。
どこでも、どんな仕事でも快適に行えるVAIO SX14-RとVAIO Pro PK-Rは、これからのシン・モバイルワーク時代のビジネスPCとして有力な選択肢の1台となるだろう。