GIGAスクール実践校現地リポート 【導入中期編】
1人1台の端末環境で学びはより創造的に発展

2021年8月号の本誌に掲載された、GIGAスクール実践校現地リポートの中期編となる今回。夏休み、そして4回目となる緊急事態宣言を経てスタートした2学期の端末活用は、現在どのように進んでいるのだろうか。取材を進めると、初期編の取材当時よりもはるかに習熟した学校現場での端末活用の様子が見えてきた。


 4回目となる緊急事態宣言が、2021年10月1日全面解除された。夏休みを直撃し、また夏休みが明ける8月末となっても続く緊急事態宣言に対応するため、文部科学省からは8月20日に「小学校、中学校及び高等学校等における新学期に向けた新型コロナウイルス感染症対策の徹底等について」の事務連絡の中で「やむを得ず学校に登校できない児童生徒に対するICTの活用等による学習指導」として、「一定の期間児童生徒がやむを得ず学校に登校できない場合などには、例えば同時双方向型のウェブ会議システムを活用するなどして、指導計画等を踏まえた教師による学習指導と学習状況の把握を行うことが重要である」といった指針が示された。

端末持ち帰りに求められる整備

 一部の自治体ではタブレット等の端末を活用し、分散登校とオンライン授業を併用するなどの感染症対策を行う動きも見られた。今回取材した群馬県吾妻郡草津町、福岡県大牟田市、大阪府柏原市でも4回目の緊急事態宣言に伴い、Chromebook、iPad、Windows端末などを活用しオンライン授業の準備に動いた例があった。例えば柏原市では、学級閉鎖に備え、端末をオフラインで持ち帰り、自宅からTeamsに接続できるかどうかのテストを実施していた。9月からは日常的な学習でも端末を持ち帰り、ドリル教材を活用した学びで学習が継続できるよう一部の学校で取り組みを始めているという。

 草津町や大牟田市でも、学びを止めないため、端末持ち帰りを実現するための環境整備に向けて動き出しつつある。どちらの自治体も、すでに家庭に端末を持ち帰り、各家庭のWi-Fi環境整備の状況の確認と、Wi-Fiとの接続テストなどを実施していた。今後は端末持ち帰りを前提とした情報モラル教育や、運用管理の整備も求められそうだ。

 授業での端末活用は、初期編当時と比較していずれの自治体でも大きく進んでいるようだった。共通して見られたのは、プレゼンテーション資料を作成したり、動画や画像を編集したりといった、端末をクリエイティブな学びに生かしているシーンだ。初期編ではすでに主体的・対話的な学びを実現していた学校現場だが、すでにGIGAスクール構想が目指す“創造性を育む”教育を日常的に行えていた。

生徒自身の考えを積極的にアウトプット

Choice:Chrome OS

草津町教育委員会
起動の速さや軽快な動作が魅力のChromebook。その端末を導入したのが群馬県吾妻郡草津町だ。導入初期編では教員から戸惑いの声が上がっていたその端末も、中期編となる今回の取材ではすっかり使い慣れたものに変わったようだった。

草津町立草津中学校
草津温泉のシンボルである湯畑から徒歩10分ほどの場所にある中学校。取材前々日に雪が降り、校舎に雪化粧がされていた。Chromebookは学年ごとのキャビネット(充電保管庫)に保管しているが、学習に関する事であれば休み時間中に使用することも可能だ。

 レノボ・ジャパン製コンバーチブル型Chromebook「Lenovo 300e Chromebook 2nd Gen」を導入した草津町立草津中学校では、NTTコミュニケーションズが提供する教育クラウドプラットフォーム「まなびポケット」を積極的に活用し、授業での資料配付やワークシートの回収などに生かしている。

「特にアンケートが非常にスピーディに行えるようになりました。保健や授業評価のアンケートなどをまなびポケット上で簡単に配信でき、スピーディーに回収できます」と草津中学校 教頭の木村雅士氏。

 また、国語の作文の授業では、例年は手書きで行っていた下書きを、2021年度はChromebookで行ったという。「意外にも、子どもたちはキーボード入力に習熟しており、例年よりも早く作文を書き上げることができました。導入してから端末を使っているうちに、キーボード入力の速度が向上したようです」と木村氏は語る。

 実際に技術科では、Chromebookを活用して生徒自身が制作したラジオの評価を5W1Hに沿ってプレゼンテーション資料にまとめる授業を行っていた。技術科教員の町田広大氏は「生徒の中には、一から自分の考えをまとめることが難しい子供もいます。まなびポケットでは、他の生徒が作成しているプレゼンテーション資料を閲覧することができ、その情報を参照して自分の考えに落とし込むことができる生徒が増えてきました」とその効果を語る。端末の管理の部分では、群馬県内の小中学校に配置されている「教育DX推進スタッフ」による支援もあり、円滑に行えているという。基本的にネットワーク接続が必要なChromebookだが、授業で使用している中でのネットワークトラブルなど、大きな支障は起きていない。

 一方で「本校の教員や生徒は、まなびポケットの利用に慣れたことで、Google Workspace for Educationのホワイトボードアプリ『Jamboard』のようなChromebookで利用できる標準的なサービスをほとんど使っていません。これは生徒が高校へ進学したり、教員が他の市町村の学校に異動したりしたときにマイナスになると考え、徐々にGoogleのアプリケーションを使用する機会を増やしていっています」と木村氏は課題も話した。

技術科の授業では、生徒自身が作ったラジオの評価を5W1Hを踏まえてまとめた。コンバーチブルタイプのChromebookのため、モニター部を360度回転させればタブレットの形状で対象物の撮影が可能。
撮影した写真もプレゼンテーション資料に組み込んで分かりやすい説明を目指す。

動画編集などよりクリエイティブな活用へ

Choice:iPad OS

大牟田市教育委員会
福岡県の大牟田市立銀水小学校ではGIGAスクール構想で導入したiPadを積極的に活用し、日常的な授業に生かしている。1人1台の端末環境が実現されたからこそ実現できたプログラミングの学びや創造的な学びを取材した。

大牟田市立銀水小学校
2019年度から大牟田市教育委員会研究指定・委嘱校として、「主体的に問題解決する子供を育てる学習指導」をテーマにプログラミング教育・ICT活用の研究を行っている。階段の踊り場の掲示板などには、プログラミング的思考を支援する思考ツールの基礎や、プログラミング的な思考を実践するための掲示がされていた。

 銀水小学校は大牟田市教育委員会より研究指定・委嘱校に指定されており、取材はその研究発表会の日に行った。2019年度からプログラミング教育の研究を重ねていた同校では授業の中でもフローチャートをはじめとした思考ツールや、GIGAスクール構想で導入したiPad(第7世代)を活用して問題の解決に取り組むなど、プログラミング的思考を生かした活動を通して、主体的に問題解決する児童を育てている。

 中でも導入初期編当時と比較して目を引いたのが、導入したiPadの活用度合いだ。どの学級の児童も非常にiPadの操作に習熟しており、動画の編集作業や、画像への手描きの描き込みなどを難なく行っていた。銀水小学校 校長 城崎清彦氏は「教員も子どもたちも、非常にスキルアップしています。写真の加工や動画の編集はもちろん、学んだことを統合的にまとめてプレゼンテーションするような活動にiPadを活用しています」語る。

 銀水小学校における3年間のプログラミング教育・ICT活用の研究の指導・助言を行ってきた福岡工業大学短期大学部 情報メディア学科 教授 石塚丈晴氏は「プログラミング的思考を育てるためには、実際に端末を使ってプログラミングをする体験が非常に重要です。そのためには1人1台の端末環境は大前提でした。今回、GIGAスクール構想によってその環境が実現できたことで、より深いプログラミングの学びが行えるようになったと感じています」と銀水小学校の環境を評価する。

「子どもたちは使い方もスキルも非常に習熟してきています。ITスキルが上がった教員からは『このツールを使いたい』という要望も上がってきており、その対応に追われるなど嬉しい悲鳴を上げているような状態ですね」と城崎氏。現在、銀水小学校のiPadの管理は「Apple School Manager」で城崎氏自らが行っており、「業務の傍らに管理をするのはなかなか大変です」と苦笑交じりに話す。導入業者からのサポートには満足している一方で、企業からのソフトウェア提案は「実際にそれを使って授業で何ができるかといった具体例を交えて紹介してもらえると嬉しいですね」と要望を語った。

下級生が見て楽しめるような動画を作成することを目標とした4年生の総合的な学習の時間の授業。
段取りよく編集作業を進めるために作業手順をフローチャートで確認するなど、主体的に問題解決をする能力を生かした学びの中で、iPadを有効に活用していた。
同じく4年生の図画工作の授業では、イメージに合うような車のデザインを考える学習活動の中で、iPadを使って色や飾りの材料を描き込んでいき、修正しながら完成に近づけていった。

試行錯誤を繰り返しながら学べるメリット

Choice:Windows

柏原市教育委員会
教員にとって使い慣れたOSであるWindows端末をGIGAスクール構想での導入端末に選定した大阪府柏原市。導入したことで、教員からは「授業がやりやすくなった」と好意的な声が上がっているという。その学びを見ていこう。

 導入初期編の取材時、柏原市の小中学校では約90%の学校のクラスで、導入した日本HP製コンバーチブルPC「HP ProBook x360 11 G5 EE」を週1回は活用しているなど、積極的な端末活用が見られていた。中期編となる現在の様子を伺うと「週1回以上の活用は、100%の学校で実施されています。市教育委員会としても、学校と連携して効果的な活用を検証し、市内の小中学校に広げています」と柏原市教育委員会 教育部 指導課 指導主事の菰池孝彰氏は語る。授業では教科を問わずに使われており、特に学習活動ソフトウェア「SKYMENU Class」を活用し、発表内容をまとめてプレゼンテーションをするような授業が積極的に行われているという。

「試行錯誤ツールとしての活用も多いです。ICTのメリットはやり直しがたやすい点にあります。前述したプレゼンテーションもそうですが、例えば図工や美術の授業で、色塗りをして間違えてしまっても、Windowsのペイントソフトであれば、塗って確かめて、『違うな』と判断したらすぐに塗り直しができます。こうした試行錯誤する学びが、Windows端末を導入してから多く見られるようになりました」と柏原市教育委員会 教育部 指導課 指導主事の川口裕之氏。

 導入業者からのサポートは充実しており、企業および教育委員会内での連携を取りながら端末運用ができているという。また2021年7月から、柏原市教育委員会では予算を拡大し、ICT支援員の就業時間を、これまでの週に1回1日5時間から1日7時間45分の勤務に切り替えたという。これにより、教員は授業の後の放課後の時間にもICT支援員に相談ができるようになった。

「Windows端末を導入したことで、授業がやりやすくなったという声は多くあります。本市では教員全員に授業者用の端末を配布しており、先生たちにとっては、すでにWindows端末は教具の一つになっています。OSのアップデートの管理などは『Microsoft Intune』で一元的に管理しており、授業内で大きな混乱が生じたことはありません」と菰池氏。

 最近では授業での活用以外にも、Windowsタブレットで天気を調べ、朝の会で報告するような活用も行われており、端末の日常的な活用が進んでいる。

生徒たちは必要に応じてWindows端末に搭載されたカメラを用い、
写真も組み込みながら発表するケースもある。
キーボードによる入力に不慣れな小学校低学年の児童は手書きで文字入力をする場合もある。算数や数学のような、図形への書き込みが必要な授業ではタッチ対応の端末が有効に活用される。