今読むべき本はコレだ! おすすめビジネスブックレビュー - 第24回

あなたが「デジタル広告に何をされているのか」わかるかもしれない一冊


『デジタル時代の基礎知識 広告 人と商品・サービスを「つなげる」新しいルール』小林慎一、吉村一平/翔泳社

モノとコトを人に売るためにデジタル広告はいったい何をしているのか? アナログ広告との違いは? なんとなく聞き流しているカタカナ言葉の本当の意味は? 私たちに関する膨大な情報を収集・解析することで千変万化するデジタル広告の仕組みを知りたいなら手に取るべき一冊だろう。

文/成田全


デジタル時代の「広告」を理解するための一冊

 2002年公開の映画『マイノリティ・リポート』(原作はフィリップ・K・ディック)。舞台は殺人予知システムによって殺人事件発生率が0%になった、2054年のワシントンD.C.だ。そこは街中に設置された機械によって網膜走査が行われ、人物とその居場所を瞬時に特定できる世界となっている。映画では過去の行動や履歴、属性などから商品を勧める広告が個別に表示されるのだが、現代でもその一部は(さすがに網膜走査ではないが)実現しているテクノロジーといえるだろう。

 20世紀は作り手や売り手とメディアによる消費者への一方的な広告が中心であったが、20世紀末からインターネットを利用する人が増え、21世紀へ入るとSNSが普及したことでインタラクティブなコミュニケーションが活発となり、欲しいもの、気になることはまずインターネットの検索エンジンで探し、ECサイトで買い物をすることがごく普通のこととなった。

 現代はスマートフォン等の位置情報取得による行動履歴、ネットの検索履歴、スマートスピーカーなどの音声認識システムによる情報収集、データの解析などによって個人向けに展開されるデジタル広告が増え、新しい用語や方式も次々に生まれて、目にする広告の形も、量も、質も、凄まじい勢いで変化している。ネットを開くたびに出てくる広告や、難解な用語の多い広告関係の話題についていけないとお嘆きの方もいらっしゃることだろう。

 そんな激変する広告の基礎的な知識から、今、そしてこの先必要になってくる最新情報までを盛り込んでいるのが、今回ご紹介する『デジタル時代の基礎知識 広告 人と商品・サービスを「つなげる」新しいルール』だ。

必要な情報がコンパクトにまとまる

 本書は8つのチャプターで構成されている。広告業界や広報・宣伝に携わる方はもちろん、消費者としてもどんな形の広告があるのか知識として知っておいた方がいい内容がコンパクトにまとめられている。

 Chapter1の「広告の目的」では広告にはどんな形と目的があるのか、続くChapter2「トラディショナルメディア」は新聞や雑誌、テレビCMといったマスメディアによる広告の種類を改めて確認するという基礎の基礎から始まる。

 そしてChapter3「加速するデジタル広告」では、近年増大するネット上で目にする広告の形態についての説明があり、普段何気なく見ているデジタル広告が閲覧するメディアやデバイスごとに最適な形で作られていることがわかる。Chapter4「ファネルという考え方」(ファネルとは「漏斗」のこと)は、消費者がどのように商品を認知して絞り込みを行い、購入へ至るのかという過程がデジタル広告によってどう変化しているのか、図解でわかりやすく説明している。

 Chapter5「広告を企画する」、Chapter6「広告を制作する」、Chapter7「広告に携わる様々な職種」は広告制作に関する具体的な作業や役割についての項目があり、最後のChapter8「効果測定と改善」は、これまで「出したら終わり」だった広告から、結果を見てすぐに改善し、より効果的にアップデートした広告を制作するメリットや考え方を学ぶことができる。また巻末には用語集もあるので、「広告関係の用語は英語からそのまま移植されたカタカナ語や略語が多くて難しい」と感じている方も安心だ。

「便利さ」だけにとらわれないために

『マイノリティ・リポート』の話には続きがある。この映画には完全自動運転車や音声認識システムなど様々なテクノロジーが登場するのだが、本作を監督したスティーブン・スピルバーグは2054年の世界を描くに当たり、様々な分野の学者や有識者、専門家を23人招集して、将来どのような技術が可能かをディスカッションしたそうだ。しかしそこに集まった全員が「プライバシーが守られなくなること」を懸念していたという。

 履歴や位置情報などを解析することで、デバイスの使用者の住居や勤務先、性別、年齢、家族構成、年収、社会的ステイタス等を推測し、ピンポイントで広告を打つことが技術的に可能になった現代は、データの使い方によってはプライバシーを侵害したり、人に知られたくないパーソナルな部分にまで踏み込めるようになった。もちろん自分が欲しい、必要であると思っていたものが労せず手に入り、毎日の生活が便利になることは喜ばしいことだが、こちらの脳内を覗いたかのような度を超える通知や、知らない人に土足で家に踏み込まれるような状態になってしまうのは却って逆効果だ。

 広告はこれまでの枠組みを超え、様々な「もの」や「こと」と「人」を強烈に結びつけ、生活の一部になりつつある。この点を踏まえ、便利で適切な広告とはどんなものなのか、送り手と受け手がどうつながることがお互いに幸福となるのかを考えるきっかけとしたい。

まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック

次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!

『半沢直樹 アルルカンと道化師』池井戸潤 著/講談社

「半沢直樹」シリーズ6年ぶりとなる待望の最新作! 東京中央銀行大阪西支店の融資課長・半沢直樹のもとにとある案件が持ち込まれる。大手IT企業ジャッカルが、業績低迷中の美術系出版社・仙波工藝社を買収したいというのだ。大阪営業本部による強引な買収工作に抵抗する半沢だったが、やがて背後にひそむ秘密の存在に気づく。有名な絵に隠された「謎」を解いたとき、半沢がたどりついた驚愕の真実とは――。(Amazon内容紹介より)

『グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界』クラウス・シュワブ、ティエリ・マルレ 著、ナショナル ジオグラフィック 編、藤田正美、チャールズ清水、安納令奈 訳/日経ナショナルジオグラフィック社

世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長とオンラインメディア『マンスリー・バロメーター』の代表ティエリ・マルレが、コロナ後の世界を読み解く。2020年に世界を覆ったパンデミックは、それまでに起きつつあった変化を劇的に加速した。もう元には戻れない。「マクロ」の視点、「産業と企業」の視点、「個人」の視点それぞれから、次に来る新しい世界を提示する。いま何が起きているのか、これから何が起きるのかを、俯瞰して知るのに最適な1冊。(Amazon内容紹介より)

『世界は「経済危機」をどう乗り越えたか』(島崎晋 著/青春出版社)

「コロナ禍」で停滞する世界経済。観光業や外食産業をはじめ、さまざまな業界が打撃を受け、経済崩壊も秒読みである。しかし、世界は何度も経済危機を経験し、乗り越えてきた歴史があった。『経済崩壊後、「移民受け入れ」で世界の覇権国家になったある国とは』『「働き方改革」がドイツの壊滅的インフレを救った』『敗戦から高度経済成長へ、日本の再起のカギは「教育」』。本書は、歴史をひもとき、世界の未来をうらなう一冊。(Amazon内容紹介より)

『官邸vs携帯大手 値下げを巡る1000日戦争』(堀越功 著/日経BP)

「携帯料金は四割程度引き下げる余地がある」――。菅義偉新首相が官房長官時代から力を入れる携帯の値下げ。しかし国民の多くは値下げを実感するに至っていません。13年ぶりの新規事業者となった楽天の携帯参入、大幅な減益覚悟で値下げを決断したNTTドコモ、今度こそ市場を変えようと劇薬の「完全分離」導入に踏み切った総務省、ソフトバンクとKDDIによる瀬戸際の攻防。それでもなぜ市場は変わらなかったのでしょうか。本書は、そんな官邸と携帯大手の過去1000日の攻防を最前線で取材した著者がその裏側に迫り、携帯電話市場の課題を浮き彫りにしました。(Amazon内容紹介より)

『Q&A 日本経済のニュースがわかる! 2021年版』(日本経済新聞社 編/日本経済新聞出版)

コロナ後の我々はどうなる! 日経記者がズバッと解説。「いまさら聞けない……でも、わからない」そんな悩みをサクッと解決。各分野に詳しい日経記者が、Q&A形式で疑問にズバッとお答えします。経済がまったくわからない人でも容易に読めるように、目線を下げて解説。難しそうな単語は、用語解説をいれるという工夫を凝らしています。この一冊で、日本経済の主要な課題を把握できます。豊富なグラフで、何がどう変わったのかを一目で理解することができます。ビジネスで、就活で、話題についていくための必携書です。(Amazon内容紹介より)

筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)

1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1600人以上を取材。『誰かが私をきらいでも』(及川眠子/KKベストセラーズ)など書籍編集も担当。