昨今ESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governanceの三つの観点で企業の持続可能性を評価する考え方)やESG投資へ社会の注目が集まっている。今回は、書籍の内容をQ&A形式で紹介するとともに、ESGの取り組みを模索していきたい。
あわせて学ぶ ESG×リスクマネジメント
企業がESGに取り組む足掛かりとなる模範的なケースを知りたい。
ESGは環境問題だけではなく、企業価値の毀損防止など企業の存続にも関わる問題だ。『あわせて学ぶESG×リスクマネジメント』では、「リスクマネジメント」の切り口でESGに必要な取り組みや例となるケースを紹介。ESGの経営リスクを推し量る指標として「SASB※1」「GRI※2」の開示基準を提示している。「贈収賄・反競争的行為」「セキュリティ・プライバシー」「人権・労働」「品質・マーケティング」などの4パートでESG対応を検討できそうだ。
どのようなリスクマネジメントが必要か?
第2部では、ESGの取り組みに際しての業種別の注意点と対応点の実践的な内容をまとめている。例えば、ソフトウェアおよびITサービス業では、顧客データの管理不足・ミスによる収益減少、市場低下のリスクがあるため個人情報の取り扱いが重要だ。プライバシー保護の取り組みの方向性付けとして、「PIA※3」の実施ステップをフローで確認できる。事業者向けの「AI利活用ガイドライン」の10原則の概要も簡素に提示されている。AI事業者に役立ちそうだ。
※1……Sustainability Accounting Standards Board:サステナビリティ会計基準審議会
※2……Global Reporting Initiative:GRIが公表した企業のESGへの取り組みを評価するために必要な基準
※3……Privacy Impact Assessment:プライバシー影響評価
今回の質問ユーザー:sakai
ESGと経営戦略のすべて
ESGは実際に、ビジネスにどう関係してくるのか?
中長期的な企業価値向上のための経営戦略に当たっては『ESGと経営戦略のすべて』がお薦めだ。従来、企業を評価する物差しは売り上げ・収益といった財務情報だった。しかし今後は、財務情報だけでは測れないESGリスクを見越して、企業の現在の姿や将来像を開示して、経営戦略を見直す必要があると指摘。本書では、産業ごとのESG課題や望ましい戦略のストーリー展開などが参照できる。端的に論述されており仕事の合間に読みやすい。
経営を見直すため、ESGを踏まえた事業構築方法を知りたい。
持続的・中長期的な成長のための経営計画の策定のほか、ビジネスモデルの転換を推奨している。第3章では、ESG経営に向けて見えない価値の定量化の提案やもうけのメカニズムの論点解説をしており、図説のため自社のパターンに当てはめやすい。経営戦略の転換に当たっては、「新製品開発」「新生産方法の導入」「新マーケットの導入」といったイノベーションの5分類を紹介しており、事業創出に役立てられそうだ。ESGと無形資産の創出メカニズムの解説は、従来の事業形態に非財務資本を組み込みやすい一手だ。
今回の質問ユーザー:aida
人と組織がいきる倫理マネジメント
ESGにおいて、人権問題や労働環境問題をどう対応するのか?
『人と組織がいきる倫理マネジメント』では、「会社と対峙し」「組織人として社会と向き合う」ステークホルダーとしての「従業員」に焦点を当てて企業倫理を模索している。ポイントは、従業員にどう仕事の「有意味感」をもたらして、善い企業・事業創出につなげるかだ。第2章では、経営者、管理者、従業員個人の流れでの「倫理的価値の人による伝播」「インテグリティ志向の倫理マネジメント」を図説している。人や組織風土によって徳・恩恵(仕事の有意味感)をもたらす文化を形成すれば、従業員の倫理的な意思決定を手助けしそうだ。
職務に関しての倫理的具体策をどう講じるべきか?
第3章では、心理学者 J・リチャード・ハックマン氏と経営学者 グレッグ・R・オルダム氏が提唱した理論「職務特性モデル」を引用している。「タスク完結性」「タスク重要性」など五つの「中核的職務特性」を設定し、仕事の有意味感をはじめ、人の「重要な心理状態」が満たされることによって「成果」が現れると考えた概要図を参照できる。従業員個人の倫理性はタスクの重要性とその意味合いにおいて通じていて、従業員への高い職務パフォーマンス発揮や怠業・離職抑止に向けて参照されたい。
今回の質問ユーザー:seijo