今読むべき本はコレだ! おすすめビジネスブックレビュー - 第11回
新世代消費者があらゆる会社をサービス業に変える!?
『すべての企業はサービス業になる 今起きている変化に適応しブランドをアップデートする10の視点』室井淳司 著
「今押し寄せている変革の波は、一時のトレンドではなくシフトである。そしてあなたの会社はいずれサービス業に変わらざるを得ない――」。変革とは何を指すのか? なぜそんな波がやって来たのか? そしてそもそも、なぜ変化の先がサービス業なのか? すべての答えは本書にある。
文/成田全
ズレのない、共通認識を得るための一冊
『すべての企業はサービス業になる』――とても刺激的なタイトルだ。しかし本書を読了すれば、すべての企業がサービス業へシフトすることは至極当然であることがよくわかることだろう。
著者でクリエイティブ・ディレクターの室井淳司氏は、ビジネスで訪れる中国で「日本に住んでいると感じない危機感」を抱くようになったという。現在、IoTやビッグデータの活用、AIの発達、キャッシュレス化などによってビジネスシーンに様々な変化が起きて、業界や業態などの境界も曖昧となり、さらには環境や価値観などの変化によって消費者の動向が読みづらくなるなどこれまでの手法では対応できない事態が増えているが、室井氏はこれらは全て密接に関係していると指摘している。
大きな変化を意識するようになった室井氏は「業界業種によってその認識や理解が異なるのはもちろん、クライアントチーム内でも個人毎に意識に違いがあることが分かってきました。認識が異なると、新しいサービスを開発していくプロセスにおいて各自の判断基準にズレが生じます。このズレを無くすためには、共通認識をつくる必要があります」ということに気づき、執筆を決意したそうだ。本書にはどうやってお互いの認識のズレを是正すればいいのか、これから先の未来には何が必要で、新たな嗜好や思考にアプローチする方法にはどんなものがあるのか、そして激変する環境にどう適応しながらアップデートしていくべきかという内容が全4章でまとめられている。
今起きている変化とは?
まず1章「ブランドに押し寄せる変革」では、アメリカのラスベガスで毎年開催されている電子機器の見本市「CES(Consumer Electronics Show)」で、自動車メーカーである「トヨタ自動車」が2018年に発表したモビリティ・サービス「e-Palette」を俎上に載せ、これまでのように「車」という製品を作って売る製造業から、サービスを利用してもらうサービス業へのシフトがなぜ起こっているのか、それにはどんな方向を目指すべきなのかを考察していく。
続く2章「避けられない三つの環境変化」では、これからの主要ターゲット層となる1981~1996年生まれのミレニアル世代の価値観はこれまでの世代と何がどう違うのか、そして所有からシェアへとシフトする消費行動「シェアリング・エコノミー」に関して、さらにIoT、ビッグデータ、AIの導入によって一変した時代を「オートメーション時代」と呼び、新たなデジタル技術によるプラットフォームを持つ企業によって既存のサービスが変わっていく産業構造という、今起きている「3つの環境の変化」が説明される。
3章「変化する購買行動」では、店舗中心に販売を行っていた「シングルチャネル」から、「マルチチャネル」や「クロスチャネル」に変化して、現在のスタンダードである「オムニチャネル」へと至った経緯、さらにオムニチャネル時代だからこそ必要とされる「リアル」と「デジタル」をどう統合していくべきかについて解説されている。
ここまでが本書の副題の前半「今起きている変化に適応」するにはどうしたらいいのかについて、事例を交えながら紹介している部分である。
現在の変化は“トレンド”ではなく、“シフト”という大きな流れ
最後の4章では、副題の後半「ブランドをアップデートする10の視点」が提示される。「今起きている大きな変化はトレンドではなくシフト」と強調し、大きな流れが向かう方へと戦略を調整していくために必要な考え方がコンパクトにまとまっている。
そして室井氏は「おわりに」でこんなことを書いている。
企業の利益追求姿勢は人を顧客と捉え、いかに便利漬けにしてサービスを利用させるか、いかに心を飢えさせて虚栄心を満たすものを買わせるかという文脈の上に成立してきました。しかしこれからは顧客の幸せの価値観が原点へと戻っていくことを考えると、人の幸せに寄り添うサービスのデザインへと企業活動も変わっていくように思います。結局企業ですら、人の幸せに寄り添えなければ持続し続けることは不可能なのです。
20世紀的な大量生産・大量消費・大量廃棄の時代はすでに過去のものとなった。本書で現在の状況や事例を理解し、21世紀に生きる人たちの幸せに寄り添うための新たな視点を得て、より良いサービスが提供できるよう戦略を見直してもらいたい。
まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック
次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!
『データ資本主義(ビッグデータがもたらす新しい経済)』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ 著、斎藤栄一郎 訳/エヌティティ出版
ビッグデータ時代の到来により市場は根本的な変革を迎えている。アルゴリズムが人に代わり膨大な情報を参照することで最適に近い取引を実現する未来が近づいている。人間の判断による制約が取払われた新しい市場とはどんなものか、貨幣・銀行・大企業はなぜ時代遅れになり、雇用はどう変わるか。データが市場を動かす新しい資本主義の可能性と課題をビッグデータの第一人者が描き出す。(Amazon内容紹介より)
『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』田中道昭 著/日経BP社
次世代金融産業をめぐる戦いの構図と状況を明快に論じた待望の一冊! テクノロジー企業vs既存金融機関の戦いを徹底分析。三大金融ディスラプター(アマゾン、アリババ、テンセント)は何を目論む? 「世界一のデジタルバンク」と称賛されるシンガポールDBS銀行は何がすごい? 逆襲する米国金融機関ゴールドマン・サックスとJPモルガンはどんな選択をした? 日本型金融ディスラプターとメガバンクとの対決の行方はどうなる? 本書は、次のような重要な問題意識に基づいて、新しい金融のあり方を問います。1. 金融はもはや「Duplicate」(擬似的に創造)できる/2. 金融ディスラプター企業が金融を垂直統合してくる(既存金融機関よりも本来の「金融」機能を実現している)/3. 金融にも「当たり前」のことが求められてくる(Amazon内容紹介より)
『スピードマスター 1時間でわかる インバウンド対策 訪日外国人のおもてなしはこれで決まり!』訪日ラボ 著/技術評論社
訪日外国人観光客は増加の一途をたどっており、2018年12月には初めて3000万人を突破しました。さらに、2019年のラグビーワールドカップ開催、2020年の東京オリンピック開催によって、今後もより多くの外国人が日本を訪れることでしょう。今、外国人観光客の旅行=インバウンドによって発生する利益は、非常に大きなビジネスチャンスとなっているのです。しかし大企業はともかく、中小企業や地方団体、個人経営の飲食店などは、訪日外国人へのアプローチの方法や、実際に彼らをもてなす際の対応方法に困ってしまうことも多いと思います。そこで本書では、そういった人達へ向けて、インバウンドビジネスの基礎と実践的なノウハウをやさしく解説します。この1冊で、あなたもインバウンドによってビジネスの可能性を広げましょう!(Amazon内容紹介より)
『業務デザインの発想法~「仕組み」と「仕掛け」で最高のオペレーションを創る』沢渡あまね 著/技術評論社
「既存の業務をよりよく改善しよう」「今までにない価値を提供する新しい業務を立ち上げよう」という話が、いつの間にか「とにかく、納期優先!」「細かいことは、後で考えればいい」となって、後になって「わかりにくい、こんなもの使えるか!」「かえって手間が増えたんですけれど……」とクレームの嵐に――そんな事態を防ぐにはどうすればいいか? 累計21万部の問題地図シリーズを生み出した業務改善・オフィスコミュニケーション改善士である著者が、業務の付加価値を最大に、トラブルを最小にするノウハウを集大成しました。(Amazon内容紹介より)
『すごい準備 誰でもできるけど、誰もやっていない成功のコツ!』栗原甚 著/アスコム
本書では、テレビ番組プロデューサーである著者が、「難攻不落の芸能人」や「取材NGの店」からYESを引き出し、数々の大ヒット番組を制作してきた交渉のテクニック=「すごい準備」のやり方をわかりやすくまとめました。相手に自分の思いを伝えるための「準備ノート」のつくり方や「口説きの戦略図」など、誰でもすぐに実践できるメソッドがたっぷり掲載されています。実践的な方法論に加え、著者がテレビ制作の現場で経験してきた具体的なエピソードも満載。メソッドの活用方法がわかりやすく、エピソードだけでも楽しめる内容です。(Amazon内容紹介より)
筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)
1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1600人以上を取材。『誰かが私をきらいでも』(及川眠子/KKベストセラーズ)など書籍編集も担当。