混雑状況を来店者に可視化して3密を防ぐ
-Retail Tech- カインズ浦和美園店
感染症対策として、コロナ禍で求められている3密の回避。こうした場面にもIT技術の活用が進んでいる。感染症対策を契機とした小売店のデジタルトランスフォーメーション(DX)の可能性を、カインズ浦和美園店の実証事例から見ていこう。
IoT技術で“密”を可視化
新型コロナウイルス感染拡大を抑止するため、求められているのが“3密”の回避だ。「密閉」「密集」「密接」の頭文字から名付けられたこの言葉は、多くの公共施設、交通機関、小売店で共有され、3密を防ぐために独自の取り組みを実施しているケースも少なくない。関東地方を中心にホームセンターを展開するカインズも、そうした小売店の一つだ。同社は、カインズ浦和美園店でIoTを活用した新型コロナウイルス感染症に対応するソリューションとしてLocariseが提供する「locarise TRAFFIC」の新機能「Signal」の実証実験を2020年5月からスタートさせている。
カインズでは「IT小売業の実現」を目標に掲げ、2019年1月に「デジタル戦略本部」という新組織を立ち上げている。リアル店舗における顧客体験をデジタル技術によって大幅に進化させ、デジタルとリアルをシームレスにつないだ新たな顧客体験の提供の実現を目指しているのだ。そうしたデジタル戦略を進める上で、同社ではコロナ禍以前より店舗のマーケティング施策のため、レジの前を通過する人数などの店舗内の動線把握をしたいと考えていた。そうした検討を進めていく中で新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、来店者の動線把握の技術が、店舗内の“密”状態の把握につながるのではないかと考え、今回の実証実験をスタートさせた。
混雑時間をずらして来店
locarise TRAFFICは高精度な3Dセンサーカメラを使用し、小売店をはじめとした施設の動線把握などを行えるシステム。これらの機能を活用してリアルタイムに入場数を把握してデジタルサイネージでの入場規制表示を可能にしたのが、新機能の「Signal」だ。
カインズ浦和美園店では、正面入り口とサイクル売り場の2カ所の出入り口にlocarise TRAFFICの3DセンサーカメラとSignalの入場規制情報を表示するモニターを設置している。実証実験店舗として浦和美園店を選択した背景には、商圏や顧客層、ライフスタイルなどの理由がある。また、売り場面積も広いスーパーホームセンターとして展開していることや、カインズの店舗で提供しているサービスがほぼそろっており、活用効果を検証しやすいことから実証店舗に選ばれた。
実際の活用効果として、混雑状況を店頭やカインズのスマートフォンアプリで確認できるため、混雑時間をずらして来店する顧客が増えたそうだ。また、従来はレジを通過した客数のみをカウントしていたが、来店者数も把握できるようになったことで、より顧客視点でのサービス提供が可能になった。
現在は浦和美園店での効果を検証している段階だが、その効果によっては今後はlocarise TRAFFICの活用をさらに横展開していき、活用の拡充を図っていく方針だ。
アフターコロナを見据えた来客カウンターソリューション
-Retail Tech- Locarise
locarise TRAFFIC
もともと小売店舗向けの来店カウンターソリューションとして開発された「locarise TRAFFIC」。その機能の一つとして3密対策の「Signal」の提供をスタートした背景と、それにより生まれた新たなビジネスの可能性について解説する。
データで店舗運営に指標を
小売店舗で当たり前のようにデータを取る世界を作りたい――。そう語るのはLocarise 営業本部 本部長の濱田康彦氏。LocariseはEC需要の高まりの中で、リアル店舗が直面しているさまざまな課題を、同社の技術によって明らかにしていくことで、そのビジネスをサポートしていくことをミッションとしている。
そんな同社が提供する来客カウンターソリューションが「locarise TRAFFIC」だ。スイスに本社を置くXovisの3Dセンサーカメラ(ピープルカウンター)を店舗の入り口などに設置することによって、来店した人数や属性を高い精度で把握し、そのデータをマーケティングに活用できるソリューションだ。計測精度は99%と高く、1センサー当たり100㎡をカバーする。
濱田氏は「日本の多くの小売店は、POSレジの売り上げしかデータを見ていません。しかし、欧米ではリアル店舗の来店者の可視化を当たり前のように実施して店舗運営に反映させています。例えば店内に顧客が来店した際に、回遊しているのか、店内設計として意図した動線に沿って売り場に向かっているのかといった情報を可視化できれば、より効果的な店舗設計に役立てられます。来店人数を把握できれば、店舗のクローズ判断の指標にもなります」と指摘する。
locarise TRAFFICは、3Dセンサーカメラで撮影した場所に矩形を作成し、そこにフレームインした人のカウントや属性識別を行える。「フレームインした人の頭からつま先までを3Dセンサーカメラで捉えています。通常のピープルカウンターは頭しか見ませんが、本製品はつま先までを識別することで、髪型や服装などの特徴点を捉えてハッシュ化し、データを残せます。性別も識別できますし、どこを通ったかという動線も取得できます」と濱田氏。
混雑状況から行動変容を促す
こうしたlocarise TRAFFICの既存技術から開発されたのが、新機能「Signal」だ。本来は店舗オーナーがマーケティング指標として活用していたデータだったが、密集、密接、密閉の3密を避けるために求められる店舗の混雑把握に、来店者数をリアルタイムに把握できるlocarise TRAFFICの技術は有効であると考えた。「Signalの機能は4月2日ごろに発案し、約2週間で開発しました。店舗入り口に3Dセンサーカメラを設置して来店者数をリアルタイムカウントするところはlocarise TRAFFICの既存機能と同様ですが、Signalではそこでカウントした店舗内の混雑状況をタブレットやデジタルサイネージなどで自動表示できます」と濱田氏。
自動表示する画面は、緑、黄、赤色の3色で表示される。店内の混雑状況をパーセンテージで表示すると同時に、状況に合わせて入店を控えるような警告画面に切り替わる。 「画面によって混雑状況を把握できることで、来店者の行動変容を促せます。また、黄色表示になった場合は店舗運営者にメールで通知することも可能です。ある店舗では、メールの通知を受けたら、入り口にスタッフを配備して来店者への呼びかけを行うなど、混雑状況を示すエビデンスとして活用しているそうです。また、3Dセンサーカメラによって、マスクの装着有無の識別も可能です。マスクを装着していない来店者に対して、マスク装着を促す表示もでき、感染症対策に役立てられます」(濱田氏)
感染症対策からはじめるRetailTech
locarise TRAFFICのSignal機能は、小売店舗以外にオフィスでも活用されている。ある工場の社員食堂では、3密を防ぐためにSignal機能を活用し、従業員しか見られないWebサイトに混雑状況を表示できるようにした。従業員はその表示を確認して、混雑を回避した時間帯に社員食堂に向かうことが可能になる。
Signalはlocarise TRAFFICの1機能として提供されているため、locarise TRAFFICによる顧客の属性や動線把握など、本来のマーケティングツールとしての活用も可能だ。濱田氏は「弊社製品の代理店さまの多くは、まずSignalの機能から提案してlocarise TRAFFICの商談に結びつけているようです。コロナ禍によってさまざまな企業から3密を回避するためのソリューションがリリースされていますが、単体の機能だけでは新型コロナウイルスの感染収束後に使えなくなってしまいます。locarise TRAFFICでは精度の高い3Dセンサーカメラによってさまざまなデータ解析が可能になります。前述した性別の識別や動線から、滞在時間、混雑状況、天気や季節といった多様なデータをグラフィカルに表示し、そこから相関性を導き出せば新たなマーケティング施策につなげられるでしょう」とアフターコロナの時代を見通した小売店舗のデジタルトランスフォーメーション(DX)に有効な商材であることを指摘する。
日本のRetailTechをもっと元気づけたい。その想いを胸に、これからもLocariseは小売店舗のDXを支えていく。