デジタル田園都市スーパーハイウェイと
データセンターの地方分散の目論見
日本DX|政策計画
デジタル田園都市国家構想の実現に向けて、そのICT基盤となる「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」が総務省を中心として進められている。デジタル田園都市国家インフラ整備計画の対象となるのは光ファイバー、5G、データセンター、海底ケーブルなどだ。特に注目されるのは日本列島を周回する海底ケーブル「デジタル田園都市スーパーハイウェイ」の整備と、データセンターの地方分散だ。都市に密集するICTインフラを地方にも整備することで、どのような効果が期待できるのだろうか。これらの事業を担当する総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 データ通信課に話を伺った。
日本海側の未整備地域に
2025年度までに海底ケーブルを整備
総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 データ通信課ではデジタル田園都市国家インフラ整備計画におけるデータセンターの地方分散と日本列島を周回する海底ケーブル「デジタル田園都市スーパーハイウェイの整備」および海底ケーブルの陸揚局の地方分散などを担当している。これらの事業の目的について総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 データ通信課 課長補佐の関 裕介氏は次のように説明する。
まずデジタル田園都市スーパーハイウェイの整備について「日本列島の太平洋側では海底ケーブルが整備されています。反対側の日本海側では海底ケーブルが未整備の地域があります。東日本大震災の際に国際海底ケーブルが切断されてしまいましたが、今後も東海地震や南海トラフ地震、首都直下地震などの災害が想定されています。あらゆる災害へのレジリエンスを備える必要があり、ネットワークの強靭化を図ることを目的に日本海側の未整備の地域に海底ケーブルを整備します」と説明する。
別掲図が示す通り国内の海底ケーブルは北海道と本州、本州の太平洋側、九州と沖縄がすでに接続されており、現状未整備となっている日本海側の九州から秋田までを整備することで、日本列島を周回するデジタル田園都市スーパーハイウェイが構築される。
計画ではデジタル田園都市スーパーハイウェイを3年程度で完成させるとしている。関氏は「日本海側の未整備地域での海底ケーブルの整備に対して令和3年度(2021年度)の基金を利用するため期限が5年間となり、基金を利用して整備する事業に関しては令和7年度(2025年度)までに完成させなければなりません」と説明する。
この期限は補助金を利用した事業に対するものだ。例えば別掲図で示されている東京と北海道を結ぶ経路については事業者による整備が想定されており、事業者が自らの資金で整備をする事業に期限は設けられない。
7件のデータセンターを地方に新設・拡充
海底ケーブルの陸揚局も分散する
海底ケーブルの陸揚局の分散も通信インフラの強靭化において重要な事業となる。現在、海底ケーブルの陸揚局は房総半島に密集している。日本列島を周回する海底ケーブルが整備されても、陸揚局が被災して機能が停止してしまうと、当然通信が止まってしまう。そのため陸揚局を分散することで、災害への耐性を高める。
データセンターの地方分散も同様の狙いとなる。現在、データセンターは需要の高い東京をはじめとした都市部に設備が密集している。事業者としては需要の高い地域に設備を設置するのは当然のことではあるが、災害や電力不足への対策という観点では地方への分散は必要だ。またデータセンターが地方に開設されれば、その地域のデジタル化の促進につながる可能性もある。
ところで別掲図では海底ケーブルの経路や分岐点、新規のデータセンターの拠点などが示されているが、これらは計画時の想定であり、決定されたものではない。
デジタル田園都市スーパーハイウェイでは日本海側の未整備の地域、九州と秋田間に海底ケーブルを敷設することが示されているが、分岐点については「分岐点の数や陸揚局の場所は事業者の提案によって決まります。分岐点については今秋を目標に公募する計画を進めています」と説明する。
データセンターの地方分散についても計画では5年程度で十数カ所の地方拠点を整備するとされているが、新規に開設する場所や数は決められておらず公募によって事業者から提案を募り、審査を経て採択する。データセンター事業は今年5月に公募が実施されており6月27日に7案件の採択が公表されている。
この7案件のデータセンター(北海道、福島県、京都府、大阪府、奈良県、島根県、福岡県)は将来的に10ヘクタール程度に拡張することを見込んでおり、それぞれの事業展開がほかの事業者の地方進出を促進し、十数カ所の地方拠点の整備を目指す。
なおデジタル田園都市スーパーハイウェイもデータセンターの地方分散も政府が主導して進められている事業ではあるが、主体は民間の事業者だ。補助金の交付を通じて政府が事業を支援する形となる。間接支援のため基金設置法人を通じてデータセンターを構築する事業者を支援するスキームとなる。
ICTインフラの整備を呼び水に
地域の産業振興と経済活性化
海底ケーブルにしてもデータセンターにしても、事業者はこれまで日本海側への海底ケーブルの整備や、地方でのデータセンターの開設に積極的ではなかった。その理由は単純だ。ビジネスとして魅力がないからだ。しかしデジタル田園都市国家インフラ整備計画には日本海側の海底ケーブルの整備やデータセンターの地方分散が盛り込まれている。事業者にとってメリットは見いだせるのだろうか。
日本海側の海底ケーブルの整備について関氏は「市場原理に基づいてこれまでは事業展開の観点から海底ケーブルは太平洋側を中心に整備が進められてきました。しかし切断してしまうと太平洋側だけでは事業者にも利用者にも、国民にも不利益が生じます。ネットワークのバックアップの役割として評価されています」と指摘し、整備するメリットを強調する。
また「日本海側の海底ケーブルについても点と点だけをつなぐのではなく、数カ所に分岐点を接続すれば強靭性がより高まります。陸揚局の分散も同様です」と話を続ける。
データセンターの地方分散については「箱だけを作って負の遺産にならないよう十分な需要が見込めるのかを事業者の提案を精査し、エビデンスをそろえた上で採択しています」と説明する。
個人的な意見であることを断った上で関氏は「(これらの事業は)地方のデジタル化を促進する呼び水になると期待しています。充実したICTインフラがあれば、それを利用した新しいサービスやビジネスが生まれ、そこから地域の産業の振興や経済の活性化につながる効果が期待できます」と語った。ICTインフラがないから地方のデジタル化が進まないという言い訳は通用しなくなりそうだ。